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健康長寿サロン

人から人にうつり、
皮膚に異常をもたらす病気

お題)

住んでいるマンションの最上階には温泉が出る共同風呂がある。サル痘の話や疥癬(かいせん)の話を耳にすると怖いと思う。先日は皮膚の発疹とかゆみがあったので皮膚科を受診したところ、あせもだと言われてホッとしたが、人から人にうつる皮膚病について、とのリクエストがありました。

 

人から人にうつる病気

ヒトからヒトにうつる病気は、病原体が媒介しています。病原体には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症をもたらすウイルス、腸管出血性大腸菌感染症をもたらす病原性大腸菌O157や赤痢菌、コレラ菌などが代表です。温泉ではときにレジオネラ感染症が発生します。利用者の複数に同じ症状が出るためヒトからヒトに伝染すると思われがちですが、レジオネラ感染症は伝染しません。空調に住み着いたカビやレジオネラ菌を同じ場にいたヒトが吸い込むことで発症します。カビもレジオネラ(細菌)も病原体です。また若年者や就労年齢者でしばしば問題になる性感染症の典型で、昨今感染者が増えている梅毒でも皮膚病変がみられます。

さて、ヒトからヒトにうつる病気のなかで、マンションのような集合住宅や、高齢者施設(有料老人ホーム、老健、特養など)でしばしば問題になる病気に、疥癬(かいせん)があります。

また昨今、急に話題となったサル痘も、ヒトからヒトにうつります。

そこで今回は、この2つの病気について説明します。

参考資料1)国立感染症研究所「疥癬とは」

参考資料2)WIRED US/Translation and Edit by Daisuke Takimoto 邦訳版

 

1.疥癬(かいせん)について

疥癬はヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei)が皮膚の最外層である角質層に寄生し、ヒトからヒトへ感染する病気です。非常に多数のダニの寄生が認められる角化型疥癬(痂皮型疥癬)と、少数寄生のわりに激しい痒みを伴う普通の疥癬(通常疥癬)とがあります。近年わが国では病院、高齢者施設、養護施設などで集団発生の事例が増加しており、疥癬感染防止対策マニュアルが作成されています。しかし、予防、治療法などに混乱があり、医療および介護関係者の間で問題となっています。

 

病原体であるダニ】

ヒゼンダニの大きさは雌成虫で体長約400μm、体幅約325μmで、卵形、円盤状といった形状なので、 肉眼ではまず見えません。卵→幼虫→若虫→成虫と約2週間で成熟します。幼虫、若虫、雄成虫は人の皮膚表面を歩き回るため、 ヒトとヒトの皮膚同士の接触によって感染します。また、皮膚内に掘った穴や毛包内に隠れていたりすることから、ダニの寄生部位を特定するのは難しいとされます。皮表を歩き回っている雄は雌を探して交尾します。交尾後の雌成虫は、角質層に特徴的な「疥癬トンネル」を掘り進みながら、4〜6週間にわたって1日2〜3個ずつ産卵し続けます。卵は3〜 4日で孵化し、幼虫はトンネルを出てはいまわることで、病巣が拡大します。

 

【感染経路】

感染経路は、ヒトとヒトとの接触がほとんどです。従って、家族、介護者、セックスパートナーのほか、ダンスの相手やこたつで行う麻雀仲間、また畳での雑魚寝などでも感染する可能性があります。寝具、衣類などから感染することもあります。

感染直後はまったく症状はありませんが、感染後約4〜6週間で多数のダニが増殖し、その虫体、脱皮殻や排泄物(糞)によって感作(アレルギーが成立する)されることにより、アレルギー反応としての激しい痒みが始まります。

集団生活が行われている高齢者福祉施設や養護施設などでは、一人の角化型疥癬患者の入所でも集団発生の危険が生じます。1996年に東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の養護老人ホームと特別養護老人ホーム506施設に、疥癬の集団発生に関するアンケート調査を実施した報告では、集団発生を経験したことがある施設は養護老人ホームで45%、特別老人ホームは79%でした。多くは10人以下の集団発生ですが、41人以上の集団発生も5施設あったようです。

 

【症状と診断】

激しい痒みは特に夜間に増強し、睡眠を妨げられるのが特徴です。ただし、高齢者や角化型疥癬の患者ではかゆみの訴えが少ない場合もあります。疥癬に特徴的な皮疹は 疥癬トンネル(小隆起性茶色調、曲がりくねった線状疹)で、手首の屈側、手掌尺側、指、指間、肘、アキレス腱部などに認められます。その他、丘疹、小水疱、 痂皮、小結節なども見られ、陰嚢部に小結節を認めることもあります。また、下腹部や背部、腋窩などにも丘疹を認めることもあるため、全身くまなく観察することが必要になります。

疥癬の確定診断は、ヒゼンダニを検出することです。強い瘙痒を伴う疑わしい皮疹がある場合には、早期に皮膚科を受診し疥癬を得意としている医師の診察を受けましょう。瘙痒や皮膚症状が収まるまで、数週間おいて繰り返し検査する必要があります。

 

【治療・予防】

ヒゼンダニを殺すことを目的とした飲み薬や、塗り薬が使われます。塗り薬は正常なところも含めて塗り残しがないように首から下の全身にくまなく塗ります。また痒みに対しては、痒み止めの内服薬を用います。

≪飲み薬≫イベルメクチンを空腹時に内服する。

≪塗り薬≫フェノトリンローション、イオウ剤、クロタミトンクリーム、安息香酸ベンジルなどがあります。安息香酸ベンジルは、患者または代諾者の同意が必要になります。

 

 

 

2.サル痘について

世界で猛威を振るっている「サル痘」は、2022年4月以降に世界中で17,000人以上の感染者が確認されており、大半はこれまでサル痘が定着していなかった欧州と北米です。このため世界保健機関(WHO)は、サル痘の感染拡大について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言しました。これはWHOにおける最高レベルの警告です。

しかし、患者が増加しているとはいえ、一般の集団がサル痘にかかるリスクは低いと考えられています。落ち着くことが肝心で、治療の必要はたぶんないとみられますが、これ以上ウイルスを拡散させないよう、できる限りのことをする必要があります。

 

【サル痘の起源】

サル痘をもたらす病原体は、水痘や天然痘と同じ科に属するウイルスです。症例として初めて記録されたのは1958年のことです。研究用のサルの群れで2度にわたって流行が確認されたことから、このような名前が付けられました。

しかし、この名前には少し語弊があります。このウイルスは通常、リスやホリネズミ、ヤマネといったげっ歯類を主な宿主としているためです。ヒトの症例は、サル痘ウイルスが蔓延する中央・西アフリカの熱帯雨林周辺で発生する傾向にあります。このウイルスは何百年、ひょっとすると何千年も前からヒトに感染してきたと考えられています。1980年代から2010年にかけ、コンゴ民主共和国(DRC)での感染者は14倍以上に増加しており、20年だけでも同国ではサル痘が疑われる症例が4,600件近くも見られました。また、ナイジェリアでは17年以降、550件以上の疑い症例が発生しています。

これらのデータと、航空機での移動により世界中を行き来できるようになったことを考えると、今回の世界的な流行は実はさほど驚くべきことではないとの指摘があります。

 

【サル痘の症状】

サル痘の発症過程は、大きく2段階に分けられます。最初は感染者の細胞内にウイルスが侵入することで起きる疲労感や発熱、体の痛み、悪寒、頭痛といったインフルエンザ様の症状が現れます。続いて、免疫系が感染を阻止しようとすることで起きるリンパ節の腫脹が見られるようになります。

第2段階は「瘡」の発生で、通常は顔から始まり、腕、脚、手、足、体幹へと広がる厄介な発疹のことを指します。20 ~ 8 ミリメートル (mm) の臍帯状丘疹とピンク色の丘疹が特徴とされます。今回の感染流行では、一部の患者には陰部周辺の発疹が確認されたとの報告もありました。

医師たちは、単に発疹が出たからといってサル痘と決めつけないよう注意を促しています。このような症状は、水ぼうそうや疥癬(かいせん)といった病気でも起こりうるほか、隠部の発疹はヘルペスなどの性感染症の兆候である可能性もあるからです。

サル痘の発疹は非常に特徴的です。最初は平坦で赤い発疹ができ、やがて水ぶくれとなり、白い膿が充満してきます。その後、これらは乾燥してかさぶた状になり、やがて治癒して剥がれ落ちます。不快ではありますが、通常はそれほど重症化せず、2〜4週間で回復することが多いといわれます。

 

【どんなときに感染する?】

サル痘は一般的に、感染した動物(主にウイルスを保有できるげっ歯類)に接触した人が発症します。このウイルスは、感染した動物に噛みつかれたり、引っかかれたり、場合によっては十分に火の通っていない肉を食べることによってヒトへと感染します。

また、長時間の密接な接触によっても感染します。具体的な感染経路としては、患部の膿との直接接触、感染者の衣服との接触(またはタオルの共有など)、呼吸器飛沫の吸入、という3種類の経路が知られています。今回の流行では、皮膚同士が接触する可能性の高い性的接触が感染経路のひとつとなっているようです。

感染率は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や多くの一般的な呼吸器系ウイルスに比べてはるかに低いので、サル痘の流行は極めて短期間で終息する傾向にあるようです。その一例として、2003年にガーナからイリノイ州へと感染動物が輸送されたことで、サル痘が米国内に侵入した件が挙げられます。この際は、米中西部の複数の州でペットとして販売されていたプレーリードッグへとウイルスが伝染し、47人の人間が感染しました。しかし、感染者は誰ひとりとしてほかの人に感染させることはなく、流行は発生から間もなく終息しました。ところが、今回は感染者の増加が見られることから、専門家もサル痘の通常の感染率が上昇傾向にあるのかどうかの判断がついていないため、保健当局は発生状況を注意深く見守っているところです。

 

【予後や治療など】

サル痘は通常は軽症にとどまり、治療を受けなくても自然に治癒します。

しかし、死に至る場合もあります。今回の流行を引き起こしている西アフリカ系統群は、致死率が1〜3%とされています。コンゴ盆地系統群の場合は、致死率は10%にもなります。死亡につながる重症例は、幼児、妊婦、免疫不全の基礎疾患をもつ人でより発生しやすいとされています。

予防に効果的なワクチンのうち、認可されたものは2種類があります。

治療薬は、欧州連合(EU)でサル痘の治療薬として承認されている「TPOXX」という抗ウイルス剤があります。しかし、現時点では米国でサル痘の治療薬として承認されている抗ウイルス剤は存在しません。米国のCDCは治療法として抗ウイルス剤である「シドフォビル」を推奨しており、サル痘が重症化した場合には「ワクシニア免疫グロブリン」というモノクローナル抗体も投与できるとしていますが、実際の効果については明確なデータが示されていないといったところが現状です。

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