抑制的な思考処理が脆弱になると……
(第5回)
- 認知症
認知症を抱えると、社会のなかで生きてゆくことが難しくなってしまう理由は、どこにあるのでしょう。理由のひとつに、思考における抑制システムの脆弱化があります。
たとえば、わたしたちの欲望や思考は無方向に膨らみますが、それをやってはいけないなと判断すると、わたしたちはやりません。そう判断するかしないかは、もっぱら経験によります。自らの経験や、見聞きして知った経験と照らし合わせるためです。そこには「したい」という促進系の作用に対して「ダメ」という抑制系の作用が働いています。
認知症の症状のひとつに「保続」というものがあります。いったん浮かんだアイデアが抑制されることなく、不必要に続くため、思考する作業が先に進めないといった症状です。
あるいは「迂遠」という症状も知られています。話が回りくどくなり、冗長になってしまう。たとえば、アについてあるところまでしゃべったとき、アはここまでにしておいて、次のイとのつなぎをどうするか考え、「ところが」とか「一方」とつないだあと、イに話題を移す。そのあと「そういったわけで」、ウでしめくくるという一連の説明をしたとします。こうした起伏のある説明をする場合、アについては一旦終わるという「抑制系」の作業が必要になってきます。イからウに移る場合も同じで、やはり抑制的な思考処理が頭のなかで起きています。その処理が脆弱になりあやしくなってしまうと抑制が効かなくなって、保読や迂遠が起きることになります。