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浜辺の診療室から

新型コロナのミニ検証
2022年 9月

  • 新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症は、現時点でも先が読めない状態が続いています。

現時点とは第7波がピークアウトし、4回目のコロナワクチン接種がそろそろ終わろうとしており、従来株とオミクロン株(BA.1対応型)がセットになった2価ワクチン接種が自治体に配布され、接種の具体的検討に入ったという時期です。

図は、2022年9月21日時点の東京(上図)および全国(下図)における感染者数です。

7月から始まった第7波は急速に終息へと向かっているようにみえます。

 

 

そのようなとき、2020年11月8日に放送された「NHKスペシャル 新型コロナ 全論文解読 ~AIで迫る 今知りたいこと~」が記事として2022年4月に再公開されたことを知りました。

番組のキャッチコピーは「NHKは新型コロナに関する20万本以上の論文をAIで解読し、冬が迫る中、何が注目を集め、世界でどのような研究が行われているのかを探った。さらに、AIが判定したトップクラスの研究者が私たちの疑問に回答。新型コロナウイルスの真実とは?」です。

 

番組は見ていないのですが、活字に起こされた記事を興味深く読みました。なにより意義があると感じた理由は、発表されてから2年弱という歳月が流れている点にありました。莫大なデータを超高速で処理したAIとその当時の予測が、どの程度当たっており、その後どうなったのか。

今であれば事後検証が容易にできると思えたのが、番組に惹かれた最大の理由でした。従って今回のコラムでは番組内容を紹介しながら現時点での検証を行い、簡素な考察をしてみようと思います。

さて番組では、以下に示す4つの話題が柱になっていました。

1.この冬、日本の感染者は急増する?

2.収束はいつ? 決定打は?

3.風邪とは大違い! 新型コロナ“真の脅威”

4.見えた! “究極”のウイルス対策

 

まず最初の話題から取り上げます。

この冬とは、2020年12月~2021年3月あたりまでのことを示すのでしょう。

この点についてはすでに結論が出ており、予測は当たったともいえ、外れたともいえます。

妙な言い回しになりましたが、同じNHKがデータとして開示している3つの統計グラフをご覧になれば、おわかりいただけると思います。まず最初は、国内の「感染者数」を示したグラフで、2020年2月から2022年9月までの推移がわかります。

 

感染者数の変化をみる限り、2021年冬季(↑↑↑部分)はそれまでと比べて急増していません。

もっとも縦軸は10万人単位であり、以下の2つのグラフとは桁が大きく異なるため、微増にしかみえない可能性があります。そこで別の資料から、2021年前半の記録を見てみることにしました。これは東京都の場合ですが、2021年冬季は確かに増えているものの一過性であり、同年2月以降は早くも減っていたことがわかります。

こうした結果から、感染者数についてはたしかに急増したともいえるが、感染爆発はみられなかったことがわかります。

(2021年冬季は         ↑↑↑↑  の部分)

 

下に掲げた2つの図は、同じ時期の「死亡者数」と「重症者数」のグラフです。2020年秋の予測は感染者数の急増でしたが、急増したのはむしろ「死亡者数」であり「重症者数」だったことが わかります(下図の↑↑↑部分が2021年冬季)。その後も、死亡者数と重症者数は、波状的に増えています。

 

 

ネイビー背景のグラフを3つ並べてみると、「感染者数」は2022年に入って爆発的に増え、その後6月あたりにいったん減少したあと夏季に急増していることがわかります。いわゆる第7波です。死亡者数も同時期に増えていますが、感染者数の増え方からすると穏やかです。

一方「重症者数」の場合、2022年は感染者数と似た動きがみられますが、ピークや波状的な動きはむしろその前の2021年に目立っており、2021年の総数はかなり多かったことがわかります。

つまり最初の話題については、さほど当たっていたとはいえず、その後予測を大きく上回る爆発的感染が起きているというのが実情です。

 

 

統計的な話があったあと、興味深い仮説が2つ紹介されました。

交差免疫の話と、マスクの話です。

交差免疫については、コロナによる死者が日本に少ないことの仮説として紹介されていました。

マスクについてはウイルスの拡散防止や感染防御だけでなく、マスクを着用することで有効な抗体が得られる可能性があるとの仮説でした。順番に触れていきましょう。

 

トピックその1)交差免疫という可能性

下のグラフをご覧ください。100万人あたりの死亡者数は、日本を含む東アジアの国々が欧米諸国やブラジルよりはるかに少ないことがわかります。これについては以前からファクターXといった呼称で、いくつもの推論が出た時期がありました。

それにしても、左に並ぶ6つの国と、右の5つの国では明らかな差異がみられます。そこで全論文に対してAIが「急上昇ワード」を検索したところ、日本の低い死亡率と深い関係がありそうなキーワードとして「交差免疫」なる現象が浮かび上がってきたというのです。

 

交差免疫の仕組みについて、番組では以下の説明がされていました。

「わたしたちがあるウイルスに感染すると、体内の免疫細胞は《抗体》と呼ばれる武器を作りだしてウイルスを撃退する。この免疫細胞の能力は、ウイルスが体内から消えた後も、一定期間保たれる。

その後、最初のウイルスとよく似た、別のウイルスが侵入してくると、攻撃力を保ったままの免疫細胞が再び抗体を作り出し、それがよく似たウイルスもやっつけて重症化を防ぐ。これが交差免疫の仕組み」。

交差免疫について東大先端科学技術センター 名誉教授の児玉龍彦先生は、コロナウイルスの仲間はこれまでとくに東アジア地域で頻繁に流行を繰り返してきたため、多くの日本人が新型コロナに効く交差免疫を持っているのではないかと考えていること、また先生たちグループの調査によれば、日本の新型コロナ患者50人ほどの血液分析を行ったところ、約75%の人が新型コロナに反応する交差免疫を持っている可能性があるとの報告も紹介されていました。

 

ちなみに交差免疫という生体反応は、ワクチンのときにしばしば話題になる抗原原罪と呼ばれる反応と、まったく逆の現象です。

抗原原罪とは、最初に接触のあった抗原X0に反応できた記憶が強すぎたり、反応が維持継続するため、似て非なる抗原X1やX2やX3といった新たな抗原が入ってきたとき、それらに対する的確な反応ができなくなる現象をいいます。新型コロナでいえば従来型(武漢型)がX0であり、デルタやオミクロンなどの変異型がX1やX2やX3であるというわけです。初期の防衛スタイルが、のちの防衛スタイルの邪魔をするといった抗原原罪は、免疫反応では普遍的にみられる現象ですが、ワクチンを複数回接種した人が、未接種の人より容易に感染するのではないかとの話が出たとき、免疫学者が唱えた学説として知られるようになりました。

ともあれ、最初に反応した場合と似たウイルスが入ってきても「うまく対応できる」のが交差免疫であり、逆に最初に反応したウイルスに似たウイルスが新たに入ってきたとき、最初の反応にスイッチが入ってしまうため、的確な免疫反応が遅れてしまうことで「うまく対応できない」というのが抗原原罪です。

新型コロナウイルスが体に入ってきたとき、どのような反応が起きているかは、たとえば東南アジアに住む人に対して既存コロナウイルスにおける交差免疫の有無をチェックしたり、既存のm-RNA型ワクチンを複数回受けた人たちは、本来の感染を拾ったとき抗体産生が遅れてしまう現象がホントウに起きているのかなど、広角的かつ緻密な検証を積む必要があるでしょう。

 

トピックその2マスク着用でコロナ免疫が獲得できるかも、という可能性

マスクと免疫の意外な関係を明らかにしたのは、アメリカの病院で行われた研究です。「特別な隔離を行わない状況」で新型コロナに感染した軽症の患者が入院している間、「病院のスタッフなどにどれほど感染が広がるか」を調べたというものです。

研究に協力した37人は、常にマスクを着用しており、3週間が経ったところで13人の感染が確認されました。しかし、症状が出たのは1人だけで、他の12人は「無症状」でした。

 

これまで集団感染の調査では、マスクをしていないと、無症状で済む感染者はおよそ20%にとどまると報告されていましたが、全員がマスクを着用していたこの研究では、無症状である人の割合が92%にまで達していました。さらに無症状で済んだ全員が、新型コロナに対する免疫力を獲得しており、無症状の12人に確認された抗体量は、一般的な抗体検査のじつに3倍もあったこともわかりました。

これらの結果をどう説明すればよいのか。

報告者たちは、マスクを通じた「微量感染の繰り返し」で免疫力が高められた可能性を示唆していました。具体的には、まずマスクをしていると吸い込むウイルスの量が減り、症状は軽くて済むと考えられること。さらに、この「微量の感染」によって、免疫細胞はウイルスを攻撃する抗体を少しだけ作りだせるようになること。その後も「微量感染」が繰り返されることで免疫細胞は少しずつ訓練され、作りだせる抗体の量が順次増えていき、結果的にコロナに対する免疫が獲得できたのではないかというのが、報告者たちの推論でした。

 

 

興味深く読めた内容は、以上でした。

そのため以下に紹介されていた要素は、あっさりした紹介に留めます。

冬場と感染拡大に関してAIがはじきだした上位3つのキーワードとして「ビタミン・湿度・気温」が紹介されていました。多くの論文でビタミンDが「免疫力を維持する働き」に注目しているとされ、冬場、日照時間が短くなると体内のビタミンDが減り、感染拡大のリスクが高まる可能性が指摘されていたとの説明がありました。 さらに湿度と気温については、気温と湿度が「ウイルスの生存時間」を大きく左右するという点を、多くの論文が重要視しているといった紹介もありました。

けれども新型コロナ感染症は冬季に多く、夏季に少ないといった仮説は、もはや崩れています。感染者数や死亡者数は、季節の変動より、ウイルス変異との相関がはるかに強いことはネイビー背景の3グラフからも明らかです。新しい変異株が生ずれば、季節や気温、湿度と関係なく流行は拡大します。気温や湿度の話は、ウイルスが変異しないという条件下なら言えるかもしれませんが、変異を常套手段とする新型コロナではピントがぼけている印象を受けました。

 

 

二番目の話題である収束時期や決定打については、最も多かった回答が「2021年8~9月」(4人)。そのほか、2021年以内のどこかが2人、2022年末が3人、収束しないと答えた人も1人、といった結果だった。これについては意見を述べた人が少数であること、2021年夏には収束していなかったことを考え、記事紹介のみとしました。収束時期や決定打については、いまだ検証できずといった結論になります。

 

三番目の話題である新型コロナの“真の脅威”については、「風邪とは大違い!注目の症状《脳の霧》」とは?」との副題がついていました。感染を契機として出現する症状は全身のいたる所に及んでおり、その数は100以上。下痢、不整脈、目の充血、さらに脳に関わる、脳卒中や幻覚など多彩です。普通の風邪では考えられないような症状も多く、なかでも研究者の注目が急速に集まっていたのが“ブレインフォグ”「脳の霧」です。頭にモヤがかかったようにボーッとなる症状で、授業を受けていても、内容を記憶することや、文字を書くことが難しくなってしまったとの事例紹介もありました。

認知機能に大幅な低下が見られた新型コロナ患者では、脳の中心部、記憶力や感情などを司る場所で炎症が起きていたとする英国の研究が紹介され、脳の中心部「脈絡叢(みゃくらくそう:脳に異物が侵入するのを防ぐ、大切なバリアの役割をしている)」と呼ばれる場所にある「ACE2の突起」に新型コロナウイルスが接着侵入することで血液と脳に交流ができてしまい、そこからウイルスや異物が脳に侵入。炎症が引き起こされ、ウイルスが消えた後もけん怠感、思考力・集中力の低下が続くとの概説がありました。

次の上段図はNHK資料にあった脈絡叢の説明図です。もう少し詳しい図として「視覚解剖学 Visual Anatomy」にあった図を下段に引用添付しました。

「脈絡叢(英:choroid)は 脳脊髄液を産出し、脳室に分泌する重要な器官である。また脈絡叢上皮細胞は毛細血管の血管内皮細胞とともに血液脳脊髄液関門(blood-cerebrospinal fluid barrier、BCSFB)を形成する」というのが、解剖学に基づいた脈絡叢の説明です。

 

 

最後の四番目の話題である“究極”のウイルス対策については、加湿と222紫外線についての紹介でした。室内の湿度は40~60%の間に保つのがよいこと、鼻を乾燥させず冷やさないためにもマスクは有用であること、波長222nm(ナノメートル)の紫外線は、皮膚の奥までは届かず、人体に悪影響を与えないが新型コロナウイルスを死滅減少させる力があることなどが紹介されていました。しかしその波長の紫外線を取り出すノウハウや機器には触れられていませんでした。

 

 

まとめ)

仮説ではありますが、この特番で興味深かったのは、トピックその2にあるマスクの話です。なかでもマスク着用で無症状の人に抗体が多く作られていたという報告は、今後この感染症を克服したり、ウイルスと共存する社会を考えていく上で参考になるでしょう。

体内にあるウイルスがゼロなら、感染は成立しません。体内にあるウイルスが莫大になると感染した状態がみられるようになります。ウイルス量には連続性がありますから、たとえば莫大というときの量が100だったとして、それなら5ならどうなのか、10だとどうなるのかといった話を想像してみましょう。体内に入った5や10といった微量のウイルスに対して抗体が順次用意されていくなら、感染してはいるが発症しない、感染したが軽症で済んだ、重症化しつつあったが自然に治癒したといった現象への説明が可能になってきます。

 

この話は、水痘/水疱瘡/帯状疱疹をもたらすウイルスによる感染症とよく似ています。

日本では2014年10月から水痘ワクチン(1歳になったらなるべく早く1回目を接種し、その6 – 12か月後に2回目を接種することが推奨)が定期接種となり、水疱瘡にかかる子どもが激減しました。巷に浮遊していた水痘ウイルスが消えることでブースター効果が得られなくなり、体内の水痘ウイルスに対する免疫が知らぬうちに低下していくため、帯状疱疹は今後多くの人が発症するだろうと考えられています。それまでは水疱瘡にかかる子どもさんたちが多数いたため、オトナたちも知らず知らずのうちにウイルスにさらされていた――つまり微量のウイルスが体内に入ることで、昔に感染したことを記憶していた免疫細胞系がその都度動くことによって、水疱瘡ウイルス=帯状疱疹ウイルスに対する免疫系が覚醒していたというのが、2014年まででした。

しかし、こうした刺激がピタッとなくなることで、水痘ウイルスに対する免疫系が冬眠状態≒仮死状態になってしまい、このウイルスに対する防衛反応が機能しなくなっていくようなのです。1995年から水痘ワクチンを小児期に定期接種しているアメリカでは、高齢者に帯状疱疹が増えており社会問題になりました。そのため日本でも帯状疱疹ワクチンの話が急に出てきたのです。

 

まとめとしてもうひとつ触れておきたいのは、感染をもたらすメカニズムについてです。番組で紹介された交差免疫は抗原原罪と逆の反応であることから、医療関係者のなかには抗原原罪に対して ややヒステリックな意見を展開する人もいます。

たしかに2つは相反する免疫反応ですが、双方とも起きている可能性はないでしょうか。新型コロナウイルスは抗原変異が頻繁なので、ワクチンで既存株による防衛をしてもすり抜けられてしまったのは抗原原罪のためであり、一方で容易に感染しても、重症化する人の総数が欧米諸国と比べれば少ないのは交差免疫があるから、といった説明は可能ではないでしょうか。

第7波の後半は、複数回のワクチン接種を終えた高齢者施設や基幹病院、一般の会社や家族内感染などかなりの人が感染しました。けれども想像をはるかに超えた感染者数の割に重症化した人はさほど目立ちませんでした。抗原原罪と交差免疫が共存している可能性を考えてみてもよいのではと思えた理由は、発熱外来を通して経験した第7波の印象にありました。

 

 

「NHKスペシャル 新型コロナ 全論文解読」を検証した結果は、以下のとおりです。

① コロナの行く先は、簡単に読めそうにない。今後流行する時期や収束(終息)する時期は予測困難である。

② いわゆるコロナ感染症による後遺症は、ウイルスが侵入できる場所が全身にあるため呼吸器症状にとどまらない。なかでもブレインフォグと呼ばれる脳に霧がかかったような状態は厄介である。

③ マスク着用は予防的見地から推奨されるが、治療的見地からも有効である可能性が示唆され推奨される。

④ 交差免疫や抗原原罪といった免疫反応は興味深いが、感染後やワクチン接種のあとどのような免疫反応が起きているかは、従来からよく知られた免疫学でうまく説明できない部分が多い。そのことが予防戦略や治療戦略のネックになっている。

目次

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新型コロナウイルス感染症

老いるということ

働き方(労働衛生)

認知症

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