老いにまつわるメカニズム
(老いをめぐる現代の課題 第8回)
- 老いるということ
寿命が伸びると、死因も変わってきます。
近年は老衰が増えてきました。
老いると、なぜ死に至るのか……。
これは長いあいだ謎でした。
わかってきたことがいくつかあります。
まず大半の細胞には、分裂回数券があります。
つまり永遠に分裂することはできないのです。
次に、能動的な細胞死があります。
たとえば脳では、生後8ヶ月から神経細胞が消え始め、
20歳を過ぎると、1日に10万個という数の脳神経細胞が
能動的な死によって消えていきます。
脳神経系は、それぞれの細胞が高度なネットワークを組むことで
卓越した機能を発揮しています。
しかも可塑性があり、予備力も十分にありますから、
1日に10万個消えるといっても、
100歳になって20%が減っているにすぎません。
けれども老化に伴い、細胞が能動的に一つふたつと消えると、
ネットワークにほころびが生じるため、
脳はまだらに機能低下・機能廃絶を起こします。
8割が残存しているからと安心してもいられないのです。
わたしたちの指には、アヒルにみられる“水かき”がなく
それぞれの指が独立しています。
当初は“うちわ”のかたちをしていたものが、
細胞の能動的な死によって水かき部分が順次消えていくため
指だけが残るのです。
つまり能動的な細胞消滅には意味があるはずですが、
脳神経細胞の能動的消滅にはどういった意味があるのか
現代でも疑問とされます。
さらに老化にともない、
免疫系のコントロールセンターにある細胞に
数の減少と、機能劣化が生じてきます。
それまで黒には黒を、白には白をとジャッジしていた細胞群が
黒でも白でも、どうでもいいやといった反応をみせるようになったり、
勝手な情報を流し続けたりします。
老いると、なぜ死に至るのか……とする疑問は、
生まれた直後から、なぜ死に向かうのか
というべきかもしれません。