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浜辺の診療室から

サイトカインストーム:細胞間相互連絡物質の嵐
2020年5月  

  • 新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症で厄介なのは、

生きていく上で必須の臓器が犯されていく点にあります。

肺炎や急速に進む肺障害によって、呼吸不全が助長されます。

微小血管の障害や閉塞による循環障害も起きやすく、

しもやけのような末梢循環不全や心筋梗塞、脳梗塞、

さらに敗血症にみられるような多臓器不全の報告も増えてきました。

 

自分以外の成分が体内に入ると、免疫システムが稼働します。

初動期、活動期、終息期を経て治癒に向かうわけです。

この点は細菌感染症でも、ウイルス感染症でも、寄生虫感染症でも同じです。

頭脳という装置を持たない免疫系は、

細胞から細胞へと飛ばされる細胞間相互連絡物質(サイトカイン)が

順次登場するメカニズムによって、反応が進みます。

細胞間相互連絡物質は、免疫系の中軸をなすリンパ球から出るので

以前はリンパ球連絡物質(インターロイキン、リンホカイン)との名で呼ばれていました。

その後、リンパ球以外のさまざまな細胞から出ることがわかり

サイトカインという名にかわっていきました。

その数は数百種といわれます。

ともあれ免疫反応は、

あるサインや、シグナルを受けて

細胞間相互連絡物質が順次飛び交うことで反応が進み、

やがては終息していく一連の反応は、

順序立てたカスケード(数珠つなぎの滝)のようだと表現されます。

 

しかし新型コロナウイルス感染症では、活動期から混乱が生ずることがあり、

細胞間相互連絡物質が一斉に出されるようになって飛び交い、

無方向にあふれるようになってしまう現象も想定されています。

サイトカインストーム(細胞間相互連絡物質)と呼ばれる現象です。

連絡物質が嵐のように飛び交うことで

自分自身の成分と異物を排除するメカニズムに混沌、混乱、破壊が生まれ、

現場はめちゃめちゃになります――。

 

戦争のとき医師は最前線でなく、衛生兵として最後方部隊にいました。

爆撃を受け、手足を削がれ、悪い衛生状態で化膿していく体に対し、

戦場にいた医師たちは、多少の医薬品やメスを持ち合わせていたところで、

何もできなかったはずです。

 

ときは流れ、21世紀になって高度先端医療がますます精鋭化しました。

けれども対応が後手に回って自己修復能が停滞すれば

どんな病態でも収拾がつかない状態になってしまう――。

新型コロナウイルス感染症の場合、

サイトカインのバトンタッチがされなくなった体内の戦場は、

方向性を失ったサイトカインが、ただただ“存在する”世界ですから、

病原体が居座ることで混乱や破壊が進行する臓器の末路は悲惨です。

医療としては、すぐれた薬品や高性能の機器があっても、

またすぐれた頭脳と体力が十分に供給できたとしたところで、

完全に負け戦になります。

目次

生をめぐる雑文

心療内科

新型コロナウイルス感染症

老いるということ

働き方(労働衛生)

認知症

高齢者の終末期

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