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健康長寿サロン

足が浮腫む(むくむ)
……原因は? 対応は?

足の浮腫みとくに足背に浮腫みが目立つようになっており、靴が履きづらくなってきました。

病気でしょうか? 高齢者の浮腫みについて原因や対処法などを とのリクエストがありました。

 

 

高齢者は血管の外の水がだぶつきやすい

浮腫みに悩んでいるといった高齢者の声は、日ごろからよく耳にします。一方、若い人たちのなかにも、足が浮腫んで困ると悩んでいる人がいます。多くは立ち仕事の人です。

 

心臓から出た血液は全身をめぐり、諸臓器を潅流したあとふたたび心臓に戻ってきます。頭のように心臓より上にある臓器には、重力に負けないよう心臓と血管の“力”によって血液が送りだされます。頭を通過したあとは重力があるので、速やかに心臓に戻ってきます。

 

一方、心臓より下にある諸臓器や下肢(足)へは、心臓から出た血液が重力の影響もあって容易に届きますが、問題は心臓に戻るときです。重力に逆らって心臓に戻るためには、背中を押されるような動脈からの圧と、逆流してずり落ちないよう静脈に設けられた弁が働いています。

それでもうまくいかず、血管内圧が上がったり、行き場を失った液体成分が血管の外に順次 漏れていくと、皮下組織に水が溜まっていくため浮腫みが生じます。

 

毛細血管や微細な静脈は、そもそも孔開きパイプのような構造をしています。孔といっても微細な孔です。特徴的なのは、この孔はほとんど閉じた状態から、がばっと開いた状態まで臨機応変にサイズを変える点にあります。自動的というよりは 細胞間相互連絡物質の影響を受けてサイズ変更が行われます。

 

血管の壁に孔がなければ、血管内の物質が血管外に移っていくことはありません。ですから孔には目的があります。たとえば皮膚の炎症や骨折したようなとき、血管内の細胞や有効成分が血管の外に移っていくことで、“問題が生じている組織” は修復されていきます。皮膚が炎症を起こしたときも骨折でも、患部が膨れ上がるのは、血管から外に出た水分や物質があるからです。

修復が終わると皮下組織で働いていた成分のうち、ゴミと化した部分は お掃除細胞(食べ込み細胞)によって順次食べ込まれ、そうでない成分は血管内に戻っていきます。

こうして一連の異常状態は正常化されます。

 

毛細血管や静脈の孔から漏れる水分が慢性的にだぶついている状態が、浮腫みの本体です。

なお医療の現場では、浮腫み(むくみ)のことを「浮腫(ふしゅ)」と呼んでいます。

では、どういったときに血管外に水分がだぶつくのでしょうか。

高齢者にみられる浮腫みについて、順を追って説明していくことにします。

 

 

 

浮腫みの原因

みなさんが経験する「症状」には、病気が関係しているものと、そうでないものがあります。

たとえばダルさ(倦怠感)を覚えたとき、病気が原因となってダルさを覚える代表には、貧血や低栄養があります。しかし徹夜した翌日や、子どもの運動会で頑張りすぎたお父さんも、翌日にダルさが生ずるでしょう。こちらは病気ではない例です。

 

浮腫みがある場合も同様で、病気による場合と、そうでない場合があります。

足の浮腫みを確認した医師は職業柄、まず病気があるのではと考えます。心臓のポンプ機能が低下して全身の血液循環がうまくいかなくなる状態(心不全)や、血液中の老廃物や余分な水分をろ過する腎機能が低下した状態(腎不全)があるのではないかと案じ、確認する行動に出るわけです。

 

諸検査の結果、病気がないらしいことがわかったら、生活習慣や日ごろの暮らしぶりに目を向けて、浮腫みにつながる要素がないかが検討されるでしょう。加齢以外の要素として浮腫みを招く原因は、長時間同じ姿勢で居続けることや、塩分、水分の摂り過ぎ、お酒の飲み過ぎ、過労やストレスなどが知られています。

 

浮腫みの原因が病気である場合は、足以外にも顔や手の浮腫みや息切れ、疲れやすいといった症状を伴うことがあります。たとえば心不全が悪化進行して胸水が溜まると息切れが強く、貧血が進行した場合も息切れが生じます。疲れやすさは心不全や貧血のほか、甲状腺機能低下症、低栄養でも生じます。

そこで浮腫みを招く病気について説明していきます。

 

 

 

病気による浮腫み

両足とも浮腫んでいる場合と、片足だけが浮腫んでいる場合では、原因が異なります。

 

《両足に浮腫みが生じやすい病気》

頻度としては心機能の低下、腎機能の低下、貧血が多いといえます。

ただしどの病気でも、軽症なら浮腫みは生じません。

 

1.心機能の低下(心不全)

心臓のポンプ力が低下した状態です。若いときの力が10だとすると、8や7の状態で浮腫みが生じてきます。さらに5や6レベルになると胸水が溜まる現象がみられます。たとえば心臓のなかにある4つの弁のどこかに狭窄や閉鎖不全があって 血液が心臓内で逆流する場合は、駆出するための血液が増えてしまうため心臓は疲れていきます。また高血圧症があっても放置されていた場合も、心臓は徐々に大きくなっていくため、ポンプ力は低下していることが少なくありません。心臓の筋肉自体がパワー不足になっていく例もあります。

4つの弁のどこかに狭窄や閉鎖不全がある場合は、総じて心臓弁膜症と呼ばれます。弁置換術といった外科的対応がされる場合もありますが、高齢者では本人やご家族が希望されないケースも多く、その場合は心不全に対する内科的治療が行われます。

 

なお「心不全」という呼称は、心機能が低下した状態で使われます。程度はピンキリで、軽い場合は投薬せず、塩分や水分制限といった日常生活指導で観察になる例が大半です。中程度になると利尿剤が加わるようになり、それ以上になると心不全に特化した薬剤が導入されます。

 

蛇足ながら有名人の訃報欄に「心不全にて死去」とあることから、心不全イコールもうダメと思っている方がいらっしゃいますが、亡くなられたときに付けられる心不全という病名には、持病としての慢性心不全が重症化して死に至ったという本来の場合と、死因は特定しにくいが状況からみて心臓にトラブルがあったと想定されたために付けられた場合があります。

 

2.腎機能の低下(腎不全)

腎臓とは、老廃物を除去するフィルターであるといったイメージは、多くの人が持っているようです。しかし腎臓にはそれ以外の機能もあります。フィルターでろ過されて、捨てられる側に行ってしまった有効成分を再取り込みしたり、水分や電解質を調整しているほか、血圧調整装置としての役割もあったりします。

腎機能が大きく低下すると、足ばかりではなく顔の浮腫みも目立ってきます。

 

3.貧血

イメージとしては血液がしゃびしゃびに薄まる感じです。孔開き血管から水が漏れ出ていくことで浮腫みが生じます。

 

4.ネフローゼ症候群

腎臓からタンパクが漏れ出てしまうため、低タンパク(低アルブミン)血症になることで、孔開き血管から水が漏れ出ていくことで浮腫みが生じます。

 

5.肝硬変

食べたタンパク質は、分解されたのち肝臓に運ばれ、生体を維持するためのアルブミンに再合成されます。つまり肝臓はアルブミンの合成工場といえますが、合成機能が低下することで低アルブミン血症になり、上記疾患と同じメカニズムで浮腫みが生じます。

 

6.甲状腺機能低下症

皮下にムコ多糖類と呼ばれる物質が溜まることで、二次的に浮腫みが生じます。

 

7.低栄養(栄養障害性浮腫)

2.と同じイメージで、血液がしゃびしゃびに薄まる感じです。孔開き血管から水が漏れ出ていくことで浮腫みが生じます。

 

8.アレルギー性浮腫

アレルギー反応が起こるとヒスタミンやセロトニンと呼ばれる物質が、アレルギー担当細胞から放出されます。これらが孔開き血管の孔を一気に拡大させてしまうため、皮下に大量の水分が出てくるための浮腫みです。

 

9.薬の副作用としての浮腫み

病気ではないのですが、服用している薬の種類によっては、降圧剤(血圧を下げる薬)や鎮静剤、睡眠導入剤などの副作用によって浮腫みが起こることが知られています。

浮腫みに気づいたら自己判断で薬の中断はせず、かかりつけ医に報告・相談してみてください。

 

 

 

《片足だけに浮腫みが生ずる病気》

頻度としてはリンパ浮腫、深部静脈血栓症が多いといえます。

どの病気も、軽症といえども浮腫みがよくみられます。

 

1.リンパ浮腫

高齢者には多い病態です。手術などの後遺症として生ずる例が大半です。 多いのは、がん治療に伴って発症するケースで、子宮がん・卵巣がん・大腸がん・前立腺がんなどです。

がんの手術では、転移を防ぐために、病巣だけでなく近くのリンパ節を切除することがありリンパ節郭清術と呼ばれますが、骨盤内のリンパ節が取り除かれることが、リンパ液の流れを低下させる要因となります。

ともあれ手術に伴うリンパ節切除や放射線治療、薬物療法などが原因となってリンパ液が滞り、結果として浮腫みが生じる現象が、リンパ浮腫の本態です。

 リンパ浮腫

 

2.深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)

足に回った血液は心臓に向かって上向きに進むのですが、深部静脈に血栓ができると、足先と 血栓(血の塊)が詰まっている部分の間で血管内圧が高まるため、浮腫みがみられるようになります。

ふくらはぎのほか、足首や足の甲が腫れてきます。脚全体の腫れのほか、疼痛、皮膚の色調変化も起きてきます。好発部位は下肢のほか骨盤内に多いとされます。

この血栓が血液の流れによって上に進むと、心臓を経由して肺動脈にはまり込み、肺梗塞(エコノミー症候群)になります。外界から酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出するという肺の機能は、十分な空気と潤沢な血液循環によってもたされます。肺梗塞は、血液循環がいきなりハンディを負うため、突然の呼吸困難や、突然死に陥るリスクがあります。

 深部静脈血栓症

 

3.麻痺性浮腫(片麻痺など)

脳出血や脳梗塞など脳血管障害を発症したあとで片マヒ(片麻痺)になった場合、マヒ側の手足の動きが悪くなり、筋肉を動かす力が低下していきます。そのため、麻痺側の筋肉のポンプ作用が期待できなくなり、血液がスムーズに流れにくくなります。とりわけ手と足は 身体の遠いところに位置するため、心臓に血液を送り返す力が弱くなりやすく、むくみが生じやすいといえます。つまり麻痺性浮腫は、マヒがある側の手足を使用しない、動かさない、動かせないといった状況から生じます。

 

4.下肢静脈瘤

下肢に静脈瘤があると、血液が足に溜まっていき、静脈が広がってしまうことで静脈にある弁がうまく閉じることができなくなるため、浮腫みがみられるようになります。一度浮腫み始めると、血液が停滞することで静脈がさらに膨らむことがあります。

下肢の静脈瘤は、中年以降の女性でできやすく、立ち仕事が多い方で要注意とされています。両親からの遺伝の影響や、妊娠出産、肥満、便秘なども下肢静脈瘤の発症に関わっているといわれます。

 

 

 

病気以外による浮腫み

病気以外で起こる浮腫みは、加齢による変化と、生活習慣によるものがあります。

加齢による変化は、足の筋肉量が減ったため静脈血を上に押し上げる(心臓に戻す)働きが弱くなったこと、また皮膚の張りが弱くなったため、細胞が余分な水分を静脈に押し戻しにくくなったといった点がよく指摘されます。

生活習慣によるものとしては、長時間同じ姿勢で居続けることや塩分や水分の摂り過ぎ、お酒の飲み過ぎ、過労やストレスなどが挙げられます。

 

いずれにしても高齢者特有の生活習慣によって起こる“慢性下肢浮腫” がみられる高齢者は、少なくありません。

慢性下肢浮腫は、以下のような生活習慣が原因で起こります。

・長時間座りっぱなしである → 椅子に座ったまま、あるいは車椅子に座ったまま1日を過ごしている

足を動かさないため、ふくらはぎの筋肉も動かず、下肢の血流が滞っている

・長時間立ちっぱなしである

・摂取する塩分量が増えている

ストレスを溜めていたり、過労ぎみである

 

慢性下肢浮腫は、1人暮らしの高齢女性によく見られます。一つひとつの家事に時間がかかるようになるため、料理・洗濯・掃除をする時間が増え、ずっと立ちっぱなしになるわけです。こうなると、下肢の血流が滞って浮腫みがみられるようになります。家事にかかりっきりになれば、歩く時間も減るか なくなってきます。

また、持病としての膝関節や足関節が悪い、パーキンソン病などがあると歩行しづらくなるため、結果として歩く時間が短くなり、これも浮腫みの原因になります。

 

浮腫みを放置してしまうのは危険なことも

長引く浮腫みは、二次的に病気が起きてくることもあるため注意が必要です。たとえば、先に触れた深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)や下肢静脈瘤は、そのために足の浮腫みが生ずるわけですが、逆に慢性的な浮腫みがあると、静脈内血栓や静脈瘤ができやすくなります。

同じ姿勢で長時間いる時間帯を毎日まいにち積むことはよくありません。

深部静脈血栓症から肺梗塞になると重度の呼吸困難、急死するリスクが増すことから、足の浮腫み歴が長い人や、浮腫みが年々ひどくなっている人は、受診をして医師に一度相談してみてください。

 

 

 

予防法や対応法

1.病気である場合

心機能が低下している人(心不全)や腎機能が低下している人(腎不全)のほか、貧血や低栄養など、「両足に浮腫みが生ずる病気」の欄で紹介した疾患を持つ人は、主治医の指示を受け、好ましくない生活習慣を送っていないか、チェックしてみてください。

 

2.病気ではない場合

同じ姿勢を長時間続けない

立つ・座るなど、同じ姿勢が長時間続くことが浮腫みの原因となります。30分に1回立ち上がって、数分ほど歩くだけでもふくらはぎの筋肉が刺激され、浮腫の予防につながります。また、坐っている時でも「かかと上げ運動」を行うことで浮腫みを予防できます。

ともかく同じ姿勢を長時間続けないよう、意識することから始めてみてください。

 

運動する

適度な運動も、浮腫み対策には効果があります。若いときにやった筋力をつける運動ではなく、足を使う運動がよいとされます。

推奨されている運動は、「ウォーキング」と「かかと上げ運動」の2つです。

 

《ウォーキング(歩く)》

厚生労働省は「身体活動と死亡率などの関連をみた疫学的研究の結果から『1日1万歩』の歩数が理想である」と発表しています。

しかし、最初から無理するのではなく、まずは5分からでもウォーキングを始めてみましょう。

ウォーキングは浮腫み以外の身体の不調にも効果があるため、できれば毎日取り組むとよいのですが、そこまでよくばらず、まずは週に2日あたりからやってみてください。浮腫みの防止 + 有酸素運動の2つの効果が期待できます。

 

《かかと上げ運動》

かかと上げ運動は、第二の心臓とも呼ばれるふくらはぎ(下腿三頭筋)を動かすことになるため、浮腫みには効果があります。

その場の環境に応じて、立ち姿勢でも座り姿勢でも構いません。

方法は以下のとおりです。

・椅子に座る、または壁や机などに体の一部をあずけて(つかまって)立つ

・両足のかかとを同時に上げる

・両足のかかとをゆっくり降ろす

・10〜20回繰り返す×3セット

まずは、1日10回からやってみてください。

 かかと上げ運動

 

塩分を摂りすぎない

高齢者になると味を感じにくくなるため、「気づいたら塩分を多く摂っていた」という人が多いようです。厚生労働省は塩分摂取量の目標値を「6グラム / 日」としています。また、高血圧となる可能性も高くなることから、意識して塩分摂取量を調整するようにしましょう。

ただし注意事項が2つあります。

ひとつは熱中症予防の点から、夏季には塩分制限を緩めてください。

もうひとつは高齢者の場合、極度の塩分制限をする例がよくあります。医師からいわれたといって「塩イコール毒」と考えてしまう人です。極端な塩分制限の結果、嘔気や食欲低下、頭痛や虚脱感、疲労感の進行がみられた例がありました。調べてみたら血中のナトリウムが大きく低下していたことがわかりました。毎日一杯のみそ汁を飲むことで血清ナトリウム値も正常化し、症状はすっかりよくなりました。

 

マッサージする

マッサージは、浮腫みの改善・予防につながります。リンパドレナージと呼ばれる方法は、揉みほぐすのでなく、ゆっくりと軽くさする程度の力加減で行うのが特徴です。

 

《足のドレナージ》×各10回

太ももの外側を、膝からおしりの横側まで、上に向かってさする

太ももの前面を、膝の内側からおしりの外側に向かってさする

太ももの後面を、膝裏からおしりの外側に向かってさする

膝の前面・内側・外側を上に向かってさする

膝の真裏を上に向かってさする

すねをなぞるように足首から膝まで、上に向かってさする

ふくらはぎに沿って、かかとから膝裏まで上に向かってさする

内・外くるぶしの周囲を上に向かってさする

足先を持って、足首をまわす

 足のドレナージ

 

 

 

参考資料)

「生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連」(厚生労働省)

「高齢者の足のむくみ、なぜ起こる?改善するにはどうすればい?」山本康博先生監修  Medicommi 2019/11/19

「足の浮腫に対するセルフリンパドレナージ」(一般社団法人 日本リンパ浮腫学会)

「リンパドレナージ(マッサージ効果)」(一般社団法人 日本リンパ浮腫学会)

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