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健康長寿サロン

入浴したがらない高齢者 

入浴する回数が減っている、またはまったく入浴しようとしない高齢者に手を焼いている。

年を取ると高齢者の多くが入浴したがらなくなるのか? だとしたらその心理は何か。また入浴の必要性などについて概説を。

 

 

高齢者が入浴を嫌がるようになる背景には、認知力の低下や筋力の低下が影響している場合もありますが、単なる気まぐれともいえない複雑な心理的・身体的要因が潜んでいます。

入浴を拒否する高齢者の心理を紹介したあと、入浴しない日々が続くとどうなるかについて説明していきます。

 

 

入浴したがらない高齢者の心理

入浴を必要と感じていない

もっとも多い理由のようです。

認知力が大なり小なり低下していると、最後に入浴したのがいつなのか覚えておらず、あまり時間が経っていないような気がして、まだ入浴しなくても大丈夫と感じてしまいます。

また、判断力や思考力が低下していくと、体の汚れや体臭を認識できず、入浴の必要性を感じられなくなります。そのため説得を試みても反感を買ってしまうだけで、なおさら拒まれてしまうことになります。

ですから始めから入浴という表現は避け、なにかのついでに浴室に誘導するとスムーズに入浴できることがあります。たとえば、「ズボンを脱いで塗り薬を塗るので、あちらに行きましょうか」「足の爪が伸びているから切りましょう」といった声かけをしてみましょう。すると自分でも必要と感じていた軟膏処置や爪切りが終わったあとなので、ついでならいいかとの心理が働くようです。じじつ入浴の前に本人が希望することを提供することで、あれほど嫌がっていた入浴がスムーズに行えるようになったケースがありました。

ほかにも認知症が進行していると「お風呂」の意味を理解できないことがあります。その場合は「疲れをとるためにお湯に浸かりませんか」「汗を流してすっきりしましょう」などとさりげなく気持ち良さを伝えるような声かけがおすすめです。

 

 

入浴が面倒くさい

「入浴は入るまでが面倒」とおっしゃる方が多いようです。また本当は入りたいけど、移動や脱衣と入浴の一連の流れが面倒くさいと、拒否をしている場合もあります。

入浴は、さまざまな手順が組み合わさっています。体力が低下している高齢者にとっては、一つひとつが大変な作業です。認知症の人にとっては、とても複雑な行為に映ります。

認知症の症状の一つに、行動を起こすときの踏ん切りがつかないことがありますが、それも原因のひとつです。

また記憶障害や実行機能障害があると、自分で考えながら手順をこなしていくことは、かなり難しい行為となります。入浴は気持ちが良い行為とうすうすわかってはいても煩わしさが先立ち、結果として拒否という行為が生まれます。

無理に入浴してもらおうとせず、まずは週一度の清拭から始めてみるのも手です。

 

 

入浴に対して負のイメージがある  

「下着を脱いだ際に失禁の汚れを見られた」「洗い方に口を出された」「無理やりお風呂に誘導された」といった経験があると、介助側はそんなつもりがなくても、羞恥心や不満が刻み込まれ、入浴自体に負のイメージを植えつけてしまうことになります。

入浴に対して負のイメージを植え付けないためにも本人の自尊心を傷つけないよう心掛けましょう。

ほかにも、洗い残しがあったり、どこか洗い忘れがあるとつい指摘したり、手伝ったりしがちですが、控えましょう。とくに不衛生でなければ、なるべく声をかけず見守り、介助は数回に一度程度にしてみましょう。

 

 

入浴のペースが合わない

温泉や銭湯に行くと、髪から洗う人、体から洗う人、先に湯船に浸かる人とさまざまな入り方があります。また、湯船に浸かっている時間やお湯の温度など、個人差や好み、決まったルーチンやルールがあるケースは珍しくありません。ですから長年続けてきた自分の入りかたと、施設や新たに過ごすようになった家族で決められた入りかたになじめない人がいることも知っておいてください。

そのほかデイサービスに行かれている方が拒否をする場合、「男性スタッフの介助を拒否する」「大勢の入るお湯には入りたくない」といった理由が潜んでいる場合もあります。そのときは「背中が赤くになっているようだから、看護師さんにみてもらいましょう」など医療的な処置を軸にした声かけをすると、受け入れやすくなることがあります。

高齢者の皮膚は、痒みやトラブルが多いので普段肌を気にしない方も、看護師さんに見てもらえるという安心感が得られるため、入浴につなげやすくなります。

 

 

記憶の混乱・時間感覚の低下

「昨日入ったばかり」と本人が思っている場合、実際には数日入浴していなくても拒否することがあります。

 

 

入浴しないと生ずるトラブルあれこれ

【身体への影響】

皮膚トラブルが発生しやすくなる

高齢者の皮膚は若年者に比べて薄く乾燥しやすいため、皮膚のバリア機能が弱くなります。

このためちょっとした刺激でも皮膚炎を起こすことがあり、入浴を怠ることで状態はさらに悪化します。皮膚に汚れや皮脂が溜まりやすくなり、肌の健康を損なう可能性があります。そうなると湿疹、かゆみ、感染症が起きやすくなります。具体的には、皮膚のバリア機能が低下し、毛嚢炎や皮膚真菌症などの皮膚トラブルが起きやすくなります。また毛穴に汚れが詰まり、そこに細菌が繁殖することで化膿やかゆみを伴う炎症を引き起こします。

さらに免疫力が下がることで風邪などにもかかりやすくなり、体力の低下や倦怠感の悪化にもつながります。水虫やいんきんたむしなど、カビ(真菌)感染症のリスクも増すため、皮膚疾患が慢性化するおそれもあります。とくに糖尿病や自己免疫疾患などの持病を持つ人にとっては、傷の治癒が遅くなり、重症化する可能性もあるため注意が必要です。

 

さらに皮膚の炎症や褥瘡(じょくそう:床ずれのこと)などの深刻なトラブルにつながることもあります。皮膚は体を外界から守る重要なバリアですので、入浴による清潔保持を軽視しないようにしましょう。

 

 

血行不良を引き起こす可能性がある

入浴は温水の刺激によって血行を促進し、体全体の血流を改善する効果があります。とくに高齢者の身体に有益といわれる理由は、血液循環が良くなる、手足の冷えが防げる、肩こりや腰痛の予防になるの3点です。ですから入浴をしなくなると血行不良が進行し、体の末端である手足が冷たく感じることが増えてきます。

さらに血行不良が原因で、慢性的な疲労感や倦怠感を引き起こす可能性もあります。

 

 

筋力低下や関節のこわばりを招く

入浴時における湯船への出入りや体を洗う動作そのものが、高齢者にとって軽い運動になります。高齢者にとっては筋力の維持や関節の柔軟性を保つのに役立つ効果があるということです。

入浴をしない期間が続くと、筋力低下や関節のこわばりが進行しやすくなります。長期化すると体を動かす機会が減り、さらに動きづらくなるという悪循環に陥るリスクもあります。

 

 

免疫力が低下する恐れがある

入浴による温熱効果は血行促進だけでなく、免疫力を高める働きも持っています。身体が温まることで免疫細胞の働きが活発になり、病気に対する抵抗力が向上するといわれます。

つまり入浴を避け続けると体温の調整がうまくいかず、免疫力が低下するリスクが増します。結果として風邪や感染症にかかりやすくなり、回復も遅くなる可能性があります。

 

 

 

【精神面への影響】

不安感やストレスが増加する

入浴にはリラックス効果があり、心身をリフレッシュさせる役割を果たします。お湯に浸かることで筋肉が緩んで血流が良くなるため、心も落ち着きやすくなります。

しかし入浴をしない生活が続くと、心が休まらずストレスや不安感が増す傾向があります。特に高齢者は日々の些細なことでもストレスを感じやすく、心のケアが重要です。

 

 

睡眠の質が低下する可能性がある

夜間の入浴は体温を上昇させた後、徐々に冷めていく過程で自然な眠気を促します。これが深い眠りを作る仕組みです。入浴によるリラックス効果は、良質な睡眠に直結しています。

逆に入浴をしないと眠りに入りづらくなり、夜中に何度も目が覚めるといった睡眠障害が起こるリスクもあります。高齢者にとって睡眠は健康維持の重要な要素です。

 

 

うつ症状が現れることがある

長期間入浴しないことで、身体だけでなく心の健康も悪化することがあります。清潔でない状態が続くと自己嫌悪や無力感が強まり、結果としてうつ症状が現れることがあります。

とくに一人暮らしの高齢者さんにとっては大問題。他者と接する機会が少なくなるため、孤独感や無気力感が高まることが原因で、精神的な不調を感じやすくなります。

 

 

【社会的な影響】

孤立感が強まる可能性がある

「入浴をしない→清潔感の低下→人と会うことを避ける」の悪循環で、結果として社会的な孤立感が強まることがあります。外出が減り、他人と触れ合う機会が少なくなると、さらに孤立してしまうリスクも。特に高齢者は家族や友人との交流が少なくなることで孤独感が増し、精神的な不安定さが増す傾向にあります。

 

 

周囲とのコミュニケーションが減少する

入浴しないことによって、見た目や臭いに自信を持てなくなり、人と会うことを避けがちになります。入浴できない期間が続くと、日常的なコミュニケーションの機会が減少し、社会的な孤立が進む原因になります。会話が減ることで脳の刺激が減り、認知機能の低下が進むリスクも高まります。

 

 

不衛生による他者とのトラブルが発生しやすくなる

清潔を保てないと、見た目だけでなく体臭の問題も発生しやすくなります。とくに夏場は汗と皮脂、老廃物が混ざることで、強烈な体臭が発生します。また脇や足、背中など汗をかきやすい部位では臭いがこもりやすくなり、衣類にも染み付いてしまいます。さらに、皮膚の表面に常在する菌が皮脂を分解することで臭いが強くなることもあります。

一方で頭皮の角質が剥がれ落ちることでフケが増加し、肩や背中に白い粉のようなものが目立つようになります。これにより他人との距離感が生まれ、職場や学校などの対人関係において気まずさや孤立を招く恐れもあります。

 

またフケや皮膚の落屑は、目にみえない小さなダニ(コナヒョウダニ、ヤケヒョウダニ)の好物です、このため生活環境にダニが増えていきます。周囲の環境にゼンソクの人がいると発作が誘発されやすく、トラブルのもとになりやすいことも知っておいてください。

 

ともあれ不潔な状態が続くと、周囲の人々とのトラブルが発生するリスクが増し、場合によっては対人関係が悪化するリスクが増します。不衛生な状態は、高齢者自身の尊厳や自信を失わせるだけでなく、周囲との良好な関係を保つ上でも無視できない問題となります。

 

 

毎日がムリなら週に3、4回、最低でも週に1~2回は入りましょう。

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