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健康長寿サロン

老いとの向き合い方(前半)
加齢に伴う変化と症状の解釈

お題)

「老化とうまく付き合いなさい」と病院で言われ戸惑っている、とのリクエストがありました。

 

老いを受け入れにくい時代

テレビではサプリメントのCMがよく流れます。なかなかいいな、これもよさそうだな、あれも必要みたいと思って買ってしまうと、かなりの量のサプリを飲む(食べる)ことになります。

また毎年体育の日などでは、超高齢者が記録を塗り替えた、ギネスに登録されたといったニュースが流れます。インタビューでは、元気な秘訣が披露されたりします。それをみて、すごいなと思う一方で、オレはダメだな、わたしにはできないなと落ち込む高齢者がいらっしゃいます。

 

けれどもいわれ尽くされたように、比較することでよいことは、ひとつもありません。これは若い人にもいえますが、比較する背景には「自分も、周りの人と同じレベルにある」といった安心を得たい心理があります。そのため、ついつい他人の動向や言動ばかりに目を配って、自分の行動を多数派に合わせていくことだけに気を取られていくうち、次第に自分自身つまり個性を失っていくのです。うまくいけば、安心できたという つかの間の安らぎを手に入れることができますが、じつは没個性化を遂げたにすぎません。反対にうまくいかないと、おいてけぼりを喰らったとの思いから、失望が生まれます。どちらに転んでも、よいことはありません。

 

わたしたち日本人は、依然としてこの比較が大好きなようです。イジメられないように自分の個性を没しても多数派に属したいと行動する心理がそうです。え? わたしと同い年なのに、あの滑らかな肌なの? え? あの年でまだお仕事されてらっしゃるの? と失望したり、羨望の思いを抱く心理もそうでしょう。

けれども比較する相手は、他人ばかりとは限りません。老いを受け入れることに抵抗のある人の多くは、無意識のうちに若いときの自分と比較しています。筋力が落ちたとジムでうなだれ、この容姿は何? と鏡を見て失望するのは、そのためです。

 

 

老いの正体 メカニズムを中心に

老いとうまく向き合うためには、老いの正体を知っておきたいところです。

公益財団法人長寿科学振興財団の資料によい説明があるので、抜粋引用します。

 

人は生まれてから亡くなるまで、常に何かしらの変化が起きています。ある時までは「成長」と呼ばれますが、人として成人して成熟期を迎えると、そこから先は「老化」と呼ばれるようになります。これは誰にでも起こる変化ですが、そのスピードには個人差があります。

「老化」とは一般的に、成熟期以降に起こる生理機能の衰退を意味し、遺伝的な要因や外界からのストレスに対し、適応力が低下することで起こる変化と考えられます。

 

老化のメカニズムには、大きく2つの説があります。

  • 生物学的に見て「老化に太刀打ちすることは難しい」とするプログラム説
  • 成熟後における有害遺伝子の発現によって老化していくという擦り切れ説 です

 

時の流れるスピードはすべてのヒトに共通のものであり、同じ日に生まれた人は同じスピードで暦年齢を重ねていきますが、成長のスピードに個人差があるのと同様に、老化のスピードにも個人差があります。また、体の中の組織や細胞によってもそのスピードが変わってきます。一部の組織の老化が進んでも、他の組織は実年齢よりも若い、ということもあり得るのです。

老化のスピードは40歳代より加速するとされています。その理由は、40歳代になると活性酸素を取り除いてきた「抗酸化酵素」の能力が急速に減少してしまうから、と考えられています。

一方で、老化には活性酸素のみならず、様々な要因が複雑に絡み合っていることから、一概に「老化を確実に抑え込むこと」はできないという考え方もあります。

 

老化とはいつから始まるのでしょうか。個々の細胞のレベルで見てみると老化は生まれた直後から始まるとも言えます。ヒトの胎児から採取した細胞に対する研究で、胎児から採取した細胞はおよそ50回の分裂が限界であることが分かりました。そして限界まで分裂した細胞を老化細胞と呼びます。

 

老化細胞では、増殖能力がもとに戻れないように制御されており、老化細胞に増殖を促す処理を施しても、再度増殖が始まることはありません。若い頃は機能の低下した細胞は取り除かれ、新しい細胞が補充されることで、組織としての機能を保ち、老化を防ぐことができます。

しかし、年齢と共に細胞が入れ替わるスピードは遅くなり、取り替えること自体ができなくなると、組織の機能が低下し、徐々に老化が進行していきます。やがて、細胞分裂の限界にまで達した細胞で生きていかなければならなくなります。

 

 

 

むかしできていたことが、なぜできなくなるのか

以前ならフツーにできていたことが、次第にうまくいかなくなり、いまでは全然できないといったことは、臓器の機能低下、連動運動の機能低下、ごく軽度の廃用症候群(使わないでいたため機能が衰えた状態)によって生じてきます。

諸機能の低下によって何が起こるのか――長寿科学振興財団の資料を、さらに紹介しましょう。

 

《脳神経系》

大脳萎縮や脳細胞の減少、神経伝達物質の活性低下などから、認知機能の低下が見られます。そのため、70歳以上の約1割、90歳以上になると5割が、認知機能低下に伴う認知症になります。

《心血管系》

左室の肥大や冠動脈硬化、運動時の最大心拍出量が低下します。これによって心筋梗塞や心肥大、心不全、高血圧を引き起こします。

《呼吸器系》

肺胞そのものの数の減少、肺の弾性力の低下などにより、呼吸機能が全般的に低下します。

《消化器系》

咀嚼(そしゃく)や嚥下能力の低下による誤嚥性肺炎、消化管運動が低下することによる便秘や便通の異常、胃内容物の食道への逆流による逆流性食道炎などが見られます。

《腎泌尿器系》

糸球体(腎臓のろ過装置)の喪失や腎血流量の低下、ろ過率の低下により夜間尿量が増え、尿失禁を引き起こします。

《骨格系》

骨量や骨密度の低下による骨粗鬆症や骨折、関節液減少や滑膜の弾力低下による関節炎を引き起こし、寝たきりとなる方も少なくありません。

 

 

このほかにも内分泌系の糖尿病、副腎皮質や甲状腺の機能低下、また視力の低下や聴力の低下など、高齢者は臓器の機能低下により身体のゆがみがあれこれ出てきます。さらに免疫系の機能低下によって がんが生じやすくなり、感染症になりやすく治りにくいといった不具合も出てきます。

また上記の腎泌尿器系では、腎機能低下による腎不全も高齢者にはよくみられ、腎性貧血が生じてくる例もあります。重症化すると、人工透析や輸血が必要になってきます。

 

ちなみに心不全や腎不全という呼称は、心機能低下や腎機能低下とイコールです。よく新聞の訃報欄に心不全などと書かれていることから「あなたは心不全です」といわれたとショックを覚える方がいらっしゃいます。この場合、通院先の診察室で指摘されたのであれば多くは慢性心不全でしょうから、心機能が一定レベルより低下している状態を指摘されたと解釈してください。

一方、救急搬送される心不全は、慢性心不全の急性増悪または急性心不全で、急性心不全の大半は心筋梗塞によります。

 

慢性心不全は文字どおり慢性の経過をとり、心機能が徐々に低下しますが、心拍出量を維持しようとさまざまな代償機能が動き出しているため、無症状の時期があります。つまり症状がみられるようになったときは、かなり悪化していることが多いのです。

慢性心不全が進むと、急性増悪をしばしば起こすようになり、入退院を繰り返すようになります。

しかも治療して退院しても、入院前の状態よりレベルが落ちていることが多いため、入院するたびに一段また一段と心機能が落ちて重症化していく点が、慢性心不全の悩ましいところです。

腎機能低下を意味する腎不全は、腎機能の3割が低下した状態(7割は温存されている)をいいますが、透析が必要になるのは腎機能が1割を切った場合です。

 

 

話を戻しましょう。

むかしできていたという点に立てば、齢を重ねることであれもこれもできなくなってくるのが “老化”の本質です。知っておきたいのは、諸機能の低下が程度の差こそあれ連鎖反応的に進行する割には自覚症状に乏しく、わかりづらい点です。(老いとの向き合い方 後半 に続く)

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