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浜辺の診療室から

安心できる“場”
(第13回 終わり)

  • 認知症

認知症を抱える人にとって、もっともな環境――それは便利でおもしろく、効率を重視した、自動化された世界……ではありません。無意味につつかれたり、非難されたりすることなく、安心して生活できる環境のことをいいます。

 

認知症にみられる妄想や幻覚、睡眠障害、徘徊、不潔行為などは、周辺症状と呼ばれますが、もっともな環境に包まれて暮らすだけで、周辺症状は改善していきます。

なお「周辺症状」という用語は、認知症におけるふるまいや心理症状という意味でBPSDとの表記が推奨されますが、邦語のほうがイメージが湧きます。

 

 

認知症の方が安心できないとき、というのは、どういったときでしょう?

端的にいえば、自分の気持ちを逆なでされるときや、希望や思いが通らないとき、また意に反して指示されるときなどです。それならわたしたちだってありますよ、日常茶飯ですよといわれるでしょうが、健常な人は懐が深いのです。気持ちを逆なでされるような経験をしても、悔しいけれど自己消化していく力があるのです。

けれども認知症の方は、それがとても苦になります。歩む先を塞がれると、それをうまく迂回しようとは考えず、反射的に壁に突き当って強硬突破しようとします。ですから歩む先を塞がず、むしろ迂回路を示してあげるのがよいのです。

 

理想は、歩む先を「塞がない」ことです。そうすれば迂回路も必要ありません。

具体的にはどう接すればいいのでしょう。距離を保ち、本人の言うこと、やることを許容範囲内で認め、そのままにしておくのがよいのです。許容範囲を超えていると考えるかどうかは、見守る側の懐の深さ、つまり譲歩できるかどうかにかかってきます。どうしても許せない! ことかどうか、見守る側で話し合ってみてください。

 

 

認知症の方が安心できないとき、というのは、もうひとつあります。環境が大きく変わったときにみられ、“せん妄”と呼ばれます。たとえば入院が決まったときや、施設への入所が決まったときがそうです。病院を退院して施設に入ったときもよくみられます。

このような状況に置かれると、認知症の方はこころにさざなみが立ち、不穏な気持ちに支配されます。それまでには見られなかった易怒性(ちょっとしたことで怒る、手がつけられないほど怒る)、イライラ、固執性(こだわりが増す)が見られるようになり、周囲は困惑します。

対応は、これも逆なでされたときと同じで、許容範囲内で認めて静かな環境を保つことですが、意外に手ごわい例がよくあります。そのようなときはご家族の協力が効きます。毎日顔を見せてくれるだけで、大半の例では混乱していた状態が平常に戻っていきます。

しかし一部の例では、一時的に精神科薬の投与が必要になってきます。

 

 

 

ともあれ安心して生活できる環境は、わたしたち就労者や幼小児、学童にとっても欠かせません。誰も老いることにおびえ、学校に行くことにおびえながら生きてゆくのは、辛いことです。

機能の差が所詮、程度の差であるなら、大なり小なりわたしたち就労者も、機能不全者です。100%あれもできてこれもできるという人はいません。ですから誰かを頼り、誰かに助けてもらいながら、また誰かを助けることで生きていることを忘れないでください。

目次

認知症

高齢者の終末期

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心療内科

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生をめぐる雑文

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