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健康長寿サロン

口渇(ノドが乾く症状)がみられたら、
……調べてもらう? 経過観察する?

このごろノドの渇きがひどくなっているのですが、病気でしょうか。それとも加齢に伴う症状に過ぎないのでしょうか。ノドが乾く症状についての説明を、とのリクエストがありました。

 

 

口が乾く、ノドが渇くといった症状は、医療現場でよく耳にします。

口が乾く症状は、ドライマウスと呼ばれます。ドライとは「乾燥」の意味です。

ドライ・アイといった言葉を聞いたことがある方も多いと思います。これはまさに涙の量が減って、目が乾燥状態にあることをいいます。

一方、ノドが渇くという場合、ドライという表現は用いません。なぜでしょう?

 

「渇く」を辞書でみると「のどがカラカラになって、水分が欲しくなる状態」と説明されています。となると、水が欲しくなるほどノド(喉)がかわくのは「喉渇」という呼称がふさわしいのでしょう。口喝も、本来なら「口乾」が正しいということになります。

けれども口が渇くといった表現もあり、「口喝」という医学用語まであるのですから、ここでは「乾」と「渇」を区別しないで話を進めます。

 

口が渇くとは、長い間話をしたり、極度に緊張した場合にみられる症状をさす用語で、喉が渇くとは身体の水分量が減って、喉が水を欲していることを示します。

口が渇く症状は、口の中が乾燥することで生じます。たとえば思ってもみなかったような長電話や、コールセンターなどしゃべる時間が長い仕事に従事した経験をお持ちの方は、おわかりだろうと思います。ちょっとだけでもいいから口のなかを潤したいのに、手元に水がない。

また、極度に緊張したようなときも、口が渇きます。こちらは多くの人が経験済みでしょう。

 

それに対して、喉(ノド)が渇くとは、身体の水分量が減って喉が水を欲していることを示します。水分を長時間摂らなかったり、発汗や排尿で想像以上の水分が失われたりすると、身体の水分の絶対量が不足してきます。そのようなとき、身体はノドを通じて水を求めてくるようになります。「ノドが渇く」といった声を聞いたら、体全体の水分が不足し、枯渇し始めていると考えてください。

 

こうしてみると、体内の水分は充分だけれども「口だけが乾いている」という場合と、体内の水分不足によって「ノドが渇く(水が飲みたい)」という2つの病態があることがわかります。

どちらも症状的には区別がつきにくいのですが、「ともかく、もっと水が飲みたい」といった症状が出たときは、病気や病態が潜んでいる可能性があります。

ここから先は、口喝をもたらす病気や病態を説明していきます。

 

 

口渇の原因その1 ドライマウス

身体の水分不足とは関係なく、口の中だけが乾燥するために口渇を感ずる状態が、ドライマウスです。

症状としては、口のなかが粘つく、舌がくっつく、食べものが飲み込みにくい、ノドが渇くなどです。原因は加齢のほか、糖尿病シェーグレン症候群(乾燥症候群)、薬の副作用が代表です。
鼻炎などの耳鼻科疾患や口呼吸がクセになっている場合は、口を開けている時間が長いため、どうしても乾燥してしまいます。
また、加齢に伴って口や顎の筋力が衰えて唾液腺に刺激が伝わらなかったり、ある種の薬の副作用や腫瘍、炎症などがあって唾液の分泌が妨げられたりしても、口のなかは乾きます。
さらに高齢者は、もともと体内の水分量が少ないので、通常よりも発汗量が増えると脱水になりやすいといえます。そのため高齢者が口渇を訴えている場合は、背後に脱水症がないか疑うことが大事になってきます。加齢による唾液の分泌低下だろうと、安易に判断してしまうのは危険です。
唾液の分泌を妨げる副作用を生じる薬剤は、感冒薬などに含まれる抗ヒスタミン剤のほか、利尿剤、向精神薬、鎮痛薬、制吐剤、消炎剤など多種が知られています。

また、全身の分泌腺が冒されるシェーグレン症候群も、ドライマウスはほぼ必発症状です。
さらにがん治療中の患者さんでは、抗がん剤や放射線療法により口腔内の乾燥を訴えるケースが少なからずみられます。そのほか、緊張やストレスによっても、口渇症状は出やすくなります。

 

補足1.糖尿病

糖尿病という呼称には、尿に糖が混じる病気といったイメージがありますが、尿糖がみられるのはあくまでも結果に過ぎず、血糖が下がらないというのがこの病気の本体です。

血糖が下がらない理由は、膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンというホルモンの異常にあります。よくみられるのはインスリンの量的な不足ですが、インスリンがうまく働かないような環境異常(インスリン抵抗性)が原因であることもあります。

インスリンには、血液中のブトウ糖を細胞に送り込む働きがあるのですが、その働きが十分に行えなくなると、血液中の糖濃度が高くなっていきます。これが高血糖と呼ばれる状態です。

 

食べものを食べたあとなどで血糖が上昇すると、インスリンが即座に出てきて血液のなかの糖を細胞に送り込み、細胞はエネルギー源を確保することができます。

つまりインスリンは、血糖を体内のあらゆる細胞に送り届ける配達人みたいなものです。

そうして血糖値はまた下がっていくのですが、いつまでも血糖が下がらないと、血中の糖濃度を薄めようとするメカニズムが働いて、体内の水分は血管内に移動していきます。その結果、体自身は水分が不足する状態となって喉が渇き、飲み物を欲するようになるのです。それでも糖が細胞に送り込まれないまま、血中をぐるぐるめぐって高血糖状態が続くと、いつもいつも水を飲みたくなる――これが糖尿病における多飲の構図です。

喉が渇く症状がみられるようになった糖尿病は、すでに中等症以上に悪化していますので、早急に医療機関を受診してください。

 

補足2.シェーグレン症候群

シェーグレン症候群は 俗に“乾燥症状群” と呼ばれる疾患で、唾液腺や涙腺が自己抗体の攻撃ターゲットになることから、唾液や涙の分泌量が減っていきます。関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症といった自己免疫疾患(膠原病)と合併することもあります。また乾燥症状だけでなく、皮疹やレイノー症状(手指が蒼白になる)などがみられる例もあります。

 

補足3.薬剤

すでに述べたとおり、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤といったアレルギーのときに用いられる薬剤、痛み止め(消炎鎮痛解熱剤)、降圧剤、睡眠薬、利尿剤、向精神薬、制吐剤(吐き気どめ)などでも口渇が生ずることがあります。薬剤の副作用が原因と考えられる場合には、主治医に連絡してその薬を継続するかほかの薬に変更するか、相談しましょう。

 

 

 

口渇の原因 その2 身体の水分不足(脱水症)

身体の水分量の不足つまり脱水が、口渇を訴える二つめの原因です。水分不足に陥るケースをみてみると、単純に発汗や排尿で失った水分量より、水分摂取量自体が不足している場合と、なんらかの疾患や利尿剤のような薬剤使用に伴って起こる水不足があります。
脱水によって引き起こされる病態は、発熱、発汗、嘔吐、下痢などがあります。逆に発熱、発汗、嘔吐、下痢が続くことで脱水症が起きてきます。原因であるとともに、結果でもあるわけです。

利尿剤が効き過ぎて水分排泄過多になった場合や、出血などによる循環血流量の不足でも、体内の水分不足が起きてきます。また糖尿病や尿崩症では水分排泄が増えることで脱水が生じます。さらに甲状腺機能亢進症も、発汗が促されるので脱水に陥りがちです。

 

このほか、体液が濃くなりすぎたときにも水分不足に陥ります。

私たちの身体にある腎臓は、体液の濃度を一定に保とうと頑張っているため、体液濃度のバランスが崩れると、補正するために水分を要求するようになります。たとえば塩辛いものを食べると水が飲みたくなるのはその一例です。血中の塩分が増えるので口渇中枢が刺激されて、水を飲みたくなるわけです。
また、胸水腹水浮腫うっ血性心不全などがあると、血管外に水分が漏れ出してしまうため、体内のトータル水分量は変わらないものの、血管内の水分が減少することで体が水分不足と判断し、口渇を訴えるようになります。また尿崩症では、尿の過剰排出により水分が失われ脱水に傾くため、水を欲するようになります。

 

補足4.脱水症

脱水症は、熱中症が多発する夏季や、水分をあまり飲まなくなってくる冬季によくみられます。口渇がある時期を過ぎて、意識がもうろうとしてきたときや、立てないほどふらふらしている場合は救急車を呼ぶなど、早急な対応が必要です。

意識があって口から飲み物が飲める場合は、経口補液が基本になります。しかし、経口摂取不能な患者さんや中等症以上のレベルに悪化した場合は、医療機関での輸液が必要となります。

 

補足5.尿崩症

まれな疾患ですが、尿崩症(にょうほうしょう)という病気があります。尿量が異常に増加することで脱水症が誘発される病気です。脳下垂体機能障害や脳腫瘍によって起こる中枢性尿崩症と、電解質異常や腎炎、先天性遺伝性疾患である腎性尿崩症があります。尿量が異様に多いと感じたら、医療機関を受診してみてください。

 

 

 

脱水に起因した口喝は緊急性が高い

すでに述べてきたように、口渇にはドライマウスによる場合と、身体の水分不足による場合の2タイプがあります。

このうち気をつけたいのは、身体の水分不足(脱水)です。私たちの身体の大半は水分です。成人の場合、水分は体重の約6割を占め、小児の場合は約8割が水分です。そのため、体重の2%相当の水分が失われると脱水状態に陥ります。症状は「強い喉の渇き、食欲減退」などですが、水分がさらに失われると生命危機につながる重篤な状態となり、緊急対応が必要になってきます。重症化したときの症状は、脈拍が速くなる、立ちくらみがする、頭痛や嘔気、筋肉のけいれんなどです。この状態で何もしないと、意識障害や重度の低血圧、多臓器不全が順次起きてきます。

 

口腔内観察は脱水を見逃さないために有用ですが、ドライマウスでも口腔内は乾いています。緊急性が高い脱水症かどうかは、血液検査が効果的です。血球数や尿素窒素、尿酸と呼ばれる項目は、脱水の状態をよく反映します。また脱水症では電解質のアンバランスも同時に起きることが多く、原因が下痢や嘔吐、出血(よくあるのは消化管出血)などでは独特な電解質アンバランスがみられます。

 

血圧が下がるような緊急事態では、まず腎機能が不明なときに用いる輸液剤を用いますが、電解質や腎機能の状態が把握できたら、より叶った輸液剤への変更がされます。ということは、脱水症のとき飲むのは、単なる水でよいのか、スポーツドリンクがよいのか、それともOS‐1のような経口補水液がよいのかは、脱水のパターンによって異なることになります。

 

経口補水液が適しているのは、軽症から中等症の脱水症です。感染性胃腸炎による嘔吐や下痢、発熱のほか、過度の発汗による脱水症には適しています。

経口補水液を日常的に飲む習慣のある人は、塩分と水分を過剰摂取していることになり高血圧症や電解質アンバランスを招く恐れがあるため注意してください。脱水症でない方が、普段の水分補給として飲用するものではありません。また一般的な飲料よりもナトリウム、カリウムといった電解質の量が多いため、高血圧の方や腎機能が低下している方は、どのようなときに飲んでいいのかを事前に医師に相談しておくとよいでしょう。

一方、スポーツドリンクを日常的に飲む習慣のある人は、塩分のほか糖分も過剰摂取している可能性がある気をつけてください。

 

ともあれ水分や電解質の補給方法は、口から水分を取れるのであれば基本的には経口補水液をはじめとした液体を飲みましょう。しかし、重度の脱水症や自力で水分が取れない場合には点滴治療が必要になってきますので医療機関を受診してください。

 

 

ボーっとしている高齢者、食欲低下がみられる高齢者は、脱水かも

なお高齢者では、ノドの渇きを感じにくく訴えにくいといった特徴があります。単にボーっとしていたり手足が冷たくなったりするほか、めまいやふらつき、食欲低下や嘔気、発熱などがあり、調べてみたら進行した脱水症だったということもよくあります。脱水症の典型的な症状が出にくい理由は、加齢に伴って体液の総量が低下してきたり、口渇中枢の機能が低下しているためです。

高齢者施設で介護に当たっているスタッフや、高齢者を自宅でケアしている方は、こうした症状に敏感になって、いつもと違う印象があったら、迷わず医療機関を受診してください。

 

 

なお口渇に対する日常的対応策としては、次のようなセルフケアが推奨されています。

ガムをかむ:かむことによる刺激は、唾液を促すことになるため、虫歯に注意しながらガムをかんでみてください。

口腔内の保湿:こまめに口をゆすいだり、氷をなめたりするとよいでしょう。水のみを用いるのがよく、うがい薬を使用する必要はありません。

鼻呼吸:口を開いたままの呼吸は口腔内乾燥につながります。鼻呼吸をすることで口の渇きを抑えることができるため、マスクや鼻に貼る口呼吸防止テープなどを用いると効果がある場合があります。なお慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿)がある方は、持続的鼻呼吸がしにくくなるため管理が必要です。ちょっとでも悪化する気配があったら、耳鼻科や内科を持参してみてください。

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