老いにまつわる病名
(老いをめぐる現代の課題 第7回)
- 老いるということ
近年は平均寿命が伸び、
男性は80.1歳に、また女性は87.1歳になりました。
同時に健康寿命といった概念も普及し、
男性は72歳前後、女性は75歳前後のようです。
ちなみに健康寿命とは、
医療や介護に頼ることなく、
自立した生活ができる生存期間のことをいいます。
さて、人がどういった理由で生を終えたかは、
「主要死因別死亡率の長期推移」をみるとわかります。
近年になって急上昇しているのが“老衰”です。
老衰は、第二次世界大戦前までは
肺炎や胃腸炎、結核、脳血管障害に続く主要な死因でした。
その後、老衰による死は激減します。
激減した理由は、
人は、病気か、事故で死ぬものであるとする考えが
主流になったからです。
いいかえれば老衰は、病名でもなく、事故名でもない
といった考えが広がっていったわけです。
統計を取る場合、死因は死亡診断書に書かれた病名によります。
けれども死にまつわる終末像をどう解釈するかで、
死因は変わることがあります。
たとえば、94歳の高齢者が誤嚥性肺炎の治療中に亡くなったとします。
その人に基礎疾患がなければ直接死因は肺炎なのだから
死亡診断書に肺炎と書く医師がいてよいでしょう。
その場合は、肺炎による死としてカウントされます。
一方、肺炎で亡くなったのは事実だが、
これほどの年齢でなければ治療に反応したはずなのだから、
死因は加齢による老衰として矛盾しないと判断する医師がいてもよいでしょう。
医師は、直接死因に老衰と書き、影響を及ぼした疾病名等の欄に肺炎と書くでしょう。
その場合は、老衰による死としてカウントされます。
ちなみに、それまで上昇を続けていた心疾患が1994年に“激減”したことがありました。
これは心疾患そのものによる死が減ったのでなく、
「終末期の状態としての心不全は、死亡原因としないこと」
とする通達が出たからと説明されています。
つまり脳血管障害や肺炎の治療をしていたがその甲斐なく、
最終的に死亡したといったケースでは、
少なからぬ医師たちが「最後は心臓が止まったのだから心不全」とみて、
直接死因「心不全」と書いていました。
けれどもそれはダメで、脳血管障害や肺炎といった記載をするようにとの指導があったため、
“とりあえず”の心臓死が減ったのです。