自然に任せた感染に集団免疫を期待する行為は無謀?
2021年2月
- 新型コロナウイルス感染症
ウイルス撲滅のためにはグランドデザインが必要ですが、
そこにワクチンを組み込むのであれば、
ワクチンに何を期待するかの説明が必要になってきます。
一般市民に説明する“人”は、市中の医師や実施医療機関でなく、
戦略を盾に展開する部署つまり国や行政が相応と思われます。
むろん説明するにふさわしい人を、国や行政が委託して構わないのですが、
個別の説明を市中の一般医師らに期待したところで、
こればかりはうまくいきません。
なぜなら現時点でワクチン戦略の全体像や社会的効能が示されていない以上、
説明のしようがないからです。
たとえば麻疹に対する生ワクチンは、
一度の接種で97%以上の感染防御抗体が産生されるから、
終生免疫を目的としており、その先に集団免疫が期待されます。
一方、インフルエンザに対する不活化ワクチンは、
一度の接種で感染防御抗体が産生されないため終生免疫は得られないが、
接種する人の数によっては集団免疫に近い効果が期待できるとされます。
新型コロナに対するワクチンは生でも不活化でもない
新しいタイプのワクチンです。
多くのことが分かってきた免疫学の世界は、
さらに日進月歩進化しています。
これまであたりまえだと思われたことが「?」となり、
「?」だったことのからくりが、いくつかわかってきました。
最先端の研究にいそしんでいる学者の意見には率直に耳を傾けたいと思います。
指摘事項を咀嚼して、多くの人たちで情報を共有し、
そのうえで戦略にどう参加するかを個々で決めればよいのです。
そこで指摘されている要素を、一つひとつ考えてみることにしました。
まずは大規模な感染者が一気に膨らむことはあるだろうか、といった問題です。
集団免疫が成立する典型的条件の一つに大規模な感染者の発生がありますが、
結論は、ノーのようです。
大阪大名誉教授・免疫学フロンティア研究センター招聘教授
宮坂昌之先生の意見(Web講談社版)を紹介します。
集団免疫の概念は、集団の6割が免疫を持っていないと感染が拡大していくというもの。 しかしこれまでの世界各地での感染事例を見ると、一定地域の中で6割もの人が感染したことはなく、 最大でも2割程度だった。 6割もの人が感染する事態は、なかなか起きない。主な理由は2つある。 一つは社会を構成する人は均一ではなく、免疫力の点から見ると弱い人から強い人まで多様だから。つまり弱い人から先に感染していくため、感染が進むほど抵抗力の強い人が残っていくため、感染が一様 に進むことはない。
もう一つは、感染が進むにつれて人々は警戒して、行動規制をして対人距離をとるようになるため、感染 のリスクは著しく下がっていくから。新型コロナウイルスの主な感染経路は飛沫感染なので、飛沫が飛び交う距離を避ければ――極端な例としてたとえば家に引きこもれば――まったく感染しなくなる。これらの2つの理由から、社会の中での感染拡大はあるところから進みにくくなり、やがて止まることになる。
集団免疫を得るための自然発生的爆発的感染に期待することは、
現実的に難しいとする意見です。
マスク着用を不要としたり、大規模な集合を許すなど
一切の防衛策を取ることなく、
自然に感染する人たちの拡大によって
集団免疫を獲得しようとしたスウェーデンでの初期失敗は、
現代の免疫学理論からすれば、着地点のない方策だったことになります。
また欧米と比べれば爆発的感染に至っていないニッポンでさえ、
医療へのゆがみがこれだけ生じている点を考えても、
自然に任せた感染に集団免疫を期待する行為は無謀というより、
儚い夢に終わる可能性が出てきました。