詩にみる 苦痛 慰し 救い 感謝
(死と向き合うこころ 第5回)
- 高齢者の終末期
今回は、病のため44歳で永眠した解剖学者・細川宏さんを紹介します。
細川さんは「おおみそか」という詩を残しています。
「おおみそか」
一九六六年
君は僕に激しい肉体的苦痛と
いいしれぬ精神的苦痛
その他さまざまな致命的傷痕をのこしたまま
今去っていこうとしている
しかし同時に
君は実に貴重なものの数々を
この僕に教えてくれた
肉身や友人知人の数知れぬあたたかい情けはもとより
苦痛そのものの中に働く不思議な慰(いや)しと救いの心の働きや
人間のいのちの尊さとその無限の奥深さ
その他もろもろのことを
おぼろげながら僕に
教えてくれたのは君だ
僕は君をうらむべきか
それともお礼を言うべきか
今の僕には何ともいえない
ただあれを思い これを思い
とめどもなく流れ出る涙のままに
人知れぬ静かな孤独の一刻を今
去り行く君は僕を
そっと見逃してくれたまえ
『詩集 病者・花』(現代社版 1977年)