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健康長寿サロン

いわゆる“気象病” について

春一番が吹くころや、台風シーズン、梅雨のときは体調が悪くなります。気分がふさぐだけでなく、むかし交通事故で痛めた首が疼きます。主治医に尋ねたところ、気象病だろうといわれました。

気象病についての説明を、とのリクエストがありました。

 

 

 

台風が来る前にゼンソク発作が起きたり、梅雨の時期になると昔の古傷が痛むといった話は、むかしからよく知られていました。たとえば中心気圧が970ヘクトパスカル以下の強い台風が南の海上に発生すると症状が悪化し、上陸するときには幾分改善しているといった経験談は、ゼンソク患者さんがよくしていました。持病として長いことゼンソクと付き合ってきた筆者も、同様の経験があります。

むち打ち症など整形領域の軟部組織疾患は、梅雨の時期全般を通して悪いようです。

メンタル系で苦戦している方のなかにも、台風襲来時期や天候不順のときに状態が悪化するケースは珍しくなく、布団から出ることができない、不安感、抑うつ気分、全身倦怠感、めまいといった症状が悪化することは、よく経験するところです。

 

気象病は、病気というよりは天気の変化がきっかけで起こる諸症状のことで、正式な医学的診断名ではありません。しかし近年、認知度が高まりつつあり、専門外来を設けている医療機関もあります。

気象病とは、気温や気圧など“気候”の変化によって引き起こされるさまざまな症状の総称です。

どのような気候の変化によってどのような症状が現れるかは人によって異なり、「低気圧が近づくと頭痛がする」「気圧や気温の変化が激しい梅雨どきは体調を崩しやすい」などさまざまな訴えが聞かれます。日本では1000万ほどの人が気象病に悩んでいると推測されており、比較的発症頻度が高い病態といってよいでしょう。

 

気象の変化に伴う諸症状は、古くからさまざまな研究が重ねられてきました。しかし、はっきりとした発症メカニズムは分かっていないのが現状です。

強いて言えば、私たちの体は常に気圧と気温に晒されており、それらが急激に変化することで体内のバランスを崩しやすくなり、全身にさまざまな症状を引き起こすと考えられています。

 

また、症状の現れ方も人によって大きく異なり、一時的で軽度なものもあれば外出が困難になるほどの強い症状が現れるなど、日常生活に支障をきたしているケースも少なくありません。

さらに関節リウマチや気管支喘息などの病気を悪化させたり、脳梗塞や心筋梗塞など命に関わる病気の発症に関与していたりするとの考えもあり、決して見過ごすことはできない病態のひとつといってよいでしょう。

 

 

原因

気象病は天候の変化によって引き起こされます。原因は以下のとおりです。

1.気圧の変化

気圧の低下は、気象病の大きな要因であると考えられています。私たちの体は常に大気からの圧力、すなわち“気圧”を受けています。このため、体内では気圧に負けないよう外部へ向かってさまざまな部位で圧力が発生していますしかし、急激に気圧が低下すると体にかかる圧力も低下するため、体内で生じている圧力のほうが高い状態になります。その結果、頭痛、めまい、動悸などのさまざまな症状が引き起こされます。

 

2.気温の変化

気温の急激な変化も自律神経のはたらきを大きく乱す原因になります。特に急激な気温の低下は、交感神経を刺激して心拍数や血圧を上昇させ脳梗塞や脳出血、心筋梗塞など命に関わる重篤な病気発症の引き金になり得ます。

さらに、冷気に晒された全身の血管は収縮するため血行が悪くなり、肩や首が凝りやすくなります。体の平衡感覚をつかさどる内耳への血流も低下するため、めまいや耳鳴りなどの症状を引き起こすことも少なくありません。

 

 

症状

1、自律神経アンバランス

気圧の変化は自律神経の乱れを引き起こす原因にもなり、めまいや動悸などの自律神経失調症による症状のほか、気分の落ち込み、集中力や注意力の低下、イライラ感など精神的な症状を引き起こすことがあります。

また著しい全身倦怠感(ダルさ)、手足のシビれといった症状もめずらしくありません。他者からはなかなか理解してもらえず、“怠け病” といったレッテルが貼られてしまうこともあるようです。

 

2、気管支喘息(きかんしぜんそく)

気圧の急激な低下は、気管支喘息を悪化させることも知られています。これは気管支に加わっていた圧力が急激に低下することで、気管支内の圧力も低下して気管支内部が狭くなるためと解説されていたりします。

けれどもこの解説では、「中心気圧が970ヘクトパスカル以下の強い台風が南の海上に発生すると症状が悪化し、上陸するときには幾分改善している」との事象を説明することができません。そのむかし、喘息患者さんに密閉された部屋に入ってもらい、徐々に気圧を下げていくことで発作が誘発されるかといった実験が行われたことがありました。けれども予想された発作は起きませんでした。

こうしたことからわかるように、気圧の変化がダイレクトに気管支に影響を及ぼすのではなく、何らかの要素が自律神経系を介して影響を及ぼし、その結果として喘息発作が誘発されやすくなると想像されます。

 

3、浮腫みや痛み

急激に気圧が低下すると、血液中の水分が血管の外に押し出されて浮腫ふしゅ(むくみ)が現れることがあります。また、頭痛や肩こり、関節痛、古傷の痛みなどは気象病の代表的な症状です。押し出された血中成分が誘因となって、痛みの原因となるプロスタグランジンやヒスタミンなどの物質が産生されることにより、頭痛や関節痛といった気象病に特徴的な症状が現れるようになるとされています。

 

検査や診断

気候の変化によって引き起こされる諸症状のうち、脳梗塞や心筋梗塞、気管支喘息の悪化など明らかな“病気”として現れることもあります。しかし、多くは一時的な頭痛やめまいなどの症状が生じるのみで“病気”と呼ぶような身体的な変化は見られません。

このため、気象病が疑われる症状が現れたとしても、血液検査や画像検査などの一般的な検査が行われないケースも多々あります。しかし、日常生活に支障をきたすほど強い症状があるケース、上で述べたような病気の発症や悪化が疑われるケースでは、それぞれの症状に合わせて頭部CT検査、血液検査、心電図検査などが必要に応じて行われます。

 

治療

気象病は“天候”というヒトの力では改善することができない現象が根本的な原因であるため、治療はそれぞれの症状を改善する“対症療法”が主体となります。具体的には、頭痛に対しては鎮痛薬、めまいに対しては抗めまい薬、気管支喘息の悪化に対しては気管支拡張剤の増量やステロイドの点滴などが挙げられます。

一方で、低気圧のときなどに併せて強い体調の変化が現れるようなケースでは、事前にそれらの症状を予防するための薬物療法などが行われることも少なくありません。特に内耳の血流を改善する抗めまい薬や体内の水分循環を改善する五苓散ごれいさんなどの漢方薬がよく使用されます。

また、ストレスや疲れ、睡眠不足など不規則な生活習慣も気象病による自律神経の乱れなどを助長することがあるので、発症を予防するための生活習慣改善も大きなポイントです。

 

 

自分でできる ちょっとした対処法

わたしたちは変化した気圧を、どこで感知しているのでしょう?

答は、耳の奥にある内耳の気圧センサーです。 気圧が変化することで気圧センサーが興奮し、内リンパ液と外リンパ液の間に微妙な波のズレが起きます。するとこの変化が脳の中枢にある自律神経に伝わり、自律神経系が普段と違った動きをみせるようになります。

内耳は水分で満たされており、内リンパ液と外リンパ液という異なるリンパ液が循環しています。リンパ液は、リンパ管により全身に網目のように張り巡らされ、ネットワークを組んでいます。リンパ管の中を流れるのが「リンパ液」です。

内耳や体内の水分の循環を良くすることで、体を環境変化に合わせられるようになり、結果として症状改善が期待できます。

 

自律神経は、興奮モードをもたらす交感神経系と、リラックスモードをもたらす副交感神経系から成り、自分(つまり脳)ではどうすることもできない器官のコントロールをしています。

たとえば食べると胃液が出たり、暑いと汗をかくといった反応は、自律神経の働きによるわけです。食べても胃液を出したくないと思ってみても、また暑いけれど汗をかきたくないと思ってみても、自分ではどうすることもできませんね。

 

 

耳の奥にある内耳周辺の血流を良くしてあげると、低気圧による体調不良の軽減が期待されます。

方法は次の2つ。ひとつめは、両側の耳たぶを軽く横に引っ張って、5~10秒ほどしたら離すことを、2回やります。そのあと、両側の耳たぶを前後ななめに回すことを3回行ってみてください。

一回にやるのは、3セットほど。しばらく時間をおいて、またやってもよいでしょう。

 

ふたつめは、呼吸を意図的に調整する方法です。

立った姿勢になったら、まず両手で「前へならえ」をします。次に息を吸いながら右手を上まで上げていき、左手は反対に下げていき、両手の角度が180°になるようにします。そのあと息を吐きながら「前へならえ」のポジションに腕を戻します。今度は左右の手を逆にしてやってみてください。

この動作を5分ほどかけて、ゆっくり行います。

 

なおいつももらっている薬を症状に応じて増やしてよいかどうかは、主治医先生にうかがってみてください。

 

 

 

参考資料)

「気象病」(北大大学院保健科学研究院 寳金 清博先生監修 Medical Note  2020年5月14日)

「気象病の基礎知識」(船久保恵美先生監修 頭痛ーる 気圧予報で体調管理)

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