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健康長寿サロン

インフルエンザ予防に、
歯磨きが有効ってホント?

インフルエンザが夏の終わりから流行っています。インフルエンザもコロナも、罹らないためにはマスク着用や手洗い、三密を避けるなどが大事なのでしょうが、それ以外に歯磨きが効果的と聞きました。本当でしょうか? とのリクエストがありました。

 

 

おなじみだったはずのインフルエンザも、意外に「?」なことばかり

インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる感染症です。

日本では毎年、約10人に1人が感染しています。例年の感染ピークは1月から2月ですが、今年(令和5年)は夏季~秋季にかけて流行が始まっています。

世界的規模でいうと、インフルエンザの流行は1年をかけて北半球と南半球を往復しています。日本の冬季には北半球で、また夏季では南半球で流行しているというのがこれまでのスタイルでした。

また冬季にインフルエンザが流行る理由のひとつに、乾燥した空気がありました。けれども高温多湿な夏季にこれだけ流行った事実をみてしまうと、夏に高熱が出た場合「インフルエンザはあり得ない」との思い込みから検査をしなかっただけで、実際には夏季にもインフルエンザが散発していた可能性があります。さらに高温多湿な環境でも流行るのであれば、乾燥した空気に湿気を与えようと、冬季に加湿器を積極的に設置していたスタイルも見直す必要がありそうです。

少なくとも窓に結露がみられるほど加湿するメリットとデメリットくらいは話し合ってもいいでしょう。結露した窓枠のゴム部分にはカビが生えやすいためです。

 

インフルエンザの典型的な症状は、38度以上の発熱、頭痛、全身の倦怠感、ふしぶしの痛みですが、ノドの違和感や胃腸症状がみられる例もいます。一方、新型コロナウイルス感染症の場合、ノドの違和感や痛み(咽頭痛)はほぼ必発で、38度以上の発熱、全身の倦怠感、ふしぶしの痛みがみられるほか、胃腸症状がメインの例もいます。

インフルもコロナも、そのあと咳が出てくる点で共通していますから、両者を症状だけで見分けるのは難しいといえます。

ここまでが、2023年におけるインフルエンザの、ざっくりとしたまとめです。

 

 

歯磨きによりインフルエンザ感染者が減る

さて、高齢者施設で口腔ケアが大切なことは、もはや常識になっています。理由は、口腔内細菌と誤嚥性肺炎との関係が明らかになったからです。今回は誤嚥性肺炎については触れませんが、インフルエンザ対策にも歯磨きによる口腔ケアが効果的といった話があるようです。

そこでまず、以下のコラムを紹介します。これを読むと、インフルエンザと歯磨きとの関係性は2003年ごろから注目されるようになったことがわかります。

 

東京歯科大学の奥田克爾氏らの研究グループは、歯磨き(口腔ケア)がインフルエンザの予防に関与するかどうかを調べるため、東京都府中市の特別養護老人ホームのデイケアに通う65歳以上の高齢者98人を対象として調査を実施しました。

調査期間はインフルエンザの流行期である2003年9月から04年3月で、歯科衛生士による口腔ケアと集団口腔衛生指導を1週間に1回の頻度で実施しました。

その結果、インフルエンザの発症は1人でしたが、別のデイケアに通う高齢者92人に歯科衛生士が関与しない、つまり本人および介助者による通常の口腔ケアを続けたところ、9人の人がインフルエンザを発症しました。

 

各施設でのワクチン接種率に有意な差はなかったものの、歯科衛生士が関与したグループはインフルエンザの発症率が98人のうちわずか1人(約1.0%)であったのに対し、関与しないグループは92人のうち7人(約9.8%)となり、およそ10倍もの差があることが明らかになったのです。

また、歯科衛生士が関与する口腔ケアを実施したグループでは、関与しないグループより口腔内の細菌数が減少したほか、インフルエンザウイルスの感染を助ける酵素であるプロテアーゼとノイラミニダーゼの活性が低下し、感染が抑えられたことも判明しました。(「なんと、歯磨きでインフルエンザは予防できる! 風邪の季節に知っておきたい口腔ケアとウイルス感染の関係」から)

 

 

むし歯があるとインフルエンザに罹りやすい

口腔ケアとインフルエンザの感染の関係については、スペイン風邪のパンデミックが発生した1918~1919年当時、米国歯科医師会研究所の初代所長や米国歯科医師会の会長を務めた歯科医師であり医学者でもだったウェストン・A・プライス (Weston Andrew Valleau Price:1870年9月6日生–1948年1月23日没)が研究成果を発表しています。

プライスによれば、スペイン風邪に罹患した患者を、むし歯などの歯科感染症の有無によって2群に分け、重症患者の割合や罹患率を比較したところ、歯科感染症がある群では重症者が72%であったのに対し、歯科感染症がない群の罹患率は32%と低かったと発表しました。

遠い昔に、こうした分析報告があったことは驚くばかりですが、その着眼点には脱帽です。

この古い文献が、インフルエンザと口腔ケア研究の糸口になったのかもしれません。

 

ウイルスの増殖を手助けする口腔内ノイラミニダーゼ

空気中のインフルエンザウイルスは、咽頭や上気道の粘膜に吸着し、細胞内に侵入することで感染を起こします。口腔内細菌が繁殖すると上気道を保護している粘膜を分解し、感染が起こしやすくなると考えられています。また歯垢のなかにあるプロテアーゼというタンパク分解酵素は、気道粘膜にウイルスを侵入させやすくし、インフルエンザの感染成立を手助けしているといった話もあります。

口腔内細菌は、ノイラミニダーゼという酵素を産出するのですがウイルス由来のノイラミニダーゼと同様のはたらきをします。そのため、口腔・上気道にノイラミニダーゼ活性をもつ細菌が大量に存在すると、インフルエンザの重症化を招くと推察されています。

2006年に発表された東京歯科大学の奥田克爾教授らの論文によれば、口腔ケアをおこなうと細菌数が減り、このノイラミニダーゼとトリプトファン様プロテアーゼと呼ばれる細菌性酵素のはたらきが低下し、インフルエンザの感染が10分の1になったということです

また、2013年に鶴見大学歯学部の濱田良樹教授が日本大学医学部総合医学研究所と共同でおこなった研究では、ノイラミニダーゼを阻害して効果を発揮する抗ウイルス薬であるタミフル、リレンザは口腔内細菌由来のノイラミニダーゼにはまったく影響を及ぼさなかったという結果も示されています。

 

……ちょっと話が難しくなってきました。もともとインフルエンザの話は難しいのですが、少しでも頭の整理になるようインフルエンザのおさらいをしてみます。

 

 

インフルエンザウイルスの構造特徴

インフルエンザウイルスは球形で、まわりに2種類のたんぱく質の突起をたくさん持っています。

この2種類の突起はヘマグルチニン(HA:以下「H」とする)とノイラミニダーゼ(NA:以下「N」とする)と呼ばれ、「H」はインフルエンザウイルスが生体細胞内に侵入するのに重要なはたらきをします。一方の「N」は、細胞内で増殖したウイルスを遊離させることによって感染を広げます。

 

もう少し詳しくいうと、ウイルスは自分だけでは増殖できないので、仲間を増やすために宿主細胞に感染するのですが、「H」はインフルエンザウイルスが宿主細胞に付着するために必要なタンパク質といえます。

「H」によって宿主細胞に付着したインフルエンザウイルスは、自身の遺伝子を宿主細胞に送り込み、感染して宿主細胞に新たなインフルエンザウイルスを作らせます。このとき、宿主細胞の中に作られたインフルエンザウイルスを宿主細胞の外へと出すために働くのが「N」です。

 

これまでソ連型とか香港型ということばを耳にしたことがある方も多いと思います。ソ連型も香港型もA型インフルエンザに属すのですが、ウイルス表面のたんぱく質の突起が微妙に異なっているため、№で区別しています。ソ連型はH1N1と、また香港型はH3N2と表記されます。

B型も「H」と「N」を持っていますが、A型ほどバラエティーに富んでいないため、A型のみが「H」と「N」で分類をした亜型で示されます。

 

そもそもインフルエンザウイルスは鳥類を宿主としているウイルスで、ヒトへの感染はニワトリなどの家禽からブタやウマなどの家畜を介して変異するケースが大半と考えられています。

 

現在までに発見されたインフルエンザウイルスの「H」は16種類ありますが、その中でこれまでにヒトで流行を起こしたことがあるのは、“H1” “H2” “H3”の3種類だけです。

N」は9種あるので、「H」と「N」の組み合わせは、16×9=144種あることになります。

しかし現実には、3つの種しか確認されていません。1918年のスペイン風邪、1977年ソ連風邪や2009年の新型インフルエンザは、いずれも“H1N1”でした。1957年のアジア風邪は“H2N2”でした。

そして1968年の香港風邪は“H3N2”だったわけですから、1900年代にヒトで大流行を起こしたA型インフルエンザウイルスは、3つの組み合わせしかありません。

 

もっとも最近話題となった“H7N9”や、高病原性トリインフルエンザ“H5N1”など新種のインフルエンザウイルスは、ヒトからヒトへの感染は確認されていないものの、単体のヒトへの感染が確認されているインフルエンザウイルスは増えているのですから、まだまだ安心できないのも事実です。

 

 

インフルエンザ感染と歯磨きの関係性は深いらしい

というわけで、ここまでの話をまとめてみます。

1.インフルエンザウイルスが感染を成立させ、周囲に拡散していくためには、ウイルス粒子の表面にある「H」と「N」がカギを握っている。

2.宿主細胞に付着するときに働くのが「H」。「H」により付着に成功したインフルエンザウイルスは、自身の遺伝子を宿主細胞に送り込み、感染して宿主細胞に新たなウイルスを作らせる。

そのあと、宿主細胞の中に作られたインフルエンザウイルスを、宿主細胞の外へと出すために働くのが「N」。つまり個人を感染させるのが「H」であり、他人への感染を広めるのが「N」である。

3.口腔内の細菌は上気道を保護している粘膜を分解し、感染を起こしやすくする。また歯垢のなかにあるプロテアーゼが、気道の粘膜にウイルスを侵入させやすくする。

4.口腔内細菌が放出するノイラミニダーゼは、ウイルス由来のノイラミニダーゼと同様のはたらきをする。このため、口腔・上気道に細菌が大量に存在すると、インフルエンザウイルスは体内で容易に増え続け、体外に出て行った多量のウイルスが他者への感染を広める。

 

これらがすべて事実であるとすれば、口のなかをできるだけ清潔に保つことは、インフルエンザ感染を最小限にとどめるために有効であると思われます。

 

 

多種の有効成分を含む唾液は大事 

さて、インフルエンザから身を守る上で、地味ながら大事な要素とされているのが、唾液です。

唾液は1日に1~1.5ℓ分泌されます。その唾液には、いくつかの大切な役割があります。

そのひとつが、唾液のもつ抗菌作用です。唾液には、IgA(免疫グロブリンA)と呼ばれる身体の粘膜を菌から守る成分が含まれているため、細菌感染予防(局所免疫と呼ばれる)になっているわけです。

ちなみに涙にもIgAが含まれ、外界から感染しにくい環境を作ってくれています。

 

(一般財団法人日本口腔保健協会冊子「お口の健康とメタボリックシンドローム」より)

 

唾液の抗菌作用がしっかりと機能するためには、口腔内を清潔に保つことに加えて、唾液の量や質も大切になってきます。しかし現代人は唾液が減少気味といわれています。

唾液の量を増やすことや質の良い唾液を出すためには日頃の習慣を見直すことが大切です。

 

IgA抗体は、有害な微生物を排除する役割を持ちますが、口腔内が汚れていると免疫機能がうまく働かなくなってしまうため、感染リスクが高くなります。

口腔内を清潔に保つことは、IgA抗体が効果的に働ける環境づくりという点からも大事なのです。

(日本歯科医師会HP「口腔ケアで免疫力アップ」より)

 

 

唾液分泌を促すためにはよく噛み、舌を動かそう

口腔内をできるだけ清潔に保ち、必要最低限の唾液を確保するためのポイントを2つご紹介します。

まずよく噛んで食べることです。時間をかけてよく噛む行為は、あらゆる食べものが加工されて“やさしく” なってきた現代人にとって、おろそかになりがちです。

またこのところ唾液が少ないと感じている人は、唾液分泌を担当している唾液腺をマッサージしたり、舌の体操を日々行ってみてください。

 

POINT1よく噛んで食べる

 

 

POINT2唾液腺マッサージや舌体操

(一般財団法人日本口腔保健協会冊子「口からはじまる全身の健康」より)

 

 

参考資料)

「インフルエンザと口腔ケア~みんなで知って、みんなで注意~」2019年12月26日 一般財団法人 日本口腔保健協会

「口腔ケアでインフルエンザ予防~新型コロナとの同時流行を警戒~」2020年11月27日 一般財団法人 日本口腔保健協会

「口腔ケアによるインフルエンザ予防」2021年1月7日 栩木厳也 静岡県歯科医師会コラム

「なんと、歯磨きでインフルエンザは予防できる! 風邪の季節に知っておきたい口腔ケアとウイルス感染の関係」2023年10月6日 HugKum小学館

「コロナ禍の今、歯科医としてお伝えしたいこと ~口腔ケアとインフルエンザ~」2022年9月22日 公益社団法人・神奈川県歯科医師会 神奈川県歯科医師会 江口歯科医院 江口康久万

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