加齢に伴ってみられる皮膚疾患
冬季は皮膚の乾燥からでしょうか、背中や足のすねなどにかゆみを感ずる機会が多いと思います。
高齢者に多い皮膚疾患について概説を、とのリクエストがありました。
高齢者の皮膚病について
皮膚は、
・表皮
・真皮
・皮下組織
・皮膚付属器(爪、毛、汗腺、皮脂腺)
から構成されています。
皮膚は外界と直結しているため、水分の喪失や透過を防ぎ、体温を調整し、微生物や物理化学的な刺激から生体を守るなど生命維持に必要不可欠な機能を持っています。
つまり皮膚は、生体内部を外界から守るバリアとしての役割を果たしています。
乾皮症(老人性皮膚掻痒症)
老人性皮膚掻痒症とは、皮膚の保湿を担っている成分が加齢により減少し、皮膚の機能が低下する為、皮膚が乾燥し軽微な刺激により痒みを生じることをいいます。
年齢を重ねた方の中には、「肌がやけにかゆくて眠れない」「冬になると全身がむずむずする」といった悩みを抱える方が少なくありません。加齢に伴って皮膚が乾燥し、明らかな発疹はないのに強いかゆみを感じる状態を加齢性掻痒症(一般に「老人性皮膚掻痒症」)と呼びます。特に腕や脚、背中や腰回りなどがかゆくなりやすく、暖かい布団に入って体が温まるとかゆみが増してしまい夜間に眠れないケースもあります。こうした慢性的なかゆみは生活の質(QOL)を大きく低下させ、イライラや睡眠不足だけでなく、重症では抑うつ症状を引き起こすことも報告されています。
高齢者にとって「皮膚のかゆみ」は非常につらい訴えであり、加齢性掻痒症は放っておけない健康課題の一つと言えるでしょう。

1.痒みの原因とメカニズム(生活習慣に結びつけて)
高齢者の皮膚のかゆみの主な原因は皮膚の乾燥(ドライスキン)です。年齢とともに皮膚を潤すための皮脂や汗の分泌が減少し、角質細胞間脂質や天然保湿因子も減っていきます。その結果、皮膚の表面を覆う脂質の膜(皮脂膜)が薄くなり、水分保持機能が低下して皮膚のいちばん外側にある角質細胞がめくれ上がり、水分が逃げやすい状態になります。皮膚バリアが弱まった高齢者の肌はわずかな刺激にも敏感に反応しやすくなり、これがかゆみ神経を過敏化させる要因となります。特に空気が乾燥する冬場は、湿度低下によって皮膚から水分がさらに蒸発しやすくなるため、かゆみが一層ひどくなりがちです。実際、老人性乾皮症(高齢者の乾燥肌)が原因のかゆみは冬に多発し、乾燥による湿疹(皮脂欠乏性湿疹)に進行する例もあります。
乾燥以外にも、高齢者のかゆみには複数の要因が絡みます。皮膚のかゆみを引き起こす神経メカニズムは未解明な部分も多いですが、ヒスタミンと呼ばれる生体内物質だけでなく細胞間相互連絡物質(IL-31など)を筆頭に、さまざまな物質が関与しています。そのため高齢者の全身性のかゆみは、抗ヒスタミン薬だけでは十分に抑えられないこともあります。
また、高齢になると持病や服用薬の影響でかゆみが生じる場合もあります。例えば、糖尿病や腎不全・透析中の方、肝胆道系疾患(肝硬変など)、甲状腺機能の異常、貧血、悪性腫瘍などは皮膚のかゆみ(症候性皮膚掻痒症)を伴う例が少なくありません。
さらに、鎮痛薬や降圧利尿剤など服用中の薬剤が副作用でかゆみを誘発しているケースもあることから、とくに多剤併用者は注意が必要です。
とはいえ、高齢者の皮膚かゆみの中で最も頻度が高いのは、皮膚の乾燥によるものです。
まずは日常生活で肌を乾燥させない工夫をすることが、かゆみ対策の第一歩になります。
2.保湿以外の効果的な対処法
かゆみ対策の基本は肌の保湿ですが、それ以外にも総合的なスキンケアと生活習慣の工夫が重要です。保湿剤以外で有効とされる対処法を(1)薬剤の活用、(2)入浴方法の見直し、(3)衣類・環境の工夫、(4)生活習慣の改善の観点から、順次紹介します。
(1) 薬剤によるかゆみのコントロール
抗ヒスタミン薬の内服
痒み止めとして一般的に抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)が処方されます。かゆみによる掻破→悪化」の悪循環を断つために有効で、特に夜間のかゆみで眠れない場合に就寝前に服用すると症状緩和と睡眠確保に役立ちます。
第二世代抗ヒスタミン薬(例:セチリジンやロラタジン)は眠気が少ないため日中に、逆に眠気を利用して睡眠を促す目的で第一世代を夜に使うこともあります。
ただし、高齢者の全身的なかゆみはヒスタミン以外の要因も関与するため効果が不十分な場合もあり、症状に応じて医師が種類や量を調整します。
外用薬の活用
皮膚に炎症や湿疹がある場合は、ステロイド外用薬や非ステロイド系消炎外用薬(鎮痒消炎剤)を適所に塗布すると炎症とかゆみを鎮める助けになります。
特に乾燥による湿疹(皮脂欠乏性湿疹)に進行してしまった場合は、保湿だけでなくステロイド軟膏などで炎症を抑える治療が必要です。
一方、明らかな湿疹病変がない純粋な掻痒症の場合でも、かゆみの強い局所にはカプサイシンやタクロリムスといった外用薬が試みられることもあります。
また、市販の抗かゆみクリーム(非処方の低濃度ステロイド軟膏やカラミンローション、メントール配合クリーム等)も一時的なかゆみ緩和に有用です。メントールやカモミールエキス配合のローションはひんやりとした清涼感でかゆみを和らげる効果が期待できます。これらの市販外用剤は冷蔵庫で冷やしておくとさらに鎮痒効果が高まります。
その他の薬剤
皮膚科では症状に応じて抗炎症作用を持つ内服薬(例:経口ステロイドは短期的に炎症とかゆみを抑えるのに有効)、抗うつ薬(マイルドな鎮静作用で痒みを和らげる目的)、神経伝達を調整する薬剤(プレガバリン等)などが用いられることもあります。
特に難治性の全身掻痒症では、光線療法も選択肢となります。
こうした処方薬の使用は医師の判断のもとで行われますが、市販薬で対処できない強いかゆみが続く場合は我慢せず専門医に相談しましょう。
(2) 入浴方法の見直し
毎日の入浴習慣は、乾燥によるかゆみを左右する大きなポイントです。高齢者は長年の習慣から「熱いお湯にゆっくり浸かり、ナイロンタオルでゴシゴシ洗う」のが当たり前になっていることがありますが、これこそ乾燥とかゆみを悪化させる原因です。以下の点に注意して入浴方法を見直しましょう。
- 湯温と時間: 入浴はぬるめ(約38~40℃)のお湯に短時間にとどめます。熱すぎるお湯(42℃以上)は皮膚のかゆみを引き起こしやすく、皮脂も必要以上に流出させてしまうため避けましょう。長風呂も皮膚のうるおい成分を奪う原因になるため、5~10分程度を目安に切り上げます。
- 身体の洗い方: 石鹸やボディソープは低刺激性のものを使い、洗浄は必要最低限の部分のみにとどめます。特に汗をかきやすい脇の下や股部を中心に優しく洗い、それ以外の部分はお湯に浸かるだけでも十分汚れは落ちます。ナイロンタオルやブラシで強く擦るのは厳禁です。手のひらや柔らかい綿のタオルで撫でるように洗い、擦り洗いによる物理的刺激を避けましょう。石鹸もすすぎ残しがあるとかゆみの原因となるため、しっかり洗い流してください。
- 入浴剤の活用: 入浴時に市販の保湿系入浴剤をお湯に入れるのも効果的です。特に高齢者は硫黄系や炭酸ガス系の入浴剤(温浴効果で血行促進するタイプ)を好みがちですが、これらは体をポカポカ温める反面、入浴後のほてりとかゆみを助長しやすいため避けたほうが良いでしょう。代わりに保湿効果の高い入浴剤(セラミドやオイル成分配合など)を使うことで、肌を守りながら汚れを落とすことができます。市販の粉末タイプやオイルタイプで「乾燥肌用」と表示されたものが適しています。入浴剤がなくても、50g程度の重曹や市販のオートミール入浴剤(コロイド状のオートミール)を湯に溶かすと肌をしっとりさせる効果があります。
- 入浴後のケア: お風呂から上がった後は、体が温まったまますぐ布団に入らないようにしましょう(体温が高いと痒みを感じやすいため、一息ついてクールダウンします)。そして肌がしっとりと水分を含んでいる入浴後5分以内に必ず保湿剤を塗布します。このタイミングを逃すと、せっかくお風呂で吸収した水分がどんどん蒸発して乾燥してしまいます。タオルドライもゴシゴシ拭かず、柔らかいタオルでやさしく押さえるように水気をとる(押し拭き)のがコツです。
予防のポイント: 入浴は38~40℃のぬるめのお湯に短時間(5~10分)、ナイロンタオルは使わず手で優しく洗い、保湿系入浴剤を活用し、入浴後5分以内に全身保湿することが大切です。高齢者に多い「熱いお湯に長時間浸かる習慣」は皮膚の乾燥を悪化させる大きな原因です。

(3) 衣類・住環境での工夫
- 衣類の選択: 肌に直接触れる下着や寝間着は木綿など柔らかい素材のものを選びましょう。ウールや化学繊維はチクチクとした刺激で痒みを誘発しやすいので避けます。特に脇腹や太ももの付け根など、下着の縫い目やゴムが擦れやすい部位はかゆみを感じやすいため、締め付けの強い衣類は避け、通気性・肌触りの良い肌着で皮膚への刺激を減らします。衣類の洗濯時も、残留した洗剤が刺激になることがあるため、十分なすすぎを行うか低刺激洗剤を使うと安心です。
- 寝具の工夫: 就寝中のかゆみ対策として、寝具も見直しましょう。毛布やシーツも肌触りの良い綿素材のものを使い、ウール毛布を直接肌に触れさせないようにします。冬場に電気毛布や電気あんかを長時間使用すると肌が乾燥しやすくなるため避けたほうが無難です。どうしても寒い場合は寝る直前に布団を暖め、就寝中はタイマーで切れるように設定するか、湯たんぽなど適度な温度のものを使うと良いでしょう。
- 室内の温度・湿度: 室内環境は適度な湿度(目安として50~60%)を保つことが大切です。エアコンやヒーターで部屋を暖めると空気が乾燥しがちなので、加湿器を併用したり濡れタオルを室内に干したりして湿度を調整します。特に冬場は暖房で湿度が20~30%台まで下がることもあるため注意が必要です。温度も高すぎると皮膚が乾燥しやすくなるうえ、発汗後の蒸発で体が冷えてまた暖房を強くするという悪循環になりがちです。過度に部屋を暖めすぎない(20℃前後を目安に)ようにし、厚着で調整しましょう。扇風機やファンヒーターの暖かい風が直接皮膚に当たるのも乾燥を招くので避けます。なお、換気も適度に行い、ホコリやダニといったアレルゲンの蓄積を防ぐことも痒み予防には有効です。
- 住環境の清潔: 布団やカーペットにはダニが潜みやすく、これがかゆみの原因になることもあります。掃除機かけやリネン類の洗濯を定期的に行い、清潔な環境を保ちましょう。ダニ対策用の寝具カバーの使用や、晴天時の寝具干しも効果的です。ただし布団を干した後は表面にダニの死骸や花粉が付着するため、しっかり叩いて取り除いてください。
(4) 日常生活習慣の改善
- 皮膚をかかない工夫: かゆみを感じてもできるだけ掻かない努力が大切です。掻き壊しによる傷や湿疹ができるとさらに痒みが増し、悪循環に陥ってしまいます。爪は短く切り揃え(ヤスリで角を丸めるとなお良い)、万一無意識に掻いてしまっても皮膚を傷つけにくいようにしておきます。就寝時にどうしても掻いてしまう人は、綿の手袋をして寝る方法もあります。かゆみが我慢できないときは、冷たいタオルや保冷剤で患部を冷やすと一時的に感じにくくできます。または手のひらでぽんぽんと軽く叩く・押さえるだけでも、爪を立てて掻くより皮膚へのダメージが少なくて済みます。
- ストレスと睡眠: 精神的なストレスや睡眠不足はかゆみを増幅させることがあります。ストレスが強いときはリラクゼーションや適度な運動を取り入れて心身の緊張を和らげるよう心がけましょう。ヨガや瞑想、アロマテラピーなどもリラックスに有効です。また、かゆみのせいで寝不足になると翌日のストレス耐性が下がり、さらに痒さを感じやすくなるという悪循環もあります。睡眠をしっかりと確保し(難しい場合は前述の抗ヒスタミン薬の助けも借りながら)、肌の回復と心の安定を図ることが大切です。
- 水分・栄養補給: 皮膚の健康を保つにはバランスの良い食事と十分な水分補給も重要です。高齢になると喉の渇きを感じにくくなり、水分摂取量が不足しがちです。1日あたりコップ6~8杯程度を目安に、こまめに水やお茶を飲んで体内の潤いを保ちましょう。食事面では、良質なたんぱく質(皮膚の再生に必要)、ビタミンA・C・E(皮膚や粘膜の維持や抗酸化作用)、亜鉛や鉄分(新陳代謝に必要)、そしてオメガ3系脂肪酸(皮膚バリアを助ける脂質)などを意識して摂ると肌の機能を支えます。特に青魚やクルミなどに含まれる必須脂肪酸や、緑黄色野菜に含まれるビタミン類は肌の乾燥予防にも役立ちます。ただし香辛料の効いた食品やカフェイン・アルコール類の過剰摂取は、一時的に体が熱くなって痒みが悪化しやすいので控えめにしましょう。お酒は血管拡張により体温が上昇して痒みを感じやすくするため、就寝前は特に避けた方が無難です。
- その他の工夫: 日常生活の中で、「肌の乾燥と刺激を減らす」視点で工夫できることは他にもあります。例えば、喫煙習慣のある方はタバコを控えるだけでも皮膚の血行や再生能力が改善し乾燥が和らぎます。また外出時には紫外線対策(帽子や日焼け止めクリーム)を行いましょう。長年の紫外線ダメージは皮膚の老化と乾燥を進める一因であり、結果的に痒みリスクも高まります。適度な運動で汗をかく習慣を持つのも、皮膚の代謝を促し潤いを保つ助けになります。ただし汗をかいた後は放置せずシャワーで流し、保湿することをお忘れなく。
以上のように、薬剤から生活環境まで多角的に対策を講じることで、保湿剤だけに頼るよりも効果的にかゆみを軽減することができます。では次に、世間で言われる対処法の中で誤解されがちなものや、実は逆効果になりうる「NG行動」について確認しましょう。
3.誤解されやすい対処法・やってはいけない行動
かゆみに悩むあまり、自己流の対策がかえって悪影響を及ぼしてしまうことがあります。ここでは一般に信じられているが誤解されがちな対処法や、高齢者がやりがちなNG習慣を挙げ、その理由と正しい対策を整理します。
避けたい習慣・行動
その1 熱いお湯に長時間入浴する
誤解/リスク)
「体が温まって気持ち良い」「清潔になる」と思いがちだが、皮脂膜や天然保湿因子が流出し皮膚が乾燥。入浴後に体がほてって痒みが増す原因にもなる。
代わりにできる対策
ぬるめ(38~40℃)のお湯に5~10分程度浸かる。上がる前に保湿入浴剤を入れて全身を潤す。
その2 ナイロンタオルでゴシゴシ洗う
誤解/リスク)
「汚れを落とさないと痒い」と思うかもしれないが、摩擦で皮膚を傷つけバリア機能を低下させる。必要な皮脂まで奪い去り逆に乾燥が悪化。
代わりにできる対策
手や柔らかいタオルで優しく洗う。石鹸は低刺激のものを使い、汚れの気になる部位だけ洗浄する。
その3 入浴後に何もせず放置する
誤解/リスク)
濡れたまま自然乾燥させると、角質層から急速に水分が失われて乾燥が進む。「風呂上がりはさっぱりする」は一時的なもの。
代わりにできる対策
入浴後5分以内に保湿クリームやローションを全身に塗布する。肌が湿っているうちに油分でフタをし、水分蒸発を防ぐ。
その4 かゆい所を強く掻く
誤解/リスク)
「掻けば一時的に楽になる」が大きな誤解。掻くと快感物質が出るがすぐ戻り、むしろ炎症が広がりもっと痒くなる悪循環に。皮膚を傷つけ感染症のリスクも。
代わりにできる対策
掻かずに冷やす・叩くなどで紛らわせる。爪を短く切り、就寝時は手袋をして無意識の掻破を防止。医師に相談し抗ヒスタミン薬等で痒みそのものを抑えるのも重要。
その5 高齢だから仕方ないと諦める
誤解/リスク)
「年だから皮膚が痒いのは当たり前」と放置すると、睡眠障害や抑うつに繋がる恐れ。また放置期間が長いほど湿疹化や皮膚の傷悪化で治りにくくなる。
代わりにできる対策
高齢者以外でも冬場は乾燥で痒くなる人は多い。年齢のせいと諦めず、毎日のスキンケアを続ければ改善が期待できる。つらい症状は我慢せず皮膚科を受診。
その6 香りの強い化粧品でケアする
誤解/リスク)
「いい香りで癒される」と思うかもしれないが、香料やアルコール成分は皮膚を刺激し乾燥を招く場合がある。高齢者の皮膚は薄く敏感なため刺激に弱い。
代わりにできる対策
無香料・低刺激のスキンケア製品を選ぶ。ワセリンやセラミド配合のシンプルな保湿剤が安心。入浴剤も刺激の強いものは避け、保湿効果のあるものを選ぶ。
その7 アルコール・香辛料の多い食事
誤解/リスク)
「食べ物でそんなに変わらない」と思いがちだが、飲酒や唐辛子など刺激物は一時的に血行が促進され体が熱くなり、痒み神経を興奮させる。就寝前の飲酒は夜間の痒みを悪化。
代わりにできる対策
お酒や香辛料は適量に控える。特に夜は避けるか少量にとどめる。代わりに身体を冷やすビタミン豊富な果物(みかんなど)や水分を摂る。
こうした誤解されがちな対処法に注意し、肌に負担をかけないケアを心がけることが大切です。「熱いお風呂にゆっくり浸かればかゆみも治まる」「清潔第一だからゴシゴシ洗うべき」といった昔ながらの習慣は、高齢になった肌には逆効果です。「擦らない・乾かさない・刺激しない」がかゆみ肌ケアの合言葉だと覚えておきましょう。
4.日常生活で役立つ具体的アドバイスまとめ
最後に、高齢者のかゆみに対処するための具体的なアドバイスを箇条書きでまとめます。
毎日の習慣に取り入れて、辛いかゆみを予防・軽減しましょう。
- 毎日の保湿ケア: 朝晩2回、全身に保湿剤を塗る習慣をつけましょう(入浴後は特に念入りに)。乾燥しやすい背中や腰はゴムべらにクリームをつけて塗るなど工夫すると、一人でも塗り漏れなくケアできます。
- 入浴は肌に優しく: お湯は熱すぎず、長湯しない。石鹸は低刺激で体の汚れが気になる部分だけ使う。ナイロンタオルで擦らず、手で洗う。入浴剤は保湿タイプを使い、入浴後5分以内に全身保湿する。
- 衣類と寝具の見直し: 肌着やパジャマは綿100%など肌触り重視で選ぶ。ウール製品は下に長袖シャツを着て直接触れないように。寝具も清潔な綿シーツを使い、電気毛布の使いすぎに注意。
- 室内環境の調整: 冬は加湿器などで室内の湿度を保つ(目安50%前後)。暖房の温度は上げすぎない。換気をして空気を入れ替え、ホコリやダニを減らす。肌を乾燥させる強風や直射日光は避ける。
- かゆい時の対処: どうしても痒い時は掻かずに一旦冷やす。保冷剤や濡れタオルを当てると痒みが和らぎます。外出先ではハンカチを水で湿らせて当てるのも○。市販の痒み止めクリーム(メントール配合など)を携帯しておき、我慢できない時に塗るのも有効です。
- 規則正しい生活: 栄養バランスの良い食事と十分な水分補給で肌の内側から潤いを維持。適度に体を動かし代謝を促す。入浴前後にコップ1杯の水を飲む習慣も◎。睡眠をしっかりとり、ストレス発散も心がけてください。
- 症状日記をつける: 日々のかゆみの強さ、入浴方法や食事内容、服薬状況などを記録しておくと、何が痒みを悪化させる要因か見えてくることがあります。また受診時に医師へ的確に伝える助けにもなります。
- 困ったら皮膚科へ: 市販薬やセルフケアで良くならない場合は早めに皮膚科を受診しましょう。恥ずかしがらずに症状を伝え、適切な治療を受けることが大切です。特に高齢者のかゆみは他疾患が隠れている場合もあるため、「歳のせい」と自己判断しないようにしましょう。
高齢による皮膚のかゆみは誰にでも起こり得る悩みですが、適切な知識とケアで予防・改善することができます。毎日のちょっとした心がけの積み重ねが、乾燥知らずの健やかな肌を取り戻す鍵です。「かゆいのは年齢だから仕方ない…」と諦めずに、本記事で紹介した対策をぜひ実践してみてください。根気よくケアを続ければ、きっと「そういえば最近かゆみが楽になった」と感じられる日が来るはずです。つらいかゆみを抑えて、快適な毎日を送りましょう。
爪周囲に起きやすい皮膚疾患
加齢に伴い、前屈がしづらくなったり視力の低下、さらに入浴する機会の減少などで、足の末端の手入れがおろそかになることから、足の爪は皮膚病変が起きやすい場所といえます。
真菌症(足白癬・足爪白癬)
高齢者の多くは足白癬に罹患しており,さらに爪に病変を持つ場合も少なくありません。糖尿病や下肢の循環障害が基礎にあれば些細な足病変から感染を起こし壊死・壊疽にいたる可能性もあるため,治せるうちに治しておきたい疾患といえます
爪白癬については,転倒のリスクが高まることも指摘されています。足が痒い、皮がむけている,爪が肥厚しているなどの所見により安易に真菌症と診断され治療がおこなわれている例は真菌症の可能性があります。
診断は、罹患部位の角質や爪を採取して顕微鏡検査をおこない,真菌要素を証明することが基本です。

症状)
白癬は足の指の間にでき、痒みが生じます。爪が厚く肥厚し、白濁していくこともあります。症状の進行により爪が変形し皮膚に食い込むと痛みが生じます。日常生活での留意点は、足ふきマットやスリッパ、サンダルなどを共用しないことにしましょう。
治療)
抗菌薬の服用や塗り薬が使われます。
内服治療については,薬剤にもよりますが、完全治癒率は50%を超えるものもあります。
内服中は肝機能障害 や腎機能障害に注意し,定期的な血液検査が必要です。内服できる状況であり,完治をめざすならば内服治療が推奨されます。
塗布剤は爪周囲のみでなく、足底を含めた広範囲に塗ると効果的です。
なお爪白癬に対しては,爪への浸透性と効果が認められている外用薬がありますが,完全治癒率は20%未満とされます。
蜂窩織炎(蜂巣炎)
蜂窩織炎(蜂巣炎)は細菌感染症の一種で、皮膚とそのすぐ下の組織に細菌が感染することで炎症が生じます。
患部の皮膚に赤みや腫れ、圧痛が生じ、皮膚を触ると熱を感じる場合があります。発熱や悪寒、倦怠感など風邪のような症状が同時に現れることもあります。
レンサ球菌やブドウ球菌が原因となることが一般的です。足のすねや足の甲に発症することが多いですが、その他の部位に発症することも少なくありません。
蜂窩織炎(蜂巣炎)は広がりやすく、伝染性膿痂疹や丹毒などの細菌感染症と同様に、発生頻度の高い病気です。しかし、同時に複数の部位に発症することはほとんどありません。

原因)
蜂窩織炎(蜂巣炎)は細菌感染が原因で起きます。原因となる細菌は多数あり、レンサ球菌とブドウ球菌が一般的です。ほかには、インフルエンザ菌や大腸菌、緑膿菌などが原因で蜂窩織炎(蜂巣炎)を発症することもあります。
感染方法はひっかき傷や刺し傷、水虫などの真菌感染症などによってできる傷から、原因となる細菌が体に入り込みます。ほかにも動物による咬み傷や皮膚の病気が原因で感染することも少なくありません。
傷口から感染することの多い病気ですが、傷のない皮膚にも感染することがあります。リンパ浮腫や慢性静脈不全といった骨髄炎や血流感染がある場合、原因菌が皮膚組織にも侵入し、蜂窩織炎(蜂巣炎)に感染することがあります。
免疫が低下している方の場合は重篤化しやすいです。重篤化しやすくなる要因としては、糖尿病に罹患している場合やステロイド治療を受けている場合などが挙げられます。またリンパ浮腫などが原因で脚がむくみやすい人は、蜂窩織炎(蜂巣炎)になりやすいです。
近年、抗菌薬の使用が増加し、耐性を持つブドウ球菌による蜂窩織炎(蜂巣炎)が増えています。病院内では特に耐性菌がよく見られ、抵抗力が低くなっている人への感染が懸念されています。
症状)
蜂窩織炎(蜂巣炎)は下肢によく見られる病気ですが、発生部位は全身に及ぶ可能性があります。通常は片手や片脚など、複数の部位に現れることは少ないです。脚のすねや甲に現れるケースが多く、その後半日〜2日程度で急速に広がります。
蜂窩織炎(蜂巣炎)の初期症状として現れるのは、感染部の赤みや熱感、圧痛です。赤みや圧痛などの初期症状は、細菌とそれに対抗する体の働きによって発生します。症状の進行が早く、患部に盛り上がりや水疱、点状出血が現れることもあります。
蜂窩織炎(蜂巣炎)は軽症の患者さんが多いですが、発熱や頭痛、頻脈などを伴う重症の患者さんも少なくありません。また時間が経ち感染が広がると、リンパ節炎やリンパ管炎を引き起こすこともあります。
蜂窩織炎(蜂巣炎)は進行の早い病気のため、初期症状や前兆を感じたら、速やかに皮膚科を受診しましょう。
診断)
蜂窩織炎(蜂巣炎)の検査・診断は、一般的に医師による問診で行われます。病歴の確認や患部の外観、患者さんの症状から診断されることがほとんどです。血液検査を行うこともありますが、特殊な事例をのぞいて血液検査は行いません。
症状が重篤な場合や免疫力の低下が見られる場合、薬物治療での改善が見られない場合には、血液検査が行われます。血液検査では白血球の数や炎症反応数値を確認し、蜂窩織炎(蜂巣炎)に感染している場合、これらの数値が上昇します。血液や皮膚、膿や組織といったサンプルを採取し、培養する培養検査では、病原菌の特定が可能です。蜂窩織炎(蜂巣炎)と似た病気と区別するために、培養検査が実施されることもあります。
治療)→抗菌剤による
蜂窩織炎(蜂巣炎)の治療では抗菌薬を使用した薬物療法を、点滴もしくは内服薬で行います。一般的な投薬期間は5〜14日程度です。蜂窩織炎(蜂巣炎)の原因菌は数種類ありますが、多くはレンサ球菌とブドウ球菌です。
完治までの期間は、症状の程度や治療を開始した時期、患者さん本人の免疫力などによって左右されます。軽症の場合は経口型の抗菌薬を使用し、通院治療が可能です。
通院治療中は患部を安静に保ち、氷で冷やしたり、患部の位置を高く持ち上げて保つといった処置を日常的に行うことが大切です。重症の場合は、発熱や関節痛、倦怠感を伴うことがあります。ほかにも以下のような場合は、入院して点滴で対処します。
蜂窩織炎(蜂巣炎)が急激に広がっている
高熱や重篤な感染症状が出ている
ほかの病気の治療でステロイド薬を飲んでいる
免疫不全を患っている
飲み薬で改善が見られない
入院期間中は治療と合わせて、患部を動かさないように高い位置で保ち、腫れの軽減を図ります。使用する抗菌薬には、原因菌にあわせ抗生剤を選択する必要があり、レンサ球菌とブドウ球菌に感受性のあるセフェム系の薬やペニシリン系の薬あるいはキノロン系の薬が用いられます。膿の排出などの重篤な症状が見られる場合には、レンサ球菌やブドウ球菌でなく、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に感染している可能性があります。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の治療に使用される薬は、トリメトプリムとスルファメトキサゾールの配合剤やクリンダマイシン、ドキシサイクリンなどの経口型抗菌薬です。抗菌薬による投薬治療を迅速に行うことで、血液や内臓まで細菌感染が広がるのを防ぐことが可能です。
しかし、治療を始めてから改善に至る前に、症状が悪化することが少なくありません。この一時的な悪化は、抗菌薬の作用で細菌から組織に攻撃性のある物質が放出されるためと考えられています。原因菌が死んでいても体の反応は続くため、症状が治った場合でも決められた期間投薬は続けるようにしましょう。
蜂窩織炎(蜂巣炎)を悪化させる病気の治療)
蜂窩織炎(蜂巣炎)を悪化させる病気を持っている場合は、その治療も合わせて行います。蜂窩織炎(蜂巣炎)を悪化させる病気の例は以下です。
・水虫
・糖尿病
・肥満
・アトピー性皮膚炎
・脚の静脈不全症
参考資料)
「在宅診療でみられる高齢者の皮膚疾患」(袋 秀平 日老医誌 2023)
「老人性皮膚掻痒症」『健康おまかせ隊ニュース』(病院だより19号), (京都協立病院 2019)
「掻痒症(そうようしょう)」『健康長寿ネット』(公益財団法人 長寿科学振興財団 2019)
「蜂窩織炎(蜂巣炎)」(高藤 円香 Medical Doc)





