脳の衰えと機能
(第10回)
- 認知症
悠然と泳いでいた姿をじかに見たこともないのに、砂浜に乗り上げたクジラを指さして、「クジラとは位置確認できない生命体」 であると、あなたは評価しますか? 活き活きと暮らしていた姿をじかに見たこともないのに、目の前にいる老いびとを指さして、「 認知症を抱えた老人は、社会で生きていけない生命体 」であると、あなたは評価しますか?
そんな話をしたら、次のように語った人がいました。
クジラの位置確認装置は劣化していないから、もっともな環境に移せば、ふたたび機能する。だからこそ、人海戦術によって救出されたクジラは、反響定位を駆使して、また大海原を回遊する。でも認知症の脳機能は劣化している。だから、もっともな環境に移したところで、もはや機能しない。
わたしは、考え込みました。そこで、まず問うてみたのです。クジラの装置は、位置確認をするという単一機能です。一方、認知症の脳機能は劣化しているから……と、脳の衰えをひとことで語るのは可能でしょうか。ヒトの脳は、計算、記憶にはじまり、思考、言語、学習など多くの機能を持っています。であれば、さまざまな脳の機能が一律かつ均等に変動しない限り、総合評価はできないはずです。
さらにクジラの話でもわかるとおり、機能とは何に対する機能をみようとしているのかが明示されなければ、評価できません。