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健康長寿サロン

血液検査結果の読み方
(高齢者版 その1 電解質異常)

お題)

血液検査の結果、低ナトリウム血症といわれた……とのリクエストがありました。

 

主治医先生から血液検査結果表を渡されて、説明を受けた方は多いと思います。一方で、結果表が手元に何枚もあるのに、中身がわからず、そのとき何をいわれたかも覚えていないといった声もよく耳にします。今回はリクエストがあった低ナトリウム血症と貧血についてお話しします。

 

ナトリウムは電解質です ……で、電解質とは? 

電解質というのは、細胞の内外にあり濃度差を持ち、体の恒常性に深く関係しています。たとえば、Na(ナトリウム)はいわゆる“塩”であり、生命の根源である海水の主成分です。人間を含めた生物の「細胞外液」を組成するもっとも主要な電解質です。K(カリウム)は、生体内で98パーセントが「細胞内」に存在し、その細胞内外の濃度比によって細胞膜電位を形成し興奮性に関与しています。

Ca(カルシウム)は99パーセントが骨に存在し、残りの1パーセントが細胞内や血液中に存在します。Mg(マグネシウム)は、細胞内で代謝に関連し、細胞外では神経・筋伝達活動等に関わり、主に骨に70パーセント、筋に20パーセントあります。細胞外液には1パーセントのみです。

これらの物質は、正常状態で腸管より吸収され、いろいろなホルモンの調整を受け、腎臓で再吸収あるいは排出されます。健常人では体内のバランスが崩れることはまずありません。しかし老化や病的状態で血中濃度の変化が許容量を越えると多彩な症状が出てきます。

 

 

高齢者に電解質アンバランスが起きやすい理由 

電解質が乱れやすい疾患としては、内分泌疾患が代表です。甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症では低K血症)、副腎のアルドステロン症(高Na血症と低K血症)、尿崩症(低Na血症)などです。

疾患以外だと、電解質の取りすぎ(濃い味、くだものなど)、長期間の激しい下痢症あるいは水分摂取困難による脱水症、腎機能低下があります。このような異常な電解質濃度の状態が続くと、さまざまな神経・筋障害が出てきます。

さらには、投与された薬剤のために電解質異常を起こす可能性があります。特に上記の疾患があると、治療を目的として投与された薬剤によって異常が生ずることがあります。

慢性的に進行していった場合は、異常があっても症状が目立たず、血液検査をしてはじめてわかることも珍しくありません。

 

電解質異常をもたらす薬剤として注意が必要なものは、利尿剤(心不全や浮腫み対応で投与される)や甘草(多くの漢方に含まれる)が代表です。もともとの病気が心不全、腎不全、高血圧症ですと、これら利尿剤は好んで処方されます。

また、甘草(カンゾウ)は、漢方薬である葛根湯、甘草湯、麻黄湯、柴苓湯を含め、多くの漢方に配合されており、低K血症を誘発するリスクがあります。つまり漢方薬は安全であるといった一律な考えは危険です。

よくある例は、他医で漢方薬を2,3種類処方されており、さらに主治医が利尿剤を併用したら相乗効果で低K血症を引き起こしたというパターンです。漢方薬と利尿剤の併用で、四肢麻痺となって救急搬送される例はしばしば経験するところです。

こういった話は電解質異常に限らず、市販されている健康食品やサプリメント類によって引き起こされることがあるため、サプリメントが大好きな人は注意が必要です。

 

 

何に気をつければよいか? 

1.内服薬が変更になったあとは、数ヵ月ごとの定期的な採血検査を行ってもらい、電解質を含めた一般生化学データが正常値であることを確認するようにしてください。また、異常を感じたら早期に主治医に相談することも大事です。症状が改善しないか、進行性の場合は別の医療機関を受診してもよいでしょう。必要以上に気兼ねする人がいますが、心配は不要です。電解質異常は命に係わることがある点を理解した上で、医療機関にてダブルチェックを受けたと思えばいいのです。

 

2.処方された薬の服薬手帳(お薬手帳)を必ず持参し、受診のときに医師に提示するようにしてください。また、これまで使用して不都合が生じた薬剤名は手帳に明記しておくことも大事です。

さらにお薬手帳は、一冊にする点も覚えておいてください。よく医療機関ごとの手帳を持っている人をみかけます。これではどの医療機関からどんな薬が出ているかのカクニン漏れが生じます。

 

3.特に服薬する薬が多い人は、いくら自己責任といっても市販薬や、健康食品やサプリメントを安易に利用しないようにしましょう。どうしても利用したい場合は、かならず主治医に相談してみてください。

 

 

こぼれ話 その1)セイヨウオトギリソウ

セイヨウオトギリソウは、別名セント・ジョーンズ・ワート(St. John’s wort)とも呼ばれるハーブの一種で、欧米では抗うつ薬として広く処方されている。日本では健康食品として市販されているため、ある種の薬物においては相互作用に十分な注意が必要。

癒しやリフレッシュを目的とした健康食品やサプリメントのほか、ハーブティなどに含まれていることがある。普通の食事から摂取されることは、まずない。

セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)は、ある種の薬物の効果を減弱させる作用がある。このハーブに含まれる成分が、体内に存在する薬物代謝酵素や、薬物排出輸送担体を増加させ、排泄を促進させるため。

気をつけなくてはならない薬には、免疫抑制剤、抗凝固薬、強心薬、気管支拡張薬、抗ウイルス薬、抗悪性腫瘍薬などがある。
セイヨウオトギリソウの効果は、長期にわたって服用していた場合に起こる可能性が高く、さらに服用を中止してもすぐに効果が消えるわけではないため、薬剤の説明文書に記載がある人は、セント・ジョーンズ・ワートの摂取は控える必要あり。

参考:厚生労働省 (2000年5月10日). “セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について”(報道発表資料)

 

こぼれ話 その2)甲状腺疾患と海草   結論:必要以上に制限する必要はない。

甲状腺疾患(甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、橋本病、腺腫様甲状腺腫など)がある場合、薬物治療で血中ホルモン値が正常範囲になれば症状は改善され、特別な栄養食事療法は必要ない。ただし、山盛りの海藻サラダを毎日食べるような、含有ヨード食品の過剰摂取によって甲状腺機能低下症が起こることがあるので、昆布やわかめ等の海藻類、いわしやさば等の魚介類、昆布だしなど、ヨードの多い食品の「過剰摂取には注意」する。“通常の量(朝だけ味噌汁に入っているなど)”なら支障はない。インスタントのダシにも昆布のエキスは入っているため、すべての昆布製品を制限することはできないが、通常の使用量なら支障はないと考えられている。その他の海藻類にもヨードは含まれているが、昆布よりは少ないので、日常の食生活の範囲(ときどきのワカメのみそ汁、ときどきの海苔の佃煮等)なら問題ない。

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