初期の誤りは、のちに常識となって花開くことがある
2021年2月
- 新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症で集団免疫が成り立つかどうかについては、
当初から議論がありました。
ワクチン接種を重ねても集団免疫は得られないといった報告が仮に出てきたとしても、
悲観的になったり、結論を急ぐ必要は必ずしもないでしょう。
自然科学や医療の分野では、怪我の功名だったり
瓢箪から駒が出ることがあります。
たとえばパルスオキシメータ。
自宅や宿泊施設で療法することになった人たちに貸し出される
あの四角い小さな医療機器です。
35年ほど前のある日、
血中の酸素が測れる小型機器の試供品ができたと、
T社の営業マンが呼吸器外来診察室にやってきたことがありました。
「動脈血分析による酸素分圧の代わりになります。
患者さんは痛い思いをしないで済みます」
との説明を受けた覚えがあります。
置いていかれた機器を使ってみたのですが、……まるで使えませんでした。
動脈血採取によって得られる値を反映しておらず、
じつに甘い値でした。
症状のない安定期にある人でも、
呼吸不全者のような低い値が出ることがしばしばありました。
……使えないね。どんな場面や患者で使うんだろうね――。
現場の医師たちは、思い出したように触れることがあっても
数値がカルテに残されることはありませんでした。
今から思えば、値の解釈に誤りがありました。
酸素解離曲線を理解することなく、
動脈血の酸素分圧=パルスオキシメータの酸素飽和度と思っていたからです。
手指が冷たいときは正しい値が出ない――そんなことも知りませんでした。
そうした説明は、当時の営業マンから
なかったのかもしれませんが、
あったとしても使用者側の医師たちに先入観があったように思います。
そうしてパルスオキシメータは、診察室から消えていきました。
21世紀になって小型化・軽量化されると
手術場や訪問医療の枠を超えて用途は急速に拡大し、
医療現場のスタンダードになりました。