高齢者が うつりやすい感染症
子どものときにしか罹らない感染症に、高齢者も罹る理由は何か? 百日せき、はしか、水痘ウイルスによる帯状疱疹など、高齢者が うつりやすい感染症について説明を、とのリクエストがありました。
高齢者が罹りやすい感染症とは
高齢者は免疫機能が低下しやすいため、以下のような感染症にかかりやすいとされています:
- 肺炎(特に肺炎球菌や誤嚥性肺炎)
- インフルエンザ
- 新型コロナウイルス感染症
- 尿路感染症
- 結核
- ノロウイルス感染症
- 帯状疱疹
- MRSA感染症(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
- 緑膿菌感染症
- 腸管出血性大腸菌感染症(O157など)
- 疥癬(かいせん)
- レジオネラ症
これらの感染症は、免疫力の低下や慢性疾患の影響で重症化しやすく、特に高齢者施設や病院などの集団生活環境では感染が広がりやすいとされています。
予防策としては、ワクチン接種、衛生管理、適切な栄養摂取、十分な休息が重要です。
このうち、高齢者が罹りやすい空気感染症には、以下のようなものがあります:
- インフルエンザ:毎年流行し、高齢者は重症化しやすい。
- 結核:免疫が低下すると再活性化することがある。
- 新型コロナウイルス感染症:高齢者は重症化リスクが高い。
- 麻疹(はしか):免疫が低下すると再感染の可能性がある。
- 水痘・帯状疱疹:水痘ウイルスは空気感染し、帯状疱疹の原因にもなる。
- レジオネラ症:空調や浴槽の水を介して感染することがある。
はしか(麻疹)の場合
麻疹に一度感染したことがある高齢者が再び感染する理由はいくつか考えられます。
- 免疫の低下: 麻疹に感染すると通常は終生免疫を獲得するとされていますが、高齢になると免疫機能が低下し、十分な免疫を維持できなくなることがあります。
- ワクチンの効果の減衰: 麻疹ワクチンは非常に有効ですが、時間が経つと免疫が弱まることがあります。特に1回しか接種していない場合、免疫が不十分になる可能性があります。
- 変異株の影響: 麻疹ウイルスは変異することがあり、過去の感染やワクチンによる免疫が新しいウイルス株に対して十分に機能しない場合があります。
- 海外からの感染流入: 日本では麻疹は排除状態とされていますが、海外からの旅行者による感染の持ち込みが原因で流行することがあります。
- 免疫不全の状態: 高齢者の中には、免疫系の疾患や治療(例: 免疫抑制剤の使用)によって免疫が低下し、麻疹に対する防御が弱まる場合があります。
水痘・帯状疱疹の場合
水痘(みずぼうそう)と帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、どちらも水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus, VZV)**によって引き起こされる感染症です。
水痘(みずぼうそう)
- 原因: 初めてVZVに感染すると水痘を発症します。
- 症状: 発熱、倦怠感、水疱(かゆみを伴う発疹)が全身に広がる。
- 感染経路: 空気感染・飛沫感染・接触感染。
- 予防: 水痘ワクチンの接種が有効。
帯状疱疹(たいじょうほうしん)
- 原因: 水痘にかかった後、VZVが体内の神経節に潜伏し、免疫が低下すると再活性化して発症。
- 症状: 体の片側に沿って帯状に水疱ができ、強い痛みを伴う。
- 合併症: **帯状疱疹後神経痛(PHN)**が長期間続くことがある。
- 罹患しやすい人: 高齢者や免疫力が低下している人。
- 予防: 帯状疱疹ワクチン(生ワクチン・組換えワクチン)が有効。
高齢者は免疫力が低下しやすいため、帯状疱疹の発症リスクが高くなります。特に**帯状疱疹後神経痛(PHN)**は生活の質を大きく低下させるため、予防接種が推奨されています。
終生免疫とは
終生免疫とは、一度感染するとその病原体に対する免疫が生涯持続し、再感染しない状態を指します。例えば、麻疹や水痘などの感染症は、一般的に終生免疫を獲得すると考えられています。
しかし、終生免疫が完全に成立するかという点にはいくつかの注意点があります:
- 免疫の低下: 高齢になると免疫機能が低下し、終生免疫が十分に維持されないことがあります。
- 変異株の影響: 一部の病原体は変異するため、過去の感染による免疫が新しい株に対して十分に機能しない場合があります。
- ワクチンの影響: ワクチンによる免疫は自然感染よりも持続期間が短いことがあり、追加接種が必要になる場合があります。
つまり、「二度かかりなし」と言われる終生免疫も、必ずしも一生続くわけではないことがあるのです。特に免疫が低下したり、病原体が変異したりすると、再感染の可能性が出てきます。そのため、ワクチンの追加接種や健康管理が重要になります。
《もう少し詳しく》
終生免疫とは、一度感染するとその病原体に対する免疫が生涯持続し、再感染しない状態を指します。これは獲得免疫の一種であり、特定の病原体に対する免疫記憶が長期間維持されることで成立します。
免疫学的な仕組み
終生免疫は、主に**適応免疫(獲得免疫)**の働きによって形成されます。以下のような免疫細胞が関与します:
- B細胞の記憶
- 初回感染時に病原体を認識し、抗体を産生するB細胞が活性化されます。
- 一部のB細胞は記憶B細胞として残り、次回同じ病原体が侵入した際に迅速に抗体を産生します。
- T細胞の記憶
- ヘルパーT細胞(CD4+)はB細胞を活性化し、抗体産生を促進します。
- キラーT細胞(CD8+)は感染細胞を破壊し、病原体の増殖を防ぎます。
- 一部のT細胞は記憶T細胞として残り、再感染時に迅速な免疫応答を引き起こします。
- 抗体の持続
- 一部の感染症では、抗体が長期間血中に残り、病原体の侵入を防ぎます。
- 例えば、麻疹ウイルスに対する抗体は長期間持続し、終生免疫を形成することが知られています。
終生免疫が成立する条件
終生免疫が成立するためには、以下の条件が重要です。
- 病原体が変異しにくいこと(例:麻疹ウイルスは比較的安定)
- 強い免疫応答が誘導されること(自然感染や生ワクチンによる免疫)
- 記憶細胞が長期間維持されること
終生免疫が完全でない場合
終生免疫があるとされる感染症でも、以下の理由で再感染する可能性があります。
- 免疫の低下(加齢や免疫抑制状態)
- 病原体の変異(インフルエンザウイルスなど)
- ワクチンの効果減衰(追加接種が必要な場合)
終生免疫は免疫学的に非常に重要な概念ですが、すべての感染症に適用されるわけではなく、病原体の特性や個人の免疫状態によって異なります。
昨今話題になった百日せきの場合
百日咳に一度感染したことがある高齢者が再び感染する理由はいくつかあります。
- 免疫の低下: 百日咳に感染すると免疫が形成されますが、その免疫は時間とともに弱まります。特に高齢者は免疫機能が低下しやすいため、再感染のリスクが高まります。
- ワクチンの効果の減衰: 百日咳ワクチンは有効ですが、時間が経つとその効果が薄れてしまいます。成人や高齢者は追加接種を受けないと免疫が十分に維持されないことがあります。
- 変異株の出現: 百日咳菌は変異することがあり、以前の感染やワクチンによる免疫が新しい菌株に対して十分に機能しない場合があります。
- 周囲の感染状況: 百日咳は飛沫感染するため、感染者が多い環境では再感染のリスクが高まります。特に流行時には注意が必要です。
百日咳は、終生免疫が成り立ちません。理由はいくつかあります。
- 免疫の持続期間が短い
百日咳に感染すると免疫が獲得されますが、その免疫は時間とともに低下します。一般的に、感染後の免疫は4~12年ほどで減衰するとされています。 - ワクチンの効果の減衰
百日咳ワクチンは有効ですが、免疫の持続期間が限られており、追加接種が必要になります。特に成人や高齢者では免疫が低下しやすく、再感染のリスクが高まります。 - 病原体の特性
百日咳菌(Bordetella pertussis)は、免疫系を回避する能力を持っており、感染後の免疫が長期間持続しにくいと考えられています。 - 免疫の個人差
人によって免疫の持続期間が異なり、一度感染しても再び感染する可能性があります。特に免疫力が低下している人は、再感染しやすくなります。
そのため、百日咳に対する終生免疫は成立せず、ワクチンの追加接種や感染予防策が重要になります。特に乳幼児や高齢者は重症化しやすいため、注意が必要です。
百日せき、麻疹、帯状疱疹の病原体は?
百日咳、麻疹、帯状疱疹の病原体は以下の通りです:
- 百日咳(百日せき): 原因菌は 百日咳菌(Bordetella pertussis) という細菌です。
- 麻疹(はしか): 原因ウイルスは 麻疹ウイルス(Measles virus) で、パラミクソウイルス科に属します。
- 帯状疱疹(たいじょうほうしん): 原因ウイルスは 水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus, VZV) で、ヘルペスウイルス科に属します。
これらの病原体は、それぞれ異なる感染経路や症状を引き起こしますが、ワクチンによる予防が可能なものもあります。特に麻疹と帯状疱疹はワクチン接種が有効な予防策となります。百日咳もワクチンによる予防が推奨されています。
レジオネラ症の場合
レジオネラ症は、レジオネラ属菌(Legionella pneumophila)による細菌感染症です。主にレジオネラ肺炎(在郷軍人病)とポンティアック熱の2つの病型があります。
レジオネラ肺炎
- 症状: 高熱、咳、呼吸困難、倦怠感、頭痛、筋肉痛など。
- 感染経路: 汚染された水のエアロゾル(細かい霧やしぶき)の吸入による感染(冷却塔水、加湿器、循環式浴槽など)。
- 重症度: 適切な治療がなされない場合、命に関わることもある。
ポンティアック熱
- 症状: 突然の発熱、悪寒、筋肉痛など(インフルエンザに似た症状)。
- 感染経路: レジオネラ肺炎と同様にエアロゾル感染。
- 重症度: 自然に改善することが多く、軽症。
予防策
- 水回りの衛生管理(加湿器の定期的な清掃、循環式浴槽の適切な管理)。
- 60℃以上の加熱でレジオネラ菌を殺菌。
- 感染リスクの高い環境を避ける(温泉施設、冷却塔の近くなど)。
現在、レジオネラ症に対するワクチンは存在しません。
結核の場合
結核(けっかく)**は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる感染症です。主に肺結核として発症しますが、全身の臓器にも影響を及ぼすことがあります。
結核の特徴
- 感染経路: 空気感染(咳やくしゃみによる飛沫核の吸入)。
- 症状: 長引く咳、血痰、発熱、体重減少、倦怠感など。
- 発症リスク: 免疫力が低下している人、高齢者、糖尿病患者など。
- 治療: 抗結核薬(イソニアジド、リファンピシンなど)を長期間服用。
結核の予防
- BCGワクチンの接種(特に乳幼児)。
- 適切な換気と衛生管理。
- 早期診断と治療で感染拡大を防ぐ。
結核は適切な治療を受ければ完治可能ですが、放置すると重症化することがあります。
《もう少し詳しく》
結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による感染症で、主に細胞性免疫が関与して防御されます。
免疫学的な仕組み
- 自然免疫の初期応答
- 結核菌が肺に侵入すると、マクロファージがこれを貪食します。
- しかし、結核菌はマクロファージ内で生存・増殖する能力を持ち、完全に排除されないことがあります。
- 適応免疫の活性化
- **ヘルパーT細胞(CD4+)**が活性化され、IFN-γ(インターフェロン・ガンマ)を分泌し、マクロファージをさらに活性化します。
- **キラーT細胞(CD8+)**が感染細胞を破壊し、結核菌の増殖を抑えます。
- 肉芽腫の形成
- 結核菌を封じ込めるために、マクロファージ、T細胞、線維芽細胞が集まり、肉芽腫を形成します。
- この構造により、結核菌の増殖が抑えられますが、免疫が低下すると再活性化することがあります。
4.潜在性結核感染(LTBI)
- 結核菌は完全に排除されず、休眠状態になることがあります。
- 免疫力が低下すると、結核菌が再活性化し、活動性結核を発症する可能性があります。
免疫の個人差
- 健康な人は免疫系が結核菌を抑え込むことができますが、高齢者、免疫抑制状態の人、糖尿病患者などは発症リスクが高くなります。
この菌は結核患者の咳やくしゃみのしぶきの中に混ざって空気中に飛散します。偶然にもそれを肺の奥まで吸い込み、肺内で菌が増え始めると感染がおこります。
通常は結核菌を吸い込んでも殆どの菌は鼻や口、のどの粘膜にぶつかり、感染には至りません(肺の奥までは到達しません)。仮に到達しても肺の中にはマク ロファージと言う清掃係の細胞がいますので、殆どの場合処理されて感染には至りません。処が、結核菌が肺の奥まで(肺胞)まで行き着き、マクロファージに 除去されず増殖を始めると感染が成立します。
結核菌は一般細菌と異なり増殖能が低いので、感染が成立しても直ぐに爆発的に菌数が増えて発病するわけではありません。この期間はLTBI期間(潜在性結核感染)と考えら れ、咳や微熱といった臨床症状は無いのですが、体内では細胞性免疫系の白血球が攻撃を加えている時期でも有ります。その攻撃をかわして結核を発症する場合 と、細胞性免疫に押さえこまれて身動きできなくなり休眠状態に成る場合が有ります。
結核感染と発症における免疫応答
結核菌が肺の奥まで到達し感染しても、自己の細胞性免疫の能力に依り、多くの人は休眠期結核感染となるか、自己の免疫力で結核菌を一掃して一生涯発病しないのですが、様々な原因で細胞性免疫の能力が弱くなって液性免疫が優勢化し、結核菌増殖が優勢になると発病の危険性も高まります。感染した後一生の間に発病する人は、10人に1人か2人と考えられます。

生涯に亘って結核が発症する危険度
殆どの場合、発病は感染後2年以内ですが、中には10年以上経過後に免疫力が低下して発病する人もいます(主に高齢者結核)。
そういう意味で結核は注意すべき病気ですが、結核が発病しただけでは他の人に感染することはありません。咳やたんなどの臨床症状が出て、結核菌が身体の外に出るようになって、初めて感染を起します。ただし適切な治療を行えば2週間程度で感染性(他の人に感染させる恐れ)は殆どなくなりますが、治療の完結には6ヶ月間服薬が必要です。

結核感染において想定されるサイトカイン産生応答
結核に感染した場合、潜在性結核感染者となり、体内には細胞性免疫応答が発動し、T-細胞はIFN-γ(炎症性サイトカイン)を産生してマクロファージを活性化し、マクロファージはその胞体内に結核菌を封じ込めて増殖を抑制します。
更には免疫系の細胞が胞体周囲を取り囲みマクロファージーもろとも結核菌の動きを封じ込めます。
この状態で終生結核を発病しない人もいますが、10~20%の人は結核菌が細胞性免疫能に打ち勝って結核を発病し、活動性結核患者となって結核治療を受けなくてはならなくなります。
活動性結核患者、潜在性結核患者の体内には量は異なりますが、結核菌が存在しています。その間は下図のようにIFN-γと呼ばれる炎症性サイトカインが産生されていると考えられています。

参考資料)
「結核感染と免疫反応」(一般社団法人 免疫診断研究所)





