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健康長寿サロン

余禄  ♪楽器と遊ぶ
(やりたいことの見つけ方)

以前と比べると外出する機会が減り、家にいても刺激がない生活になっている。外に出ることの必要性もさほど感じないし、したいこともなく漫然とした生活をしている。

ワクワクすることや、やりたいことがあればしてみたいと思うが、どうすればよいか とのご意見がありました。

 

じつはいつかやりたかったことって、ありませんか

やりたいことをみつけたい方は、まず自分が好きなことや、得意だったことを思い出す作業から始めてみましょう。好きだったり得意なことなら、続く可能性が高いためです。

部屋を暗くした環境で一切の音も遮断し、瞑想にふけるようなスタイルを勧めます。

あなたが得意なことは、他人のほうが意外に知っている場合もあります。自分では意識していなくても、手先が器用だねとか、色のセンスがいいねなどと言われたことはありませんか。

それもないという人は、以前からやりたいとは思っていたが実現に至らなかったことがないか、やり残したと感じているものはないかなどと思いを巡らしてみてください。

それもないなら、傍から見ていて楽しそうに見えるものがなかったか考えてみましょう。

それもないという方は、新たな趣味にこだわらず、別の楽しみ方を勧めます。

 

さて今回は番外編として医師という立場を離れ、一市民の目線に立って趣味に関する具体的な話をしてみます。趣味や興味というのは十人十色ですから、退屈極まりないと感じる方もいらっしゃるでしょう。なので、入退出は自由にされて構いません。

小さな楽器を持ってきました。ウクレレです。これが現在の私の趣味になっています。

ウクレレと付き合うようになって、まもなく10年になります。なぜこの楽器にたどりついたかというと、軽くて持ち運びが便利、大衆楽器なので価格帯がリーズナブルなど理由はいくつもあるのですが、私の生活史のなかで弦楽器に触れてきた時間が長かった点が関係しています。

弦楽器のなかでは、弦を指で直接扱う点も魅力でした。和楽器の三味線は、撥(バチ)を使います。バイオリンのような西洋楽器では、弓を用います。ピッチカートといって弦を指ではじく操作があるにはありますが、例外的です。もっともコントラバスをジャズで用いるときはピッチカートがメインです。指で直接弦をはじく行為が理屈抜きで好きなのだろうと、自分では思っています。陶芸家や陶芸を趣味とする人が、土に触れることの楽しさに理屈はいらないと語る姿勢と同じです。

 

さてバイオリンやチェロ、コントラバス、あるいは和楽器の三味線は、胴体から伸びた木の軸(ネック)があるだけです。軸の上で指を滑らせることで音階を刻むため、単音が原則です。ギターのようなフレットはありません。フレットとは、木の軸に固定された金属製の横棒です。

ウクレレは小型ギターみたいで、ギター同様フレットがあります。

(下の写真 ご参照  何本もの平行線にみえるのがフレット)

フレットは、その根元を押さえれば正しい音が出るというメリットのほかに、和音を楽しむための構造物でもあります。和音を簡単に奏でることができるのであれば、ひとりでも遊べる楽器だと思いました。また小さな音でも十分に楽しめそうな点も魅力でした。

 

ウクレレは、考え抜かれた楽器なのかも

4つの弦を開放弦(どこも押さえない)で はじくと ソ・ド・ミ・ラという音が出ます。最初のソつまり一番手前の弦(4弦)のソは、次のドより高い音です。通常の弦楽器は、バイオリンでもギターでも手前(正面から見ると一番左)の弦が太く、順に弦が細くなっていくため音は高くなっていきます。

ほぼすべての弦楽器では、音の高さが4弦<3弦<2弦<1弦であるのに対し、ウクレレでは3弦<2弦<4弦<1弦という配列になっています。

(秦野 ウクレレさんのHPから引用)

 

当初、この小さな楽器に触れたときは正直戸惑いました。楽器店の店員さんがそれぞれの弦をチューニングして「どうぞ」と貸してくれたのですが、3弦<2弦<4弦<1弦というデコボコな弦音の配列を知らなかったからです。まったくの初心者であることを告げると、店員さんは慣れた手つきできれいな和音を出し、これはこんな感じ、こちらだとこんな音と説明してくれました。

メーカーだけでなく、素材のちがいでも音色にそれぞれ特徴がある点がおもしろく、西洋楽器のバイオリンやチェロにはない魅力を感じました。

ともかく習うより慣れよということで、楽器と教則本を買って帰りました。

 

ニッポン人がウクレレと聞くと、高齢者では漫談家の牧伸二さんや、ハワイアンを思い浮かべる方が多いようです。ハワイアンではバンプと呼ばれる定番フレーズがあり、フラダンス曲の前奏やつなぎ、終わりの部分でよく出てきます。(デモ)親指と人差し指の2本で、じゃらじゃらと三連符になるような弾き方を交えることもあります。

ウクレレの場合、一番手前の4弦と外側の1弦が ソとラといった隣同士の音になっている理由は、和音(コード)を弾いたとき軽やかな響きになるためとウィキペディアでは説明されています。たしかに同感ですが、それとは別に、独奏も手軽にできるよう考えられた結果のような気もします。

たとえば80日間世界一周という曲があります。(デモ)主旋律の素早い運びは1弦と4弦から容易に生まれます。Tea for twoという曲も同じで、主旋律は1弦と4弦の組み合わせを多用します。(デモ)先ほどは上から下に弾き下ろす親指メインの奏法でした。Tea for twoは、下から上に弾き上げる人差し指メインの奏法です。使う指によって音質が変化する点も、ウクレレのおもしろいところです。

スタンダードだけでなく最近の曲、たとえば坂本龍一さんが作られた戦場のメリークリスマスはピアノ曲としてよく知られていますが、1弦と4弦が1音違いであるウクレレにも向いています。(デモ)ちなみに弦を弾くのに爪を用いるか用いないかは好みの問題です。わたしの場合、業務上 爪を伸ばしたくないと思っていることと、やわらかい音が好きという理由から、指の腹側だけで弾いています。

 

低い音の弦にセットすると幅が広がる

さて開放弦がソ・ド・ミ・ラと独特な配列になっているウクレレですが、手前の弦を1オクターブ低くセットする方法があります。4弦はGの音と呼ばれるため、低いGつまりlowGの弦に張り替えると、1オクターブ低い音になります。これにより4つの弦は、低いほうから高いほうに向かって順番に並ぶことになります。よくみかけるのは通常のものと、lowGをセットした2つのウクレレを持つパターンです。それぞれを曲によって使い分けているのだと思います。

そこでlowGをセットしたウクレレも持ってきました。ひと回り大きなサイズであることと、ナイロン弦でなく金属で巻かれた巻き弦の効果で、ふくよかな音がします。lowGバージョンのウクレレはベース音が入れられるため、ボサノバのバッキング(伴奏)に向いています。

ボサノバギターでは、4本の弦を4本の指でつまんで引き上げる弾き方をします。変調を繰り返しながら、和音を軽快なリズムに乗せてゆったり流すボサノバは、ウクレレにも合っています。(デモ)

lowGは、素朴なウクレレらしさがないといった理由から、好まない人もいますが、奥行のある音が出ますから、ゆったりした曲が合います。(デモ)このラブミー・テンダーという曲は、もともとアメリカ民謡で、オーラ・リーという名が原曲です。

lowGは、伴奏にも向いています。坂本九さんが歌った 上を向いて歩こうなどはおススメです。

 

手指の苦戦は脳のクスリ

最後に、先日(令和5年3月28日)亡くなられた坂本龍一さんを偲んで、ピアノ曲エナジー・フローの冒頭部分だけをやってみます。(デモ)坂本さんの曲は、クラシックの印象派的な要素や現代音楽のジャズ的色合いがあり、とても奥が深いと感じます。この曲に取り組み始めたのは2か月前なので、まだまだ未完成ですが、やることはいつも同じです。最初は、左手で押さえる部分を一つひとつ覚えていきます。こう押さえた次は人差し指がここに移動し、中指と薬指がここにくるといった感じです。旋律や和音が、まったくつながりません。ある指だけ離すような場面では、別の指ばかり離れてしまうため思うようにいかないといったことが、習い始めには多々起きます。

そこでイライラするのは若い人。思い出してください。自転車を覚えたときと一緒です。うまくいかない段階では技量がないため、アタマで考え考えやっています。旋律や和音がつながらないのは、指の技量がないだけでなく、さっき押さえた指の位置をすっかり忘れているといった理由もあります。

途中で間違える、中途半端な音が出るといったことが頻繁に起きても、根気強くやり続けることに意味があります。なぜなら 新しいことにチャレンジし、右手と左手を別々に使うことで、普段活動していなかった部分の脳が、活発に動き始めるからです。

早い話が、脳の鍛錬になるのです。そうか、脳トレか と思うと、イライラが消えていきます。

悪戦苦闘している時間は、脳にとって貴重な時間なのです。

 

脳は加齢とともに萎縮してきますが、回路は新たに作られます。考えることなく自転車に乗れるようになったり、楽器の指運びがスムーズにできるようになると、努力のすべては新たな回路として脳に刻まれて残ります。最初は考え、そのうち考えなくてもできるようになる現象は「手続き記憶」と呼ばれます。ありがたく、また不思議なことに、この記憶は劣化しにくいことが知られています。

 

和音はホッとする

ウクレレをやっていてよかったと思うこと――それは、ちょっとした発見に感動したり、ホッとした気分になれるからです。

たとえば先ほどのアメリカ民謡オーラ・リーは、シンプルな曲です。シンプルな曲は単純だと思われがちですが、シンプルなだけにいろいろ和音変更ができます。和音を変えると、不思議なことに 異なる情景がふっと浮かんできたりします。デモでやった曲運びでは、半フレーズや1フレーズごとに和音がメジャー、マイナー、メジャー、マイナー……と、短い周期で移り変わっていきます。和音をいじっているうちに結果としてそうなったのですが、原曲の奥深さにちょっと感動しました。

また和音や連続した和音の流れは、ただそれだけで美しいと感ずるときもあります。たった4つしかない弦ですが、単に音を出すだけで ホッとした気分になれるのです。

   

楽器はウソをつきません。少しでもサボると汚い音になります。きちんと向き合うと、いい音が出る。しかも電気仕掛けではない生の楽器は、馴染んでくるにつれ音も鳴るようになります。弦楽器もピアノも、そういわれます。飾っておくと鳴らなくなるのです。不思議ですし、おもしろいですね。

おもしろいと感じて活動していらっしゃる方々は、陶芸でも俳句でもバイクツーリングでも皆さん、心地よさがあるという方が多いです。小さな発見もあり、感動もある。

次回にお話ししますが、心地よさ、発見、感動は脳にとてもよいのです。

 

以前、施設スタッフと一緒にアンサンブルを仕組んだことがありました。そのなかに高齢の方がいらっしゃいました。カホンという箱のかたちをした打楽器を担当していただいたのですが、その方は楽器そのものにも興味を持たれ、自作のカホンをいくつか作ってしまいました。手先が器用でDIYが好きな方でしたが、音楽にはそうした楽しみ方もあるんだと知りました。自前のカホンで歯切れのよい音を刻んでいるときの至福に満ちた表情は、いまでも印象に残っています。(質疑応答 略)

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