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健康長寿サロン

体重減少はよくないの? 
体重増加は、どう?

お題)

体重増加には気をつけているが、やせすぎもよくないか? とのリクエストがありました。

 

体重減少

「体重減少」とは、文字通り「体重が減る」という症状です。年を取ると、人間は普通にしていてもゆっくりと体重が減るものなので、必ずしも病的な所見というわけではありません。

では、どのくらいのペースでどのくらい体重が減ると「病的」なのでしょうか?

特に食事制限や過度の運動をしているわけではないのに「6か月で5%以上」の体重減少を認める場合を、病的な体重減少とすることが多いです。また、BMI(ボディ・マス指数:体重(kg)÷身長(m)2 で表記する)で、18.4kg/㎡を切る場合には、体重不足または栄養不良が疑われます。体重が減ることで「からだがだるい」「疲れやすい」「何となく調子が悪い」などの自覚症状が出る場合があります。

 

【体重が減る原因は何?】 

悪性腫瘍・消化器疾患・精神疾患が主です。

体重減少の3大要因は、がんなどの悪性腫瘍、胃・十二指腸潰瘍、炎症性腸疾患、慢性膵炎などの消化管疾患、そしてうつ病や認知症、アルコール依存症・摂食障害などを含む精神疾患であると言われています。悪性腫瘍の中では胃がん、大腸がん、肺がん、膵がんで体重の減少がみられやすいとされています。その他、糖尿病や甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などの内分泌疾患や重度の心不全、肺気腫などの呼吸器疾患、感染性心内膜炎、結核などの重篤な病気を含む慢性の感染症、膠原病などによって起こる慢性の炎症などが原因として挙げられています。

また、入れ歯が合わない、歯肉炎や口内炎がひどく噛めない、パーキンソン病などの神経疾患のために飲み込みが悪く物が食べられないことで体重減少をきたすことがあります。

 

【社会的孤立や経済的困窮などの社会的背景】 

見過ごされがちなのが、社会的孤立や経済的困窮などの社会的背景です。近年は高齢化社会の進行で独居の高齢者も急増しており、支援の手がなかなか行き届かないケースも見られます。

独居の場合、孤独などから食事に対する意欲が湧かずに気が付いたら体重が減っていた、ということもままあるようです。精神的なストレスは体重減少の大きな原因となり得ます。

 

 

高齢者の “やせ”

「やせ」とはいうまでもなく体重が減少していることです。ある時点での体重も重要ですが、体重の急激な減少という変化があった場合には、その原因をしっかり考える必要があります。

「やせ」が進むと脂肪量が減少するので、骨が突出し褥瘡(じょくそう;床ずれ)などの原因となります。また皮膚が弾力を失い、硬く乾燥し、冷たくなります。髪もパサつき、抜けやすくなります。病的な「やせ」のことを「るい痩(るいそう)」と呼びます。「るい痩」の場合、ベースに「低栄養」状態があることがほとんどです。低栄養が進むことによって、筋肉量の減少のほかにも倦怠感などの症状や貧血、血圧低下、浮腫、創傷治癒遅延(傷が治りにくくなること)、免疫能の低下などが起こります。

 

【やせ の原因】 

やせの原因は多彩ですが、(1)摂食の不足・障害 (2)消化吸収の障害 (3)内分泌・代謝障害 (4)体外への消失 などに分類することが可能です。

(1)摂食の不足・障害

「食べられない」とは、食欲が低下している場合や、食欲はあるものの、嚥下(えんげ:飲みくだすこと)しようとするとむせてしまう、あるいは飲み込んでも通過障害がある場合です。

食欲低下を訴える場合は、消化器系の器質的疾患や代謝疾患のほか、抑うつ状態やうつ病などの精神医学的問題の可能性があります。

 

(2)消化吸収の障害

高齢の先にある老衰では、吸収力が著しく低下しています。理由は小腸で吸収にあずかる細胞の数が激減していたり、機能がおかしくなっているためです。その他、消化管のがんや腸閉塞、慢性膵炎、寄生虫、吸収不良症候群、蛋白漏出性胃腸症など、消化器系の異常で「やせ」が起こることもあります。高齢者は便秘の方が多く下剤を常用されている方も多いと思われますが、行き過ぎた下剤の使用も「やせ」の原因となります。

 

(3)内分泌・代謝障害

代謝・内分泌系でやせの原因になるものとしては、血糖がコントロールされていない糖尿病、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などがあります。また副腎機能低下による食欲低下も「やせ」の一因となります。

 

(4)体外への消失

慢性の感染症などの消耗性疾患では、エネルギーを消費しやすくなります。

 

 

高齢者の体重増加(とくに肥満について)

一般的には、加齢に伴い腎機能・心機能・循環動態などともに代謝機能も衰えていきます。これらの変化に加え、食事や運動における生活習慣の変化は、栄養の過剰状態、あるいは欠乏状態を生じ、肥満ややせの原因となります。若年者でのBMIと生命予後との関連における検討では、肥満とやせはともに死亡率を上昇させることが知られています。

ところが65歳以上の高齢者になるとこの関連は希薄になり、85歳以上では、BMIが増加しても死亡率の増加はみられなくなります。また、肥満とやせを評価する指標としてはBMIが一般的ですが、高齢者では 加齢に伴う身長の低下、年齢とともに進行する筋肉量減少と脂肪量増加がみられ、BMIでは評価されないといった問題点が指摘されています。

 

高齢者では、“やせ” も認知症のリスクとなる

中年期の肥満は認知症のリスクですが、高齢者では、肥満・過体重は認知症発症に抑制的に働くという報告があります(肥満パラドックス)。その原因について、認知症では診断される10年前から、体重減少がしばしばみられることが関連するかもしれないとの指摘があります。

高齢者の場合、原因不明の体重減少により認知症が発見されることも少なくありません。認知症における体重減少では、除脂肪体重(脂肪を除いた要素の合計)が減少します。脳と筋肉との機能連関を示唆する現象であり、メカニズムの解明が待たれるところです。

ともあれ、高齢者肥満には特有の合併症があり、若年者肥満とはかなり違った考え方が必要になる一方で、高齢者はやせ(体重減少)を避け、ADL低下、認知症 のリスクを軽減することが重要といえます。

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