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健康長寿サロン

冬にもある食中毒に注意! 
ノロウイルス、腸管出血性大腸菌O157
黄色ブドウ球菌、セレウス菌

このところ食中毒のニュースが多いように思います。本来なら梅雨のときや夏に多かったと思うのですが、冬に向かう季節に多発しているのはなぜでしょうか? 

また日ごろ、どういったことに気をつければいいのでしょうか、とのリクエストがありました。

 

 

 

たしかに食中毒に関するニュースが気になります。

手始めに、2023年11月17日のスポーツ新聞記事から紹介しましょう。

 

「食中毒多すぎ」死者2名も…「マフィン」「牛角」「老人ホーム」短期間の続発にネット震撼「やばくない?」

ここ数日、食中毒のニュースが相次いでいる。16日には、3カ所の店や企業が食中毒の発生に謝罪する文面を発表し、ネット上では警戒の声が高まっている。

焼き肉チェーン店「牛角」を運営するレインズインターナショナルは同日、食中毒の発生を報告し、謝罪。7日の横浜市内の店で食事した1組49人のうち21人の客が腹痛などの体調不良を訴え、8人からノロウイルスが検出されたという。

また日本ゼネラルフードも16日、謝罪文を掲載。給食サービスを提供する静岡県内の特別養護老人ホーム(特養)で、食事をした33人が胃腸炎などを発症し、うち2人が死亡。発症者からは腸管出血性大腸菌O157が検出された。

また週末の東京のイベントに出展した洋菓子店のマフィンを食べた客から腹痛などの体調不良が相次ぎ、同店が14日に謝罪。16日には厚労省が危険度が最も高い「CLASS  Ⅰ」と認定し公表。

同日、あらためて店が謝罪文を公開したが、回収方法が二転三転するなどし、ネット上では炎上状態になった。(以下略) 

(中日スポーツ 2023年11月17日)

 

 

 

じつをいうと、食中毒は冬に多い

新聞報道をみて「梅雨の時期だけでなく、秋や冬にも食中毒があるのか」と思われた方も多いと思います。ですから今回の表題も「冬にも多い食中毒に注意」としてみました。

けれども下のグラフのとおり、食中毒はむしろ秋から冬、春にかけて多く、6月~8月の夏季は少ないことがわかります。

表題改め「夏よりも、冬季に多い食中毒に気をつけて」あたりが、正しい内容です。

(「食中毒~季節に関係あるの?~」 農林水産省HPから)

 

ちなみに10月に多い自然毒とは、野草、キノコ、ふぐなど、自然界に存在する天然の毒を示します。素人のキノコ採り(秋)によるキノコ毒のほか、山菜採り(春)で採られた有害野草、ジャガイモの芽など季節性があるものが多いとされます。

また7~11月まで少なかったウイルス(上図のオレンジ色)は、12月になると一気に増えていることがわかります。

今朝(令和5年12月7日)のニュースでも、愛知県豊橋市のスポーツ関係のイベントで配られた弁当でノロウイルスによる食中毒が起きたとの報道がありました。豊橋市の業者が提供した幕の内弁当が原因とみられており、弁当を調理した従事者からノロウイルスが検出されたとのことでした。

 

今回は、冬季に食中毒を起こす病原体のうち、ノロウイルス、腸管出血性(病原性大腸菌)O157、黄色ブドウ球菌とセレウス菌について、予防法と留意点についてお話しします。

 

 

1.ノロウイルスによる食中毒 

ノロウイルス感染症は、冬に多いウイルス性食中毒の代表です。この感染症は感染力が非常に強い、何度でも感染する、コロナで効果があったアルコール消毒は期待できないなどの特徴があります。

症状は、突発的な嘔吐おうとと下痢です。汚染された食品が口に入ることによって感染する「接触感染」のほか、感染者の吐しゃ物や糞便が床などに飛び散ったあと、乾いてふわりと舞い上がったものを吸い込むことで感染する「空気感染」など、さまざまな感染経路があります。このため共同生活をしている施設や会社では、感染者が相次いで現れ、蔓延すると修羅場化することがあります。

 

《予防法》

① 手洗いをしっかりと 消毒は次亜塩素酸を使う

特に食事前、トイレの後、調理前後は、石けんでよく洗い、流水で十分に流す。

消毒は次亜塩素酸ナトリウム消毒液が有効で、家庭用塩素稀有漂白剤(ハイターなど)を薄めることで作ることができ、場所によって濃度を変えて用いる。たとえば、患者の嘔吐物や糞便が直接付着したペーパータオルやおむつなどに対しては濃度の濃い消毒液を使用し、ドアノブや手すりなどノロウイルスに汚染されている可能性がある場所に対しては薄めの消毒液を使用する。

 

② 「人からの感染」を防ぐためのノウハウ  

家庭内や集団で生活している施設でノロウイルスが発生した場合、感染した人の便やおう吐物からの二次感染や、飛沫感染を予防することが大事。
ノロウイルスの空気感染を避けるためには、感染者の便や嘔吐物が乾燥して空気中へ舞い上がる前に速やかに処理を済ませることが重要。また、汚物の拭き残しがないように、確実に処理をする必要あり。汚物の処理が終わった後には、部屋の換気も必ず行うようにする。

 

③食品からの感染を防ぐ

加熱して食べる食材は中心部までしっかりと火を通すこと
二枚貝など、ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合、ウイルスを失活させるには、中心部が85℃~90℃で90秒間以上の加熱が必要とされているため。

調理器具や調理台は「消毒」して、いつも清潔に
まな板、包丁、食器、ふきんなどは使用後すぐに洗う習慣が大事。熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱消毒が有効。

 

 

ノロウイルス感染症の感染経路は4つ

●経口感染(食中毒)
ノロウイルスに汚染された食べ物を口にすることで感染するケースです。特に、牡蠣(かき)やアサリなどの二枚貝を十分に加熱していない状態で食べることによって起こります。
また、調理や配膳などを行う食品取扱者がノロウイルスに感染していた場合、ウイルスの付着した手で扱われた食品を口にした人が感染する例も少なくありません。

●接触感染
ノロウイルスに汚染された物に触れることによって手指に付着したウイルスが、何らかの拍子に体内に侵入して感染するケースです。ウイルスが付いたままの手で自分の口に触れたり、食事をしたりすることによって起こります。特に、感染者の便や嘔吐物の処理後は感染のリスクが高まります。また、感染者が排便後に十分な手洗いをせずに触れたドアノブなどを介して感染するパターンもよくあります。

●飛沫感染
感染者の嘔吐物が床などに飛び散った際、その飛沫を吸い込むことで感染するケースです。便や嘔吐物を始末している最中にも飛沫は発生するので、注意が必要です。

●空気感染
感染者の便や嘔吐物が乾燥することでノロウイルスを含んだ埃となって舞い上がり、それを周囲の人が吸い込んでしてしまうことで感染するケースです。埃が周辺に散らばることによってウイルスが広がっていくため、結核や麻疹、肺ペストのように広範な空気感染(飛沫核感染)とは異なります。

便や嘔吐物の飛沫は水分を多く含んでおり粒子が大きいため、空中を長く漂うことはできませんが、乾燥すると埃となって空気中を浮遊できるようになります。このウイルスを含んだ埃が空気感染の主な原因です。
このような埃は、時間が経って乾燥してしまった嘔吐物などを掃除する際に舞い上がります。

また、速やかに掃除を済ませていても、適切に処理ができていなければ、拭き残しが乾燥して固まり、その上を人が歩いた時に埃として舞い上がってしまう可能性もあります。

このように、便や嘔吐物の処理の甘さや遅れが、空気感染のリスクを高めることになります。
さらに、このウイルスを含んだ埃は長時間浮遊し続けるので、窓を閉め切った状態にしておくと部屋の中に停滞し続けます。そして風に乗って広がるため、エアコンや扇風機を使用すると感染を拡大させる危険も出てくるという、非常に厄介なウイルスです。

 

感染してしまったら補水を

現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。このため、通常、対症療法が行われます。特に体力の弱い乳幼児、高齢者は、脱水症状を起こしたり、体力を消耗したりしないように、水分と栄養の補給を充分に行いましょう。脱水症状がひどい場合には病院で輸液(点滴による補液)を行うなどの治療が必要になります。止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいでしょう。

 

 

《💡 ちょっとしたヒント》

いつもと違って、何度もトイレに行く人がいたら要注意。そのときは、下痢や嘔吐がないか聞いてみてください。冬季になると、体温や咳、咽頭痛などの有無を朝にチェックする職場が多くなったと思いますが、下痢や嘔吐の有無も確認する必要があります。

ノロウイルス感染症は、初動対応が極めて大事です。そのまま観察放置していると、不特定多数が手に触れるトイレのドア、階段の手すり、扉のドアノブなどが順次汚染されていき、気がつくと職場の過半数が感染し、事後対応に手を焼くことになります。

 

 

《実際の事例から》

仕出し弁当が原因となった食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒  登録日:2016/03/08  衛研名:山梨県衛生環境研究所  発生地域:山梨県  事例発生日:2012年12月11日  発生規模:3,775名  患者被害報告数:1,442名  死亡者数:0名  原因物質:ノロウイルス   キーワード:食中毒、仕出し弁当、ノロウイルス

概要:
平成24年12月11日、12日に弁当製造施設で調理・配送した弁当を喫食した3,775名中1,442名が食中毒症状(下痢・嘔気・腹痛・嘔吐・発熱)を呈し、患者便からノロウイルスG IIが検出された。患者に共通する食事が仕出し弁当に限られていること、調理員1名と複数の患者の便からノロウイルスGIIが検出されたこと、症状・潜伏時間がノロウイルスによるものに合致したこと、患者を診察した医師から食中毒患者届出票が提出されたことから仕出し弁当を原因とする集団食中毒と断定し、病因物質はノロウイルスG IIと特定した。

原因究明:
弁当製造施設を経営する会社は、他に県内に2施設(本社工場、A工場)と県外に2施設の計5施設で弁当の調理、配送を行っていた。食中毒の患者は当該施設の配送先のみに発生しており、他の配送先では確認されなかった。
当該施設では本社工場から盛付け配送された弁当と、当該施設で調理、盛付けした弁当を合わせて毎日約3,900食を事業所等に配送していた。米飯は、原則本社工場で炊飯し、米飯用弁当箱に盛付けされたものをそのままの状態で配送していた。当該施設で使用する食材は一旦本社工場に納品された後納品されるためすべて本社工場と同じ食材であった。

12月11日の弁当については、発症した調理員が調理行為の中で手指、調理器具等を介してノロウイルスの汚染を食品に拡げた可能性が極めて高いと考えられた。また、発症した調理員は作業中に何回かトイレを使用しており、その際に接触したトイレや出入口のドアノブ等から配送係を含めた他の従業員にもノロウイルスの汚染が拡がり、その他の弁当を汚染した可能性も考えられた。

発症した調理員は12月12日には出勤していないが、前日に調理器具や施設のドアノブ等に付着していたノロウイルスが、他の従業員の手指や調理器具を介して12日の弁当に汚染を拡げたと考えられた。
12月11日、12日の検食からノロウイルスは検出されていないが、以上のことから、本社工場から配送された弁当を含め11日と12日に当該施設から配送されたすべての弁当を原因食品とした。( 仕出し弁当が原因となった食中毒事例:国立保健医療科学院 )

 

 

 

 

2.腸管出血性大腸菌(病原性大腸菌)O157による食中毒

この菌は強い感染力を持っています。通常の食中毒では、10万個以上の菌が体内に入らない限り感染することはありませんが、病原性大腸菌O157は、わずか50~100個の菌が体内に侵入するだけで感染が成立するため、ちょっとした汚染もあなどれません。

症状は、出血を伴う腸炎を起こしたり、溶血性尿毒症症候群(HUS)といって溶血性貧血や血小板減少のほか、急性腎不全が進んで重症化したりすることもあります。こうした現象は、この菌が放つ強い毒力を持ったベロ毒素によって もたらされます。

食中毒は通常、細菌の増殖に適している初夏から初秋にかけて発症率が上がりますが、O157は菌の数が少なくても強い感染力を持つため、気温の低い冬季でも発症するケースがみられます。

 

 

《予防法》

いずれの食中毒も、予防の基本は菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」の3つです。

日頃から、調理前後(特に生ものを取り扱うとき)や食事の前、排便後は必ず手を洗い、消毒するのを習慣化してください。また、食中毒菌を増やさないためには、食品の迅速な調理低温保存(細菌の多くは10℃以下の環境で増殖続度が落ち、-15℃以下で増殖が低下する)が重要です。

そして、多くの細菌やウイルスは熱に弱いため、O157などの食中毒菌を駆逐するには加熱処理が肝心です。目安として、食品は中心部を75℃で1分以上よく加熱するようにしてください。つまり前半で触れた1.黄色ブドウ球菌の部分で触れた内容と一緒です。

 

 

《実際の事例から》

事例1.静岡の特養でO157集団食中毒 2名死亡、給食が原因か

静岡県は11月15日、同県西伊豆町の特別養護老人ホーム「ヒューマンヴィラ伊豆」で給食を食べた入所者やデイサービス利用者、職員の計33人が腹痛や下痢などの症状を訴え、うち入所者2人が死亡したと発表した。患者や調理員の便からは腸管出血性大腸菌O157が検出され、県は食中毒と断定した。

県によると、33人は45〜103歳の男女で、死亡したのは男性(81)と女性(76)。死因は特定されていない。15日時点で、8人が入院している。

3日に昼食として出された炊き込みご飯やサバの竜田揚げなどの給食が原因とみられる。6日以降、症状が出ていることが判明した。

県は、給食を調理していた業者「日本ゼネラルフード」(名古屋市)に対し、15日から当分の間、施設内での営業禁止を命じた。

(以下略)日本経済新聞 2023年11月15日

 

(写真は、炊き込みご飯とサバの竜田揚げ  通常は安心して食べられるお料理の代表)

 

事例2.平成31年2月に同一系列の焼き肉店で発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒事案について

(事案の概要)
同一系列の焼き肉店を2月9日から2月12日にかけて利用し、下痢、嘔吐等の症状を呈する者の14名の便から、腸管出血性大腸菌O157(VT1,2)が8自治体で検出されていることが判明しました。このうち、3月11日までに判明した13名の便より分離された菌株の遺伝子型が全て一致しています。
国立医薬品食品衛生研究所等において、系列店で保管されていたハラミ及びその関係材料を検査したところ腸管出血性大腸菌O157を検出し、患者便と遺伝子型が一致しました。このハラミは、有症者の多くが喫食しており、また、当該系列店のみに提供されていました。当該系列店の焼き肉店は2月25日より全店舗の営業を自粛しています。現在までに公表された調査結果は以下の通りです。なお、現時点で重篤な患者は認められておりません。(厚労省HPから)

(手前はよく焼いた焼肉 奥に見えるのは生肉)

 

事例3.厚労省プレスリリース 平成30年6月15日)から

埼玉県、東京都、茨城県及び福島県から報告された同一の遺伝子型の腸管出血性大腸菌O157:H7による感染症・食中毒事案について

本年5月25日以降、埼玉県、東京都、茨城県及び福島県で報告された腸管出血性大腸菌O157による食中毒・感染症の事案のうち、6件について、同一の遺伝子型であったことが確認されました。

本件の概要については別添のとおりであり、同一の遺伝子型が確認された6件に共通の食材であるサンチュを出荷した生産業者については、6月12日から出荷を自粛しており、本日自主回収を要請しました。

なお、これを踏まえ、本日、都道府県等を通じ、野菜等を生で食べる時には、よく洗うこと、高齢者、若齢者、抵抗力の弱い者を対象とした食事を提供する施設に対し、野菜、果物を加熱せずに供する場合には殺菌を行うよう改めて指導を徹底すること等を通知したのでお知らせいたします。

 

(焼肉の定番 サンチュ  通常は焼く処理をせず生で食べる)

 

 

《💡 ちょっとしたヒント》

焼肉屋さんで、焼肉とはいつまでもだらだら焼かず、さっと焼いて食べるのが韓流と指示された人もいらっしゃるでしょう。しかし上記の報告をみると、そのような食べかたはリスクがあることがわかります。生肉の色が、加熱処理によって しっかり変わった状態を食べるクセをつけておいたほうが無難です。サンチュは避けられないけれど……。

 

 

3.黄色ブドウ球菌による食中毒

黄色ブドウ球菌はありふれた菌です。人体の皮膚表面や毛孔、鼻腔内に存在する常在菌で、約30% ~100%のヒトが保有しているといわれます。

一方のセレウス菌は土壌や汚水など自然界に多く存在するほか、健康な成人の10%で腸管のなかに常在菌として存在します。また米や小麦粉のなかにも常在菌として確認されます。

これらの食中毒を理解するには、ヒトにおける“常在菌” の立ち位置を知っておく必要があります。。

 

生きていくために必要な常在菌

常在菌(じょうざいきん)とは、ヒトの身体に存在する微生物(細菌)のうち、病原性を示さないものを指します。そして常在菌は生きていくために必須の菌とされます。

たとえば腸管にいる常在菌は、ビタミンやタンパク質を合成して食物の消化吸収を助けるとともに、安定したバランスを保つことで外界からの病原菌の増殖を阻止し、感染の防御や免疫力の強化にも重要な役割を果たしています。

皮膚の常在菌は、外的刺激から肌を守っています。代表的な常在菌は、皮膚表面や毛穴に存在する表皮ブドウ球菌です。同じスペースに住む悪玉菌ともいえる黄色ブドウ球菌の増殖を防ぎ、皮膚のバリア機能を保っています。また毛穴や皮脂線に存在するアクネ桿菌は、皮膚表面を弱酸性に保つことで、皮膚に付着する病原性の強い細菌の繁殖を抑えています。

常在菌である表皮ブドウ球菌は、非病原性です。しかし免疫力が低下している患者さんでは、あなどれない日和見感染症(弱毒菌による感染症)の病原体となることがあります。

一方、黄色ブドウ球菌も常在菌ですが、膿痂疹、腫れ物、吹き出物、熱傷症候群、蜂巣炎、毛嚢炎、癰、膿瘍のほか、骨髄炎、心内膜炎、毒性ショック症候群、菌血症、敗血症、肺炎、髄膜炎など、さまざまな病気を引き起こすことから、病原性が高い細菌と位置づけられています。

 

 

次に、こうした常在菌が、なぜ食中毒を引き起こすのか、実情を観察していきます。

まず《予防法》を確認したあと、食中毒にまつわる報道や報告をざっと眺めてみることで、どこに落とし穴があったか確認していきましょう。

 

《予防法》

食中毒予防の基本は、菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」が3原則。

黄色ブドウ球菌が産生する毒素(ベロ毒素)は、通常の加熱では分解されない。そのため食材に菌をいかに付けないか、増殖をどう抑えるかがカギ。

① 手洗い、消毒、手袋の着用を怠らない

黄色ブドウ球菌を食材に付着させないためには、まずきちんとした手洗い、そしてアルコールによる消毒が効果的。手や指に生傷がある場合は、使い捨ての手袋(ビニール、樹脂性)を用いる。

 

② 適切な温度で食材を保管・管理する 

黄色ブドウ球菌は10℃以下の環境では、ほとんど増殖できない。食材は出しっぱなしにせず、10℃以下の冷蔵庫で保管する習慣が大切。

 

③ 調理するときには、十分な加熱する 

最も大切なのは、黄色ブドウ球菌を調理場に持ち込まないこと。細菌は目に見えないので、大丈夫だと思っていても どこかに潜んでいる“かも” との認識を持つ。食材は、中心温度が75℃で1分以上の加熱をすることで細菌は死滅する。細菌がいなければ、有毒なエンテロトキシン(毒素)も発生しない。ともあれ調理するときの加熱が不十分だと、菌が増殖して毒素を産生するリスクが高まる。

 

 

では実際にあった事例からみていきましょう。

《実際の事例から》

青森県八戸市にある弁当製造業者吉田屋が、2023年9月15日と16日に製造した弁当を食べたことによって9月に食中毒が発生しました。吉田屋は創業から130年を超える老舗です。

弁当を食べた人は、腹痛や嘔吐などの症状を訴えました。被害は全国に波及し、9月21日までに八戸市保健所には21都県270人の被害が報告されました。

青森県八戸市保健所は、弁当から食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌(エンテロトキシン A 型)と、セレウス菌が検出されたことから食中毒と断定し、11月23日付で期限を設けず営業のすべてを禁止処分としました。

 

食品安全教育研究所代表の河岸宏和氏によると、この二つの菌が発見されることは、通常なら「あり得ないこと」だといいます。

食品安全教育研究所代表 河岸宏和 氏談
「ブドウ球菌というのは、髪の毛、鼻の周り、手のケガとか爪の中に入っているのです。弁当工場では、必ず帽子をかぶってマスクをして手袋をしていますから、ブドウ球菌がお弁当の中に入るというのはあり得ないんですよ。普通の工場だと入りません。
それに反して、セレウス菌というのは、どうしてもお米を炊いたときには残ってしまうので、それを制御するというのが大事になります。ご飯を炊いてからすぐに冷やす、盛り付けまでの時間、また販売までの時間。消費期限のうちにセレウス菌によってご飯が納豆のように糸を引くというのは、これもまたあり得ない話です」。

 

八戸市保健所が行った会見では、発見された2つの細菌についての特徴が述べられていました。

わかりやすく図にまとめられていましたので、下に貼付しておきます。わかりああ

 

実際に当該の弁当を食べた人によると、「弁当のご飯が納豆のように糸を引いていた」といいます。

今回、吉田屋が外部に委託したご飯は700㎏以上。運搬時は発泡スチロールの箱に袋を入れて、袋の中に10㎏ずつ米飯を詰めてトラックで運搬していました。

吉田屋はこの際、30℃以下での運搬を依頼していましたが、河岸氏によると、一般的な弁当工場ではご飯を炊いたら真空冷却器で冷却してすぐ盛り付けるため、今回、炊飯から盛り付けるまでの保管温度が高く、時間も長すぎたことが、問題につながった可能性がある――つまり業者から吉田屋へ運搬する際の、温度と時間に問題があった点を専門家は指摘しています。

(フジテレビ系「めざまし8」 9月25日放送から)

 

細菌が放出するエンテロトキシンが食中毒を起こす

黄色ブドウ球菌は比較的高い食塩濃度でも増殖し、毒素を産生するため、例えば塩にぎりや自家製の漬物などでも注意が必要です。そのうえ黄色ブドウ球菌が放出するエンテロトキシンは、120℃で20分加熱しても無毒化されず、耐熱性が極めて高いことで知られています。菌は、増殖に適した環境で、二分裂による細胞分裂で倍々ゲームのように増えていきます

 

細菌が産生する毒素のうち、腸管に作用して生体に異常反応を引き起こす毒素はエンテロトキシン(enterotoxin)と呼ばれます。エンテロは腸、トキシンは毒を意味します。耐熱性のエンテロトキシンは調理の加熱では不活化されず、また消化酵素でも分解されないために食中毒が発生します。

 

 

……だいぶ疲れてきましたね。もう少しの辛抱です。

最後に、セレウス菌について触れておきます。

 

 

 

4.セレウス菌(最強レベルです)による食中毒 死者も出た「チャーハン症候群」とは?

セレウス菌は、食品における汚染頻度が高く、さらに加熱調理後も生残している場合が多いこと、またセレウス菌は、自然界に広く分布しているため、食材への汚染を防ぐことは困難です。たとえばこの菌は、米や小麦粉のなかにあたりまえのように潜んでおり、1g当たり10個以下で確認されます。このためセレウス菌は、食品の常在菌といえます。農産物に広く汚染・存在しているため、食品からセレウス菌を完全には除去することはできません。
さらに、セレウス菌の芽胞は通常の加熱で死滅させることは不可能であることから、加熱調理後に菌を増殖させないように食品を取扱う必要があります。

予防のポイントは、以下の2つです。

 

《予防法》

①必要最少量の調理を行い、速やかに提供・喫食する

加熱調理後に常温で放置することがセレウス菌の増殖につながる。このため調理後は常温放置せず、速やかに提供・喫食する。

 

保管する場合には、「8℃以下」または「55℃以上」を保つ

セレウス菌は28℃~35℃の温度帯で増殖しやすい。調理後に保管してから提供・喫食しなければならない場合は、8℃以下で冷蔵保管、もしくは55℃以上で保管する。また、冷蔵保存するときは、冷却速度を速める目的から、小分けにして保管する。

 

 

巧妙に生き延びるセレウス菌

セレウス菌は加熱調理後も生残しているなど、じつに厄介な細菌といえます。

熱に強い理由は、この菌が芽胞(頑強なカプセル)を持っているためです。

セレウス菌は発育の段階で生育に不利な条件となると「芽胞」と呼ばれる特殊な構造物を作り、悪条件下でもしぶとく生き延びます。芽胞の状態にあるセレウス菌は、増殖しない休眠状態といえます。芽胞膜は頑固な構造をしており、通常の加熱調理温度(100℃、30分など)でも死滅しません。このため環境が乾燥した状態でも、長い年月にわたって生存できます。

生育条件が整ってくると、芽胞は発芽を経て増殖状態(栄養型)に変化します(図2)。栄養型は増殖することができますが、芽胞のときと異なり、75℃の加熱で死滅します。

 

セレウス菌の毒素

セレウス菌はエンテロトキシン(下痢原性毒素)という下痢毒と嘔吐毒を作りだし、これが食中毒症状を引き起こします。

レウス菌のエンテロトキシンは「セレウリド」と呼ばれ、熱抵抗性があり、126℃でも破壊されず、酸やアルカリにも安定した物質です。米を炊く温度やスパゲティーをゆでる温度では死滅しません。

ちなみに黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンも、120℃で20分加熱しても無毒化せず、非常に耐熱性が高いことで知られています。つまりこの2つの細菌は、いったん毒素を放出すると手に負えません。

 

嘔吐型セレウス菌食中毒の原因食品は、焼飯(チャーハン)、ピラフのほか、オムライス、パエリア、ドライカレ-など米飯の調理食品に多くみられた経緯があります。米飯以外ではスパゲッティ(パスタ)が挙げられます。

 

米飯や、ゆでたスパゲティ-を室温に放置すると、そのうちに芽胞が発芽し、増殖をして菌数が10万個以上になると食品中にセレウリドが生成されます。逆にいえば、セレウリドはセレウス菌が食品中で10万個以上増殖しなければ産生されないのです。

セレウリドは耐熱性なので、調理された焼飯やスパゲティであってもセレウリドは壊れません。この毒が食中毒を起こすと考えられます。

 
セレウス菌の症状と対応

セレウス菌食中毒には2つのタイプがあります。1つは潜伏時間が6~15時間、水様性下痢と腹痛が主症状で、一般に「下痢型」と称されます。2つ目は潜伏時間が短く30分から6時間、平均3時間、主症状が嘔気、嘔吐で、「嘔吐型」といわれます。

国内で報告されるセレウス菌食中毒は、大部分が嘔吐型です。症状が概して軽症であり、保健所などに届出されないこともあり、統計に現れない多数の発生数と患者数があるものと推察されます。

セレウス菌による食中毒は、短期間で治るのが大半ですが、免疫力が低下しているようなハイリスク群や高齢者では重症化することがあります。治療は通常、水分補給のみで、特に吐き気や下痢がひどく脱水症が懸念される例には点滴による補液が効果的です。なお下痢止めは菌や毒素が体内に留まることを助長するため、推奨されません。

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《実際の事例から》
青森の老舗吉田屋が作成した弁当の原因菌には、黄色ブドウ球菌のほかにセレウス菌がありました。
わたしたちにとって耳慣れないセレウス菌は、チャーハン症候群という呼称で世に広まった過去があります。
  • 「チャーハン症候群」はソーシャルメディアによって2008年に広まった言葉で、セレウス菌(Bacillus cereus:略してBC菌)による食中毒を指す。もともとは1970年代にイギリスでチャーハンを食べた人からセレウス菌がみつかったことが、名の由来。
  • しかし「チャーハン症候群」という言葉は語弊があるとの意見が多い。セレウス菌によって引き起こされる病気は、適切な温度で保存されていない食品に起因するもので、穀物、肉から、チーズ、パスタまであらゆるものが含まれるため。
  • まれにセレウス菌による中毒で死亡した人もいる。例えば、最近話題になっているソーシャルメディアの動画では、常温で放置した5日前のパスタを食べた20歳の男性が死亡している。

三番目の話題は、5日前のパスタを食べた後に急死した20歳の男性(ベルギーのブリュッセル在住の大学生)に関するTikTok の動画に、発言力のある医学博士が反応したことからトレンド入りしました。

医学雑誌Journal of Clinical Microbiology誌によれば、男性は常温で5日間放置されたトマトソースのスパゲッティを、食べる前に電子レンジで温め直したあと食べていました。男性は30分以内に頭痛、腹痛、吐き気を訴え、その後「数時間にわたって大量に嘔吐し、深夜に水様性の下痢を2回繰り返した」と報告されています。投薬は受けず、水しか飲まない状態で寝てしまったのですが、午前4時頃、つまり食事を摂ってから約10時間後に死亡していたところを発見されました。

 

ともあれセレウス菌による食中毒は、汚染された米や穀物を食べたことで生じます。

米飯や炒めご飯、ゆでたスパゲティ-などを室温に放置することでセレウス菌が増殖し、その菌からセレウリドという毒素が産生されることから、室温に6時間以上放置しないことが大事になってきます。米飯やゆでたスパゲティ-は必要な量を調理し、余った物は必ず冷蔵保存することで食中毒が予防できます。

 

 

《💡 ちょっとしたヒント》

強烈な毒を放出する黄色ブドウ球菌も、頑強な“さや” を持って生き延びるセレウス菌も、正しく恐れたいのは「数」です。しぶとくしたたかなセレウス菌も、常在菌として存在している限り、恐れる必要はありません。黄色ブドウ球菌の場合もセレウス菌も、菌数が10万個以上になると、食品中に産生されたエンテロトキシンによる食中毒が起こるわけです。

そして菌数を10万個以上にさせないコツが、藍色で示した《予防法》です。

 

昭和の時代のおばあちゃんがしていたように、くんくんと匂いを嗅ぐ、糸を引く米飯など見た目や味を重視する。つまり味覚、嗅覚、視覚など五感など、わたしたちのアナログ装置をフルに活用することも、自らの身を守るために大事といえます。

 

 

 

参考資料)

「ノロウイルス(感染性胃腸炎・食中毒)対策」首相官邸HPから

「ノロウイルスは空気感染する? その原因と予防策について」健栄製薬コラム 2022.11.28

「No.1585 仕出し弁当が原因となった食中毒事例」国立保健医療科学院 2016年06月09日

「注文の受けすぎが原因? 老舗弁当店が食中毒で「営業禁止」処分に 専門家「二つの菌が出るのはあり得ない話…防げた事故」2023年9月25日  FNNプライムライン

「健康被害危機管理事例データベース」2016年06月09日公開 国立保健医療科学院

m3com.臨床ダイジェスト「死者も出たチャーハン症候群とは」2023年11月16日(MDLinx 11月3日付記事を転載)

「セレウス菌食中毒の症状や特徴、予防方法について」町田予防衛生研究所HPから 2023年11月6日

「加熱しても死なない食中毒菌 1.セレウス菌による食中毒」一般財団法人 東京顕微鏡院 2016年9月2日

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