高齢者の肺炎は、治療しないこともある
(老いをめぐる現代の課題 第2回)
- 老いるということ
2016年5月31日の医師向けニュースに、
「高齢者肺炎を《治療しない》選択肢に踏み込む」と題された記事がありました。
ガイドライン案の段階だから決定事項ではないのですが、
いずれ指針になっていくと思われる内容でした。
記事によると、肺炎は
成人市中肺炎(CAP)と、成人院内肺炎(HAP)または医療・介護関連肺炎(NHCAP)に大別して対応することになります。
成人市中肺炎とは、外来レベルでみられる肺炎のことです。
成人院内肺炎とは、入院後48時間内に発症する肺炎のことです。
医療・介護関連肺炎とは、介護施設入所者や入退院を繰り返す患者、透析などで頻繁に通院治療を受ける患者に起こる肺炎のことです。
病院で診断された肺炎は、
外来レベルでみられる通常の肺炎と、
そうでない肺炎を分けることが最初に求められます。
院内肺炎や医療・介護関連肺炎と判断されると、
患者の状態が“終末期または老衰”かどうかが、次に問われます。
そこで「イエス」つまり終末期や老衰に該当するのであれば、
「個人の意思尊重、QOL優先」という方向に進みます。
そこからは、もはや“治療”に向かうフローチャートは、ありません。
終末期や老衰に該当しない場合は、誤嚥性肺炎の有無が評価されます。
それ以降は従来の治療方針と同じで、治療する方向になります。
「原因菌や重症度評価よりも先に患者背景を考慮することを推奨する形になっている」と、記事にはコメントされていました。
患者背景によって治療方針を振り分ける理由は、ガイドライン作成委員の意見がわかりやすいでしょう。以下に引用します。
「寝たきりやサルコペニアがある高齢肺炎患者の場合、適切な抗菌薬治療が必ずしも生命予後を改善するとは限らない」
「30日後から1年後といった生命予後に影響する因子としては、抗菌薬治療よりも低アルブミン血症などの栄養状態や寝たきりといった宿主因子の影響の方が大きい」
(門田淳一医師 大分大呼吸器・感染症内科教授)
「治療が患者にメリットをもたらさない、あるいはむしろ害になるというならば、差し控えるという選択肢を常に想定するように考えを変えていくこと」
(河野茂医師 長崎大理事) 。
委員たちの意見は、
高度認知症がある施設入所者で肺炎を発症した例を観察した
米国からの報告がベースになっています。
そこには2つの結論が示されていました。
① 抗菌薬治療を「行わなかった」群は、治療を「行った」群に較べて、生命予後が低下していた。
② 90日以内に死亡しなかった患者群でQOLを評価した結果、「抗菌薬治療を行わなかった 患者のQOLが最も高く、積極的な治療を行うほどQOLは有意に低下」していった。
肺炎:向かって右側(左肺)の白い綿のような部分が肺炎。左側(右肺)中央内側の影も肺炎。