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浜辺の診療室から

認知症と、ひとくちでくくらないで
(第12回)

  • 認知症

医療現場や介護現場では、“多彩な機能を持った脳” という概念をしばしば忘れてしまいます。気がつくと、認知症は一律であり、均質であるとの認識を持ってしまうようです。

かけっぱなしのテレビ、流しっぱなしの音楽に反応しない人の脳機能は、限りなくゼロに近いと思われている……たしかに車椅子に収まって、一日中静かにしている人たちがいます。どう仕掛けてもレスポンスがなかったり、ちぐはぐだったりといった理由から、問いかけない、リハビリしない、レクリエーションしないといった姿勢が、現場にはまだまだ見られます。

 

反面、多動な人に対して「手に負えません。先生、クスリを出してください」と訴える看護師と、即座に処方する医師たち。「困った行為は、クスリで対応しよう」と安直に処方箋を切る姿勢が、根強くみられます。じつはわたし自身も、病院時代にそうした対応をよくしてきました。状態が悪いから入院したのであって、そこにせん妄(一時的な混乱)があったとしても、良くする、良くなるという目的を達するためにはクスリを使うべきといった思いがありました。

これらはどちらも、認知症を抱える人が一律かつ均質であるとの思い込みによるスレチガイです。プロが集う現場でスレチガイが起こっているなら、在宅とよばれる場でスレチガウのは当然でしょう。

 

認知症を抱える人は、病態や症状がそれぞれビミョーに異なっています。今風のことばでいえば、多様性があるということですから、個別のプログラム対応が欠かせないことになります。

個別の傾聴と対話、個別のリハビリ、個別のリクリエーションという視点から出た対応がまず求められ、そののちグループ化するならよいのですが、「認知症だから〇〇しよう」といった対応から始まっていないか、もう一度、職場を冷静に見回してみる必要があります。

そんなことならわかってるよ、そんな余裕がこちらにはないんだといった声が聞こえてきそうです。でも、ちょっと待ってください。薬のミスマッチで症状が悪化していることはありませんか? お薬手帳を一度、開いてもらえませんか。たとえば代表的な抗認知症薬ドネペジル(先発品名アリセプト)は、認知症に対してアクセル的な効果を示します。元気がない、ことば数が減ったという方には期待できますが、もともと活動的だった人に投与すると怒りやすくなり、攻撃的になります。

一方、感情を鎮めてくれるブレーキ的薬剤としてはメマンチン(先発品名メマリー)があります。

 

 

 

認知症との診断が下ると、よく投与されるのが抗認知症薬です。その呼称に期待するからでしょうか、ともかく使い方さえ間違わなければ良くなるはずと思っている方が多いようです。

けれども、たとえば代表的な抗認知症薬ドネペジル(先発品名アリセプト)の添付文書には、以下の記述があります。

 

 効能効果)

 アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制

 レビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制

 本剤がアルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症の病態そのものの進行を抑制するという

 成績は得られていない。

 

同様の文章は、メマンチン(先発品名メマリー)やガランタミン(先発品名レミニール)にもみられます。つまり、良くなる話があるのは「症状」の進行が抑えられる点で、「病気そのもの」を抑える点については記述されていないのです。

そうした事情もあって、フランスでは2018年に抗認知症薬が保険適応から外されました。

以下は、2018年の新聞記事です。

 

認知症の治療に日本でも使われている4種類の薬が、フランスで8月から医療保険の適用対象から外されることになった。副作用の割に効果が高くなく、薬の有用性が不十分だと当局が判断した。日本で適用対象から外される動きはないが、効果の限界を指摘する声は国内でもあり、論議を呼びそうだ。仏連帯・保健省の発表によると、対象はドネペジル(日本での商品名アリセプト)、ガランタミン(同レミニール)、リバスチグミン(同イクセロン、リバスタッチ)、メマンチン(同メマリー)。アルツハイマー型認知症の治療薬として、これまで薬剤費の15%が保険で支払われていたが、8月からは全額が自己負担になる。(中略)日本老年精神医学会理事長の新井平伊(へいい)・順天堂大教授は「抗認知症薬は病気の進行を1年ほど遅らせることができ、薬がなかった以前と比べればそれなりの価値はある。薬をどう使うかは主治医とよく相談してほしい」という。

(抗認知症薬の効果「不十分」 仏、4種類を保険適応外に 2018年6月23日 朝日新聞

 

 

 

抗認知症薬をめぐる話題を読むと、認知症への取り組みは中核症状と呼ばれるもの忘れや実行機能障害といった ど真ん中の症状を改善することは現在流通している薬剤では難しく、困難な話だと感じます。「え? 進行を1年遅らせるだけなの?」といった驚きの声も、当時はよく聞かれました。

 

家族や周囲にいる人たちが困るのは、周辺症状(BPSD)と呼ばれる暴力・暴言、抵抗、妄想、不安、抑うつといった症状です。そこから罵倒が生まれ、排斥が生じます。けれども周辺症状を減らしていくことで、神経をすり減らしてきたそれまでの生活が、穏やかな生活に変わっていきます。

病型を念頭にし、症状やもともとの性格などを参考にして個別の処方を微調整していくことが求められているのだろうと感じています。

目次

生をめぐる雑文

新型コロナウイルス感染症

老いるということ

認知症

高齢者の終末期

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