加齢に伴う骨、筋肉などの変化について
加齢に伴って骨や筋力が低下することは、もはや周知の事実になっています。新聞やニュースをみていると骨粗鬆症のほかに、カタカナ表記されるロコモとかフレイルといった用語があります。
用語の説明や、日常生活での留意点についての説明を、とのリクエストがありました。
加齢に伴う骨格の変化
1.骨密度の低下(骨粗鬆症)
加齢により骨の形成と吸収のバランスが崩れ、骨密度が低下します。特に閉経後の女性はエストロゲンの減少により骨密度が急激に減少し、骨粗鬆症のリスクが高まります。
2.骨の変形と姿勢の変化
脊椎の圧迫:背骨(特に胸椎や腰椎)の椎体が圧迫骨折しやすくなり、背中が曲がり「円背(猫背)」が進行します。
身長の低下:椎間板の変性や骨の圧迫により、身長が低下します。
O脚・X脚の進行:膝関節の軟骨がすり減ることで、O脚やX脚が進行しやすくなります。
3.関節の変形(変形性関節症)
加齢に伴い、関節の軟骨がすり減ることで変形性関節症が進行しやすくなります。特に膝関節や股関節で痛みや可動域の制限が起こります。
4.筋肉・靭帯の衰えによる影響
骨だけでなく、周囲の筋肉や靭帯も弱くなるため、関節の安定性が低下し、転倒しやすくなります。また、姿勢を支える脊柱起立筋や腹筋の衰えにより、姿勢が崩れやすくなります。
5.歯や顎の骨の変化
歯槽骨の吸収:歯を支える骨(歯槽骨)が減少し、歯が抜けやすくなります。
顎関節の変形:顎の骨が減少すると、咬み合わせの変化や顎関節症を引き起こすことがあります。
6.対策としてのポイント
カルシウム・ビタミンDの摂取(乳製品、小魚、きのこ類など)
適度な運動(ウォーキング、ストレッチ、筋力トレーニング)
正しい姿勢の維持(猫背を防ぐ姿勢を意識する)
定期的な健康診断(骨密度検査など)
加齢による骨格の変化は避けられませんが、適切なケアを行うことで進行を遅らせ、健康な生活を維持することができます。
以下の図は、健康状態からフレイルという状態を経て、寝たきりになっていくイメージです。
中央の緑ゾーンのフレイルで踏みとどまれるかどうかが、分岐点になります。
骨粗しょう症
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨密度が低下し、骨がもろくなり、骨折しやすくなる疾患です。特に高齢者や閉経後の女性に多く見られます。
骨粗しょう症の原因
1.加齢
年齢とともに骨を作る働き(骨形成)が低下し、骨密度が減少します。
2.ホルモンの影響
閉経後の女性は**エストロゲン(女性ホルモン)**が減少するため、骨の吸収が促進され、骨密度が急激に低下します。
3.栄養不足
カルシウム不足(牛乳、小魚、緑黄色野菜など)
ビタミンD不足(魚、きのこ類、日光浴で合成)
ビタミンK不足(納豆、緑黄色野菜)
4.運動不足
適度な運動(ウォーキング、筋トレなど)が不足すると、骨への負荷が減り、骨が弱くなります。
5.遺伝的要因
親が骨粗しょう症の場合、遺伝的にリスクが高まることがあります。
骨粗しょう症の症状
初期には自覚症状がほとんどありませんが、進行すると以下のような症状が現れます。
背中や腰が痛む(骨がもろくなり圧迫骨折を起こすため)
身長が縮む(背骨の骨折や変形のため)
姿勢が悪くなる(猫背)
転倒で骨折しやすくなる(特に大腿骨、脊椎、手首など)
骨粗しょう症の予防と対策
1.バランスの良い食事
カルシウムを摂る(牛乳、小魚、チーズ、豆腐など)
ビタミンDを摂る(鮭、いわし、きのこ類など)
ビタミンKを摂る(納豆、ブロッコリーなど)
2.適度な運動
ウォーキングや軽い筋力トレーニングで骨に刺激を与える
ストレッチやヨガで柔軟性を保つ
3.日光浴(1日15〜30分程度)
ビタミンDを体内で合成するため、適度な日光浴が重要です。
4.禁煙・過度な飲酒を控える
喫煙や過度のアルコール摂取は、骨密度を低下させる原因になります。
5.定期的な骨密度検査
特に50歳以上の女性やリスクのある人は、定期的な検査を受けると早期発見につながります。
治療法
薬物療法(ビスフォスフォネート製剤、ホルモン補充療法など)
生活習慣の改善(食事・運動・日光浴)
骨粗しょう症は早期に予防・対策をすることで進行を遅らせることができます。骨折を防ぐために、日常生活の中でできる対策を意識しましょう!
サルコペニアとフレイル
サルコペニアとフレイルはどちらも加齢に伴う体の衰えを示す概念ですが、意味が異なります。
サルコペニアの定義は、加齢や疾患により筋肉量・筋力・身体機能が低下する状態をいいます。主な原因は加齢、運動不足、栄養不足、慢性疾患で、特徴としては筋肉量の減少・筋力低下・歩行速度の低下がみられます。その結果、転倒・骨折・要介護リスクが増したりします。予防や対策は、筋力トレーニング、たんぱく質摂取です。
一方、フレイルの定義は、加齢に伴い心身の活力(筋力・認知機能・社会性)が低下し、健康と要介護の中間的な状態をいいます。主な原因はサルコペニア+栄養不足、慢性疾患、社会的孤立で、特徴としては身体的・精神的・社会的な衰えがみられます。その結果、サルコペニア・認知症・うつ・要介護リスクが増したりします。予防や対策は、運動・栄養・社会参加ということになります。
◆ サルコペニアとは?
1.サルコペニアの意味するところ
サルコペニアは、筋肉量・筋力・身体機能の低下を指します。特に下半身の筋肉が衰えやすく、転倒・骨折のリスクが高まります。
2.サルコペニアの診断基準(AWGS 2019)
・ 筋力低下:握力が男性28kg未満、女性18kg未満
・ 歩行速度低下:0.8m/秒未満
・ 筋肉量の減少
これらのうち、筋力低下+筋肉量減少があると「サルコペニア」と診断されます。
3.サルコペニアの予防・対策
筋力トレーニング(スクワット、レジスタンストレーニングなど)
たんぱく質摂取(肉、魚、卵、大豆製品)
ビタミンDの摂取(魚、きのこ、日光浴)
◆ フレイルとは?
フレイル(Frailty)とは、高齢になるにつれて心身の活力が低下し、健康な状態と要介護の中間にある虚弱な状態を指します。フレイルの状態になると、ちょっとしたきっかけで転倒や病気になりやすくなり、放置すると要介護状態に進行するリスクが高まります。フレイルは、健康な状態と要介護の中間で、体力だけでなく、認知機能や社会的なつながりの低下も含みます。
フレイルの原因 その1) 身体的要因
🔹 筋力・筋肉量の低下
- 加齢により筋肉が減少し、運動能力が低下する。
- 運動不足や低栄養が加速させる。
🔹 慢性疾患や病気の影響
- 糖尿病、高血圧、心疾患、腎疾患などの慢性疾患は、筋力や体力の低下を引き起こす。
- 病気や手術後の安静が長引くと、さらに体力が低下しやすい。
🔹 栄養不足
- 高齢になると食欲が低下し、タンパク質やビタミンが不足しやすい。
- 低栄養が続くと筋肉量が減少し、フレイルを進行させる。
🔹 口腔機能の低下(オーラルフレイル)
- 噛む力や飲み込む力(嚥下機能)が低下すると、食事の量が減り、栄養不足に陥りやすい。
- 口腔の機能低下は全身のフレイルにもつながる。
フレイルの原因 その2) 精神・心理的要因
🔹 認知機能の低下
- 加齢に伴い記憶力や判断力が低下し、日常生活の自立度が低くなる。
- 認知症が進行すると、運動量の減少や食事の偏りが起こり、フレイルが悪化する。
🔹 うつや意欲低下
- 高齢になると、退職、配偶者や友人の死、身体の不調などの喪失体験が増え、うつ状態になりやすい。
- うつ状態が続くと外出や運動が減り、フレイルが進行する。
フレイルの原因 その3) 社会的要因
🔹 社会的孤立
- 退職や家族構成の変化により、人との交流が減る。
- 孤独になると、外出や運動の機会が減り、フレイルが進みやすい。
🔹 経済的な問題
- 収入が減ることで栄養バランスのとれた食事が難しくなったり、健康管理に支障が出ることがある。
🔹 活動の減少
- 趣味や地域活動への参加が減ることで、体力や認知機能の低下につながる。
フレイルの診断基準(FRAILスケール)
・疲れやすい
・歩行速度の低下
・活動量の低下
・体重減少
・筋力低下
このうち3つ以上該当すると「フレイル」と診断されます。
フレイルの予防・対策
-
運動習慣をつける
- ウォーキングや軽い筋トレを行う
- 片足立ちやスクワットでバランス力を鍛える
-
栄養をしっかり摂る
- タンパク質を積極的に摂取(肉、魚、卵、大豆製品など)
- ビタミンやミネラルをバランスよく摂る
-
社会参加を心がける
- 地域の活動に参加する
- 家族や友人との交流を増やす
-
定期的な健康チェック
- 健康診断を受ける
- フレイルの兆候がないか確認する
フレイルは「早期発見・早期対応」が重要です。気になる症状がある場合は、医師や専門家に相談することをおすすめします。
あ
まとめ
サルコペニア=「筋肉の衰え」
フレイル=「心身の衰え+社会性の低下」
共通の予防策=「運動・栄養・社会参加」
適切な生活習慣を心がけ、健康寿命を延ばしましょう!
ロコモティブ・シンドローム
ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)とは、骨・関節・筋肉などの運動器が衰え、移動機能(歩く・立つなど)が低下し、要介護のリスクが高まる状態を指します。
日本整形外科学会が提唱した概念で、高齢者だけでなく若い世代でも運動不足や生活習慣の影響で進行する可能性があります。
ロコモの原因
ロコモは主に運動器の障害によって引き起こされます。
1.筋肉・骨・関節の衰え
サルコペニア(筋肉量の減少・筋力低下)
骨粗しょう症(骨密度の低下・骨折リスクの増加)
変形性関節症(膝・股関節の軟骨がすり減り痛みが発生)
2.バランス能力の低下
転倒しやすくなり、骨折や寝たきりのリスクが高まる
3.運動不足・生活習慣の影響
体を動かす習慣がないと、筋力が低下しロコモが進行
ロコモのチェック方法(ロコチェック)
以下の項目のうち1つでも当てはまるとロコモの可能性があります。
✅ 片脚立ちで靴下が履けない
✅ 家の中でつまずいたり滑ったりする
✅ 階段を上がるのに手すりが必要
✅ 横断歩道を青信号の間に渡りきれない
✅ 15分以上歩くのがつらい
✅ 2kg程度の荷物を持ち帰るのが難しい
✅ 家の中での生活に支障を感じる
ロコモの予防と対策
1.運動習慣をつける(ロコモーション・トレーニング)
ロコモーション・トレーニング(ロコトレ)は運動器を鍛えて、ロコモの予防や改善をする運動です。自信がない人は机に手をついて行うなどして負荷を調整しながら、無理せずに自分のペースで続けましょう。
開眼片足立ち(バランス能力のトレーニング)
①背すじを伸ばし、両足を床につけて立つ。
②転倒しないように机などにつかまり、目を開けたまま、片足を床から5cmほど離して、1分間キープする。
③反対側の足も同様に行う。
④これを1セットとして、1日3セット程度繰り返す。
スクワット(下肢の筋力トレーニング)
①両足を肩幅くらいに開いて立ち、つま先を30°くらい外側に向ける。
②いすに腰かけるように、息を吐きながらゆっくりと腰を下ろす。膝はつま先と同じ方向に向けて、つま先より前に出ないようにする。
③膝が90度近く曲がるところまで腰を下ろしたら、ゆっくり呼吸をしながら元の姿勢に戻る。痛みが出ないよう、膝は90°以上曲げないようにする。
④5~6回を1セットとして、1日3セット程度繰り返す。転倒が心配な場合は無理をせず、机に手をついて行う。
2.栄養をしっかり摂る
たんぱく質(筋肉を作る):肉、魚、大豆、卵
カルシウム(骨を強くする):乳製品、小魚
ビタミンD(骨の健康維持):魚、きのこ、日光浴
3.転倒・骨折を防ぐ環境づくり
家の中の段差をなくす
滑りにくい靴を履く
手すりを設置する
ロコモとフレイル・サルコペニアの関係
ロコモ=運動器の衰えによる移動機能低下
サルコペニア=筋肉量の低下(ロコモの原因の1つ)
フレイル=身体・認知・社会的な衰え(ロコモが進行するとフレイルになる)
つまり、ロコモが進行するとフレイルにつながり、要介護のリスクが高まるため、早めの対策が重要です。
まとめ
✅ ロコモとは? → 運動器の衰えで移動機能が低下する状態
✅ 原因 → 筋力低下、関節・骨の変形、運動不足など
✅ チェック方法 → 「ロコチェック」で簡単にセルフチェック
✅ 予防策 → 運動・栄養・生活環境の見直しで対策
ロコモを予防して、健康寿命を延ばしましょう!
参考資料)
「骨粗鬆症の原因」(健康長寿ネット 公益財団法人長寿科学財団法人 2019年2月)
「サルコペニアとは――その原因、診断、適切なケアと治療の重要性」(Medical Note 監修:若林秀隆先生)
「あなたは大丈夫? “フレイル” 介護や寝たきりにならないために 簡単フレイルチェックリスト」(NHK 医療と介護を考える 2023年11月10日)
「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」(大正健康ナビ 監修:石橋英明先生)