死とは、実態である生命がないところ
(死と向き合うこころ 第7回)
- 高齢者の終末期
宗教学者である岸本英夫さんは、旧制高校時代は理科におり、大学で宗教学に切り替えたのだと、脇本さんは語っています(平成12年2月6日 NHK教育テレビ「こころの時代」にて)。その岸本さんは、アメリカにいたとき悪性黒色腫という疾患を患い、以後、10年におよぶ闘病生活を送ったあと、腫瘍が脳全体に広がって永眠されました。
宗教学者でありながら「肉体の崩壊とともに自分の意識も消滅するのであって、死後の世界を信ずることは、自分の合理性が納得しない」と、死後の世界を強く否定するすがたは、岸本さんが書かれた『死を見つめる心』(講談社版 1973年)に詳しい。
紹介しましょう。
人間には無ということは、考えられないのだということである。
人間が実際に経験して知っているのは、
自分が生きて生活しているということだけである。
人間の意識経験がまったくなくなってしまった状態というものは、
たとえ概念的には考えても、実感としては考えられないことである。
その考えられないことを人間は、死にむすびつけて、無理に考えようとする。
そこで、恐ろしいこととなるのではないか。
私は、その絶望的な暗闇を、必死な気持ちで凝視しつづけた。
そうしているうちに、私は、一つのことに気がつき始めた。
それは、死というものは、実態ではないということである。
死を実態と考えるのは人間の錯覚である。
死というものは、そのものが実態ではなくて、
実態である生命がないところである、というだけのことである。
(『死を見つめる心』から)