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浜辺の診療室から

高齢者施設への私見(№2)
本当の“やさしさ”って何ですか?

  • 介護・医療・福祉の現場から

介護の現場で時間を要する作業は、

排泄介助と食事介助です。

業務の削減をせねばならない事態が迫りつつあるいま、

可能かどうか検討する余地があるのは

“食事”だろうと個人的には思っています。

 

自宅でのケアが難しくなり、しかも介護度が重い高齢者が暮らす場で、

疑問に思ったことがありました。

たとえばおやつが必ず出ること。

午前に一度、午後に一度という施設もありました。

また食事を終えたら、すぐさまベッドで横になる対応もかなり見ました。

 

終始食べることをしている生活は、

インスリンを出す臓器としての膵臓と、消化器への負担を強います。

なぜせわしく食べてばかりいるのだろうと以前伺ったとき、

「楽しみが減った生活のなかで“可哀そう”だから」

との声が職員から帰ってきました。

いまでもそうなのでしょうか。

 

食べたあと横になると、逆流性食道炎の頻度は増します。

じじつ施設生活者には、この病態に対する薬剤を新規使用になる例があります。

認知症が進行してしまった例や、いよいよ老衰の域に入った例では、

消化管からの吸収力が落ちることで、低栄養が助長されます。

それを克服しようと総カロリーを増やしたり、維持しようとする姿勢は、

自然の摂理に背いた健常人のエゴでしかありません。

 

食事内容の見直しをする、おやつも含め、供与回数を減らせないか考える……

この時期だからこそ、考え直すことをしてもいいのではないでしょうか。

その結果、実施するかしないかは、管理者が決めればよいのです。

現場の総意をまとめるには、現状分析のほかに、

理詰めでの説明と、腹に落とす説明が必要でしょう。

これは技量の問題でなく、思想哲学の問題です――。

 

 

古いものが否定されて新しいものが現れるとき、

古いものが全面的に捨て去られるのでなく、

古いものが持っている内容のうち

積極的な要素が新しく高い段階として保持される――。

これはアウフヘーベン(aufheben ドイツ語)の意味です。

哲学者ヘーゲルが説いたこのことばには、

廃棄する・否定するという意味と、

保存する・高めるという二つの意味が同居しています。

 

ヘーゲルの弁証法に沿って、

現行スタイルの食事供与方法を、一度「否定」することで、

身体所見に寄り添った新たな供与方法という

再生成プロセスが生まれる――。

 

60分要した介助は、技量の力で55分に短縮できるでしょう。

しかし45分、40分、35分と短縮していくには、

仕組みそのものを変えていく必要があります。

思い切った舵切りができるかどうか。

アウフヘーベンできるかどうかが問われています。

目次

認知症

高齢者の終末期

老いるということ

新型コロナウイルス感染症

心療内科

介護・医療・福祉の現場から

生をめぐる雑文

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