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健康長寿サロン

高齢者にみられる痛みの特徴
慢性疼痛を中心に、メカニズムなど

打撲や捻挫があるわけでもないのに、からだのあちらこちらが痛みます。慢性疼痛は高齢者に多いとも聞きます。慢性疼痛や、痛みのメカニズムについてお話を、とのリクエストが複数ありました。

 

 

 

そこで、日ごろから参加されている方々に対して、どのような痛みで困っているかを医療スタッフが事前にうかがったところ、以下のような報告がありました。

Aさんは頸椎の変形性関節症で手術をしたあと腕や手のシビれや痛み、握力の低下があり、Bさんは腰椎の変形性関節症で腰痛、臀部から足にかけてのシビれと痛みがあるとのことでした。またCさんは手術をしていない膝の変形性関節症からくる痛みが年々増しているといい、Dさんは膝の変形性関節症の手術をしたあと、数年経ってから以前の痛みとは異なる痛みに悩まされているとのことでした。

Eさんはリウマチによる指の痛みがあり、またFさんはバネ指による指の痛みがあるようでした。Gさんは骨折のあとの痛みや転倒したあとの打撲痛の訴えがあり、Hさんは帯状疱疹のあとのしつこい痛み(帯状疱疹後神経痛)に悩まされているとのことでした。

IさんやJさんは、年間を通しての胃の痛み、おなかの痛み、ノドや胸の痛みがあるようでした。

Kさんは目の痛みがあり、逆さまつげ、霰粒腫や麦粒腫になりやすいとのことでした。

またLさんは、排尿時痛があるとのことでした。

このなかで最後のほうにみられた眼科的な痛みは点眼薬対応になり、排尿時の痛みは尿路感染症の有無を調べる検査で対応され改善していくものとみられます。

ともあれ多くの高齢者が、痛みに対する悩みを抱えていることがわかりました。

 

 

リクエストにあった高齢者にみられる慢性疼痛(まんせいとうつう)とは、3か月以上持続する痛みで、日常生活に支障をきたすことがある状態を指します。慢性疼痛の有病率は加齢とともに高くなり、約39%の高齢者が慢性運動器疼痛を抱えていることが調査で明らかになっています。

また、身体の広範囲に慢性的な痛みを持つ高齢者の割合は10.3~13.9%とされています。特に女性の方が慢性の痛みを持つ割合が高く、年齢が上がるほどその割合も増加する傾向があるようです。

 

持続性の痛みは、高齢者の生活の質(QOL)や自立度に大きく影響します。

そこでまず慢性疼痛の話から入っていきます。

 

 

 

高齢者にみられる慢性疼痛とは

特徴、原因、生活に及ぼす影響、対応や治療法などを順次説明していきます。

 

慢性疼痛の特徴 

痛みについては、一時的な痛みではなく数か月以上持続し、自然に消えることが少ないこと、また加齢による疾患が原因であることが大半で、背景に関節症や骨粗しょう症、神経痛があることが少なくありません。いくつかの疾患が確認されることもあるため、全身的な痛みがあるが、どこが原因なのか絞り込めないといった難しさがあります。

さらに診断を難しくしている要素として、「だるい」「重い」など、典型的な痛みの訴えが少ない点が挙げられます。

そうした要素とは別に、精神的・社会的因子が影響している例もあり、孤独や不安や抑うつ気分が痛みを強く感じさせる要因になっていたりします。

 

 

慢性疼痛の原因になる疾患

  • 変形性関節症:変形性股関節症、変形性膝関節症など整形外科領域の疾患が代表です。

  • 脊柱管狭窄症・腰椎症などの脊椎疾患:これも整形外科領域で扱われる疾患で、坐骨神経痛がみられ、神経性筋萎縮により足の筋力が落ちて細くなる例もあります。また痛みにより歩く機会が減ることで筋肉が固くなり、拘縮による痛みがみられたり、つまずきやすく転倒リスクが増したりします。

  • 骨粗しょう症による圧迫骨折後の痛み:胸椎や腰椎の圧迫骨折は、高齢者によくみられます。茶筒型をした背骨の軸が、ひしゃげた茶筒状態になるため、身長が短くなったり、体が傾いてしまう状態がみられます。

  • 帯状疱疹後神経痛(PHN):帯状疱疹は急性期の治療をしたあと、神経痛に悩む人が多いのが特徴です。長い人は数カ月にもおよび、痛み止めや神経障害性疼痛に対する治療薬を服用することになります。顔など首から上に出ると重症化しやすいこと、高齢者は2~3人に一人罹患するリスクがあることから、ワクチンによる予防対応が勧められます。

  • 糖尿病性神経障害:長期間にわたって高血糖状態が続くことで、神経が徐々にダメージを受けて発症します。一般的なのは末梢神経障害で、足先や手先から始まるシビれ、痛み、感覚鈍麻(靴下や手袋をしているような感覚)のほか、持続的な痛みがみられることもあり、夜に強くなることが特徴とされます。その他、立ちくらみや発汗異常といった自律神経障害や、単神経障害としての顔や手足の一部に急激な痛みや麻痺がみられることもあります。

  • がん性疼痛:がんが進行すると、腫瘍が神経や臓器を圧迫したり壊したりすることで痛みが生じることがあります。また、治療(手術、化学療法、放射線など)によっても痛みが出ることがあります。痛みの種類としては体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛があります。

    体性痛とは、骨転移や組織の圧迫によって生じる痛みで、鋭く、拍動するような痛みが特徴です。内臓痛とは、がんが臓器に浸潤することで発生し、深く絞られるような痛みを伴います。

    神経障害性疼痛とは、腫瘍が神経を圧迫したり、化学療法の副作用により神経が損傷することで生じる痛みで、しびれや電撃のような痛みが特徴です。これらが混在していることもよくあります。痛みの発生には、炎症性サイトカインや神経成長因子といった細胞から放出される要素が関与し、痛みの感受性を高めることで慢性化することがあります。

    がん性疼痛の治療は、WHO方式がん疼痛治療法(3段階ラダー)がよく知られています。

    《WHOの3段階ラダー》

    ・軽度の痛み → 非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン、ロキソニンなどのNSAIDs)

    ・中等度の痛み → 弱オピオイド(コデイン、トラマドールなど)

    ・強い痛み → 強オピオイド(モルヒネ、フェンタニル、オキシコドンなど)

    必要に応じて鎮痛補助薬(抗うつ薬、抗けいれん薬など)を併用したり、疼痛コントロールに神経ブロックや放射線治療も使われる場合があります。

  • 筋・筋膜性疼痛症候群:筋肉や筋膜(筋肉を包んでいる膜)に発生する慢性的な痛みの症候群です。体の一部、または広い範囲にわたるしつこいコリや痛み、圧痛が特徴です。

    筋肉の一部が過緊張(こわばって縮んだまま)になることで血流が悪化することで、酸素不足や老廃物の蓄積が起こり、痛み物質が放出され、これが「トリガーポイント」を形成して慢性痛の原因になります。トリガーポイントとは、筋肉の中にみられる圧痛点(押すと痛みが走る点)をいいます。そのトリガーポイントを押すと、離れた場所にも痛みが放散(関連痛)することがあります。原因となる明確な損傷が見つからないのに、強い痛みやしびれがあるといった厄介な症状がみられます。

  • うつ病や認知症に伴う身体症状としての痛み:しばしば見逃されがちですが、じつはとてもよくある症状です。このような痛みは、身体的な原因が明確でないのに、強く感じられることが多いのが特徴です。

    うつ病では、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)のバランスが崩れます。これらの物質は「感情だけでなく、痛みの感じ方を調整する働き」もあるため、うつ病になると、痛みに敏感になったり、痛みが強く感じられたりするのです。

    治療としては抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)が適しています。気分を改善するだけでなく、痛みにも効果があるものが多いためです。その他、心理療法やリラクゼーションが効果的である例もあります。

    また認知症では、自分の痛みをうまく言葉にできなくなることも少なくないため、痛みがあっても「表情」や「行動の変化」としてしか出てこないことが多いといえます。腰痛や関節痛、褥瘡(床ずれ)といった身体に痛みの原因がある場合や、排尿・排便の不快感や感染症による痛みがあったりします。けれども「痛みがある」と言葉にして表出できず、不機嫌になったり急に怒ったりする、食欲がなくなる、同じところをずっと触ったりこすったりする行為のほか、不眠を訴えることもあります。このため見逃されるケースも少なくありません。

    対応としては、いつもと違う様子があれば、痛みの可能性を疑うことが大切です。

 

慢性疼痛が生活に及ぼす影響

痛みがあると、運動や外出の機会が減っていきます。そうなると前回お話ししたフレイルやサルコペニアの悪化がみられるようになります。

また睡眠障害や抑うつ気分、食欲不振といった症状がみられる場合もあります。

 

慢性疼痛への対応・治療の例

💊 薬物療法)  アセトアミノフェン、NSAIDs、プレガバリンなど
🚶 運動療法・リハビリ)  無理のない範囲での関節運動、ストレッチなど
💡 心理的アプローチ)  認知行動療法や傾聴など
🧘 補完療法)  鍼灸、マッサージ、温熱療法など
👥 多職種連携)  医師、看護師、理学療法士、介護士などのチームケアが重要

慢性疼痛は「治らないから仕方ない」とあきらめられがちですが、適切な対処をすれば痛みを軽減して、生活の質を改善することはある程度、可能です。

 

 

 

拘縮痛って何?

拘縮痛(こうしゅくつう)とは、関節や筋肉が動かしにくくなって硬くなった状態(拘縮)に伴って生じる痛みのことです。拘縮とは、筋肉や関節、靭帯などが硬くなり、可動域(動かせる範囲)が制限される状態をいいます。拘縮があると、動かそうとしたときに痛みが生じることが多く、それを拘縮痛と呼びます。

 

なぜ拘縮が起きるの? 

🛏 長期の安静や不動)  寝たきりやギプス固定などで関節を使わないと、筋肉や靭帯が硬くなる
🧠 脳卒中後の後遺症)  片麻痺による関節の動かしにくさにより、筋緊張が亢進する
🦴 関節疾患)  関節リウマチや変形性関節症などで関節構造が変化すると、動かしにくくなる
🔥 炎症や外傷後)  ケガのあとの炎症や痛みをかばって動かさなくなると、拘縮に発展しやすい

 

拘縮痛の特徴

  • 関節を動かすときに痛い

  • 動かさないときはそれほど痛くない

  • 関節の動きが悪く、可動域が制限されている

  • 慢性化すると、筋力低下が起きてくる

 

拘縮痛に対する治療・対応

🤲 リハビリ・関節可動域訓練)  適切な運動で関節を動かし、柔軟性を回復させる
🔥 温熱療法)  温めて筋肉や関節の柔軟性を上げる
🩹 装具やスプリント)  関節を一定の位置に保持し、拘縮の進行を防ぐ
💊 鎮痛薬)  痛みによるリハビリの妨げを防ぐために使用
✨ 介護での工夫)  定期的な体位変換や関節の運動を取り入れる

 

拘縮とそれに伴う痛みを放置すると、日常生活動作(ADL)にも支障をきたします。早期からの対応がとても大切です。

 

 

 

そもそも痛みとは何か

痛みは、できれば味わいたくないと誰もが思うでしょうが、痛みはわたしたち生命体にとって、生存や成長のために不可欠な要素です。もし痛みがなかったら、危険を察知できず、命を守ることが難しくなるでしょう。

 

痛みの役割 その1)危険の警告

痛みは、体が傷ついたり病気になったりしたときに警告を発するシステムです。たとえば、熱いものに触れたときに痛みを感じることで、すぐに手を引っ込めることができます。これは大やけどをしないために欠かせない行為です。神経障害が起こるほど進行した糖尿病では、大やけどをすることがありますが、これは痛みを感じないために危険回避ができなかったからです。

 

痛みの役割 その2)学習と適応

痛みを経験すると、同じ経験をしたくない気持ちが働いて、危険な状況を避けるようになります。たとえば、転んで怪我をした経験があると、次回はより慎重に行動するようになります。

 

痛みの役割 その3)回復の促進

怪我や病気により痛みを感ずると無理をせず休息を取るようになります。これにより体は、回復する時間を確保することができます。

 

 

それでは痛みは、どういったメカニズムで生ずるのでしょう。

瞬時に感ずると思われがちな痛みですが、じつは順を追って生ずることがわかっています。

 

◆ 痛みのメカニズム(基本的な流れ)

「痛みに関する解剖・生理学」(関上 寅之輔 R-body)から

 

 

  1. 侵害刺激の発生
    外部からの刺激(例:切り傷、やけど、打撲など)や、内部の異常(炎症、内臓の損傷など)が起こると、「侵害受容器(しんがいじゅようき)」と呼ばれるセンサーが刺激を感知します。

  2. 神経による伝達
    侵害受容器が刺激を感知すると、その情報は末梢神経(感覚神経)を通って、脊髄へと伝えられます。

  3. 脊髄での処理と中継
    脊髄に届いた情報は、一部で簡単な反射(手を引っ込めるなど)を起こしたり、脳に向かって情報を中継したりします。

  4. 脳での認識
    情報は大脳皮質に送られ、そこで「痛い」と認識されます。脳は痛みの種類(鈍い痛み、鋭い痛み、焼けるような痛みなど)や場所、強さなどを判断します。

  5. 感情や記憶との結びつき
    痛みは、感情の調整や記憶の形成、自律神経の調整などを行っている大脳辺縁系とも関係しています。このため「つらい」「不安」といった感情とも結びつきやすいのが特徴です。これが慢性痛や急性の痛みの記憶とも関係してきます。

 

 

◆ もう少し詳しく……痛みの種類

  • 急性痛:けがや病気などによる一時的な痛み。身体を守るための警告信号。

  • 慢性痛:3か月以上続く痛み。神経や脳の痛み処理が過敏になっていることもある。

  • 神経障害性疼痛:神経自体が損傷されている場合に生じる痛み。しびれや電気が走るような痛みなど。

 

 

◆ 神経痛、内臓痛など痛みの種類は、どれくらいあるか?
痛みの種類は、医学的にいくつかの分類方法があります。
大きく分けると「原因」や「感じ方(性質)」による分類があります。
分類ごとに眺めてみると、警告としての痛みはなかなか奥が深いことがわかります。

 

 

《分類 その1》原因による分類(どこが・なぜ痛むか)

侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)

転んで膝(ひざ)を擦りむいた、擦りむいた部分の皮膚が赤く腫れて膿をもつようになったなど、外傷に伴う組織の損傷や炎症、内臓の異常などによって痛みを感じる一般的な痛み。

★ 体性痛(たいせいつう)

骨折や打撲、じん帯損傷など皮膚、筋肉、骨などの損傷が原因。鋭く、はっきりとした痛み。

 

★ 内臓痛(ないぞうつう)

内臓痛は内臓の異常によって生じる痛みで、体性痛とは異なり、鈍く広がるような痛みが特徴。痛む部位がはっきりしないことが多く、冷汗や吐き気などの自律神経症状を伴うことがある。

特徴)

  • 痛みの範囲が広い:特定の一点ではなく、漠然とした痛みを感じることが多い。
  • 関連痛がある:痛みの原因となる臓器とは異なる部位に痛みを感じることがある(例:心臓の異常で左肩が痛む)。
  • 自律神経症状を伴う:冷汗、血圧低下、吐き気などが現れることがある。

原因)

内臓痛は内臓の過伸展(膨張)や収縮によって生じることが多い。以下の疾患が代表。

  • 胃潰瘍・胃炎:みぞおちの痛み、左胸部や右胸部の痛み
  • 胆石症:右上腹部の痛み
  • 腎結石:背中や側腹部の痛み
  • 狭心症・心筋梗塞:左肩や腕の痛み(関連痛)

内臓痛は体性痛と異なり緊急性が高い場合がある。このため、強い痛みや異常な症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要。

 

②神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせい とうつう)

神経自体が傷ついたことで起こる痛み。電気が走るような、しびれる感じが特徴。

 例:坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害

 

③心因性疼痛(しんいんせい とうつう)

心理的要因が大きく関与する痛みで、明確な身体的異常が見つからない場合でも痛みを感じることがある。ストレスや不安、抑うつなどの精神的負担が、痛みの発生や持続に影響を与えると考えられている。

特徴)

  • 器質的な異常が見つからない:検査をしても明確な原因が特定できないことが多い。
  • 痛みの範囲が広い:局所的ではなく、全身に広がることもある。
  • ストレスや心理的要因で悪化:精神的な負担が増すと痛みが強くなる傾向がある。

原因)

  • 慢性的なストレス(仕事や家庭環境の問題)
  • 抑うつや不安障害(精神的な疾患との関連)
  • 過去のトラウマ(痛みの記憶が脳に残る)

 

《分類 その2》痛みの性質による分類(感じかた・時間軸)

①急性痛(きゅうせいつう)

短期間で治る見込みがある。警告信号としての役割。例:ねんざ、虫歯、手術後の痛み

②慢性痛(まんせいつう)

3か月以上続く痛み。元の原因が消えても痛みが残ることが多い。例:慢性腰痛、線維筋痛症

 

 

《分類 その3》その他の特徴的な痛み

  •  突発性痛:急にズキッとくる痛み(例:神経痛)

  •  放散痛:痛みが実際の場所から離れて広がって感じられる(例:心筋梗塞で左腕が痛む)

  •  関連痛:内臓の痛みが皮膚や筋肉に現れる(例:胆石で肩が痛む)

  •  幻肢痛:切断した手足がまだあるかのように感じる痛み

 

 

 

痛みに対する ご質問と回答

1.心筋梗塞の痛みは、なぜ起こる?

心筋梗塞の痛みは、いわゆる「心臓そのものが痛い」というより、心筋が壊れることで発生する「化学反応的な痛み」といえます。心筋がダメージを受けると、細胞が壊れたり炎症が起きたりします。具体的には「ブラジキニン」や「プロスタグランジン」といった痛みを引き起こす物質が発生します。これらが神経を刺激することで、激しい胸の痛みとして感じるわけです。

 

 

2.心筋梗塞のように、肺梗塞も血管が詰まって起こるが、痛みが少ない理由は?

肺そのものには、痛みを感ずる神経が少ないというのが理由です。肺そのもの(肺胞とか気管支の奥の方)には、痛覚神経がほとんどありません。つまり、血管が詰まっても「痛い!」って感じにくいのです。ただし、肺の表面(胸膜)は、知覚神経がメッシュのように張り巡らされているので痛覚があります。このため、 肺梗塞が「胸膜」に近いところで起きた場合は、胸の痛みを感じることがあります。 でも多くの場合は、強い痛みにならない or 鈍い痛みだけで済むことも多いといえます。

心筋梗塞との相対比較でいえば、心筋には酸素が不足した時に反応する神経が密集していて、ダメージを受けるとすぐに「激痛」として反応します。 いわば心臓は、“痛みに敏感な臓器”といえます。一方の肺は、呼吸をサポートする臓器とはいえ、「生き残るためにすぐ痛みで知らせる」といった機能は、心臓ほど強くないといえます。

 

 

3、くも膜下出血では激烈な頭痛が特徴とされますが、痛みのメカニズムは?

たしかにくも膜下出血(SAH)の代表的な症状は、突然起こる「人生最悪の頭痛」とも言われる激烈な頭痛といわれます。「バットで頭を殴られたような痛み」とか「これまで経験したことのない激しい頭痛」などと表現されます。

脳の表面は「くも膜・軟膜・硬膜」といった髄膜で覆われています。これらの髄膜、特にくも膜の周囲には痛覚神経が豊富にあります。

くも膜下出血では、脳動脈瘤などが破裂し、血液がくも膜下腔にどばっと漏れ出します。すると、その血液が髄膜に直接触れたり圧迫することで、痛みを感じる神経が強く刺激されることになり、これが「突然の激しい頭痛(雷鳴のような頭痛)」として現れるわけです。

さらに血液が脳の周りに広がると、炎症性の物質(プロスタグランジン、ブラジキニンなど)が出て、神経をさらに刺激します。また、脳の血管がけいれん的に収縮(脳血管攣縮)することもあり、これがまた痛みや虚血の原因になります。

他の理由としては、出血によって頭蓋内圧(脳の中の圧力)が急に上がることで、脳の周囲の構造が圧迫されて痛みを引き起こします。これも「破裂した瞬間にズドンと来る痛み」の要因のひとつともいわれます。

 

 

4.内臓痛と体性痛について、腹部疾患を例に具体的な説明を

内臓痛(内臓平滑筋のけいれん)は波状攻撃的です。疝痛(せんつう)と呼ばれることもあり、陣痛みたいとも表現されます。胃腸から出る痛みや、結石による痛みは間欠(間歇)性つまり、痛くない時間帯があるのが特徴です。

一方、持続性の痛み(体性痛)なら腹膜炎を疑うことになります。原因は虫垂炎(いわゆる盲腸)、腸閉塞、胆のう炎、消化管穿孔、膵炎などさまざまで、原因部位の病巣が腹膜に達することで痛みが生じます。虫垂炎はまず触診。腸閉塞と穿孔なら画像で、胆のうは触診とエコーで、また膵炎は血液と尿によるチェックがされます。

感染性胃腸炎の場合は、嘔気は必発です。嘔吐があれば疑い濃厚。そのあと腹痛や下痢がみられます。この上から下へという順序が大事です。内臓痛ですから、間欠性の痛みです。細菌性では“しぶり腹(テネスムス)”といって、排便したい気はあるのに、トイレにいってもあまり出ない状態がみられ、出るのは粘液やガス、少量便のみといった特徴があります。ノロウイルス感染症のようにウイルス性では水様便が一般的です。

虫垂炎(いわゆる盲腸)は、右下腹の痛みが最初に出てくると思われがちですが、初発症状は嘔気や嘔吐です。そのあとみぞおち部分の痛み(心窩部痛)が生じ、痛みは徐々に右下に移動していくというのが代表的パターンです。当初は腸の痛みですから間欠痛ですが、感染が腹膜まで波及してしまうと持続痛になります。

 

 

5.神経痛に効果を示すロキソニンやバファリンが、腹痛に使用されない理由は? 腹痛でよく使われるブスコパンが、頭痛では使用されない理由は?

ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)やバファリン(一般名:アスピリン)は、どちらもNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に分類されます。主な作用は、炎症を抑える、熱を下げる、痛みを和らげるといったものです。効果がみこめる対象疼痛は、炎症性の痛み(例:関節炎、頭痛、生理痛、歯痛など)といえます。

 腹痛に使いにくい理由としては、まず腹痛の原因はさまざま(胃腸のけいれん、消化不良、感染、潰瘍など)であること、またNSAIDsは胃腸に負担をかける副作用があるため、腹痛時に使うと症状を悪化させる可能性があること、さらに腸のけいれんが原因の痛みには、筋肉の収縮を抑える作用(=鎮痙作用)が必要で、NSAIDsでは効果が見込めないといえます。

一方、ブスコパン(一般名:ブチルスコポラミン)という薬は、抗コリン薬・鎮痙薬(けいれんをおさえる薬 ただしてんかんのようなけいれんではなく、あくまでも内臓平滑筋のけいれん)に分類されます。主な作用は、内臓の平滑筋のけいれんを和らげる(鎮痙作用)で、効果がみこめる対象疼痛は、けいれん性の内臓痛(例:胃痛、胆石痛、月経痛、過敏性腸症候群)です。 頭痛に使われない理由として、頭痛は脳の血管の拡張や緊張、神経の過敏などが原因ですから、けいれんとは関係ありません。だから平滑筋のけいれんを抑えるブスコパンは、頭痛には効かないのです。

腹痛に対する効果が高いといわれるブスコパンですが、 万能ではありません。感染性腸炎や虫垂炎など、感染症に伴う痛みには無効で、場合によっては使うと診断が遅れるリスクがあります。

 

 

6.関連痛と放散痛のちがいは何か?

どちらも痛みが実際の原因部位とは異なる場所に感じられる現象ですが、そのメカニズムと特徴に違いがあります。

関連痛とは、内臓などの深部の痛みが皮膚や筋肉などの表層の別の場所に感じられる痛みをいいます。原因としては、内臓と皮膚が同じ脊髄神経レベルで感覚入力を共有しているため、脳が誤って皮膚からの痛みと判断するために生じます。代表は、心筋梗塞のときに左腕やあご、歯などに痛みが出るケースです。歯が痛かったので歯科処置をして済ませたら、じつは心筋梗塞だったという話は有名です。

一方、放散痛とは ある一点から始まり神経の走行に沿って広がるように感じる痛みをいいます。原因は神経の圧迫や炎症などで、神経そのものが刺激されて痛みが伝わります。代表は、腰椎ヘルニアで坐骨神経痛が生じ、腰から足にかけて痛みが放散するケースです。

目次

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