要介護に結びつきやすい病気とは?
介護が必要になる要因の1位は「認知症」、以下脳血管疾患(脳卒中)、加齢に伴う衰弱、骨折・転倒、関節疾患と続くが、これらは男女の差が大きく、男性では「脳血管疾患」が1位であり、その割合は女性の約2.5倍の24.5%を占めること、また女性では「骨折・転倒」「関節疾患」が多く、男性の約3倍となっているとの話が前回あった。
病気であることと、介護を要する状態になることへのつながりをもう少し知りたい。
またフレイルやサルコペニアといった名前をよく耳にするが、これらと要介護の関係は? などのリクエストがありました。
自力で社会生活を送ることが難しくなり、他人からのサポートが必要になってきたとき、要介護という概念が生まれます。それまで普通に社会生活を営んでいた人が、病気を経験したことで社会生活を送れなくなる場合、いきなり介護が必要になる例と、一定の時間を経て介護が必要になる例があります。前者は病気がもたらす後遺症によって急性に起こり、後者は病気が進展していくことで晩発性に起きてきます。
1.急性に起こって要介護になる可能性のある代表的疾患
内科系)脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、心筋梗塞などの急性心疾患
脳血管障害(原因の第2位)は軽症から重症までさまざまです。既往歴に脳梗塞がありながら後遺症がほとんどない人がいる一方で、いずれの脳血管障害でも発症後まもなく永眠される人がいます。それは急性心疾患も同じです。命は守られたものの、血管障害が起きた部位によって、脳や心臓の機能障害が大きい場合、それまで送ることができていた社会生活が難しくなります。
整形外科系)大腿骨骨折(上部の頸部や転子部など)
二本足で歩行するようにできているヒトは、足にダメージが生ずると歩行が難しくなります。高齢者に多いのは、転倒による骨折(原因の第4位)です。なかでも大腿骨の上部は折れやすい場所で、手術がうまくいってももともと骨のもろさがあったり、筋肉が貧弱だったりするとそれまでの歩行ができなくなり社会生活に支障をきたすことがあります。
2.一度病名がつくと、緩やかに進行して要介護になる可能性のある代表的疾患
認知症、糖尿病(無治療の場合)、パーキンソン病、寝たきりに伴う病態(褥瘡、誤嚥性肺炎、フレイル、サルコペニア、低栄養)など
認知症(原因の第1位)は単なるもの忘れ病ではありません。脳が緩やかに萎縮していくことで、脳がつかさどっていた機能に「劣化」や「抜け」が生じてきます。歩行や寝返りがうまくいかない(運動機能の低下)、飲み込みがうまくいかない(嚥下機能の低下)、食べものを口に入れるだけで食べることをしようとしない(食を認識する機能の低下)などは、進行した認知症によくみられる症状です。
糖尿病はきちんと治療をすれば後遺症なく平均寿命まで生きることができる病気です。
しかし無治療に近い状態では、血管障害や神経障害が起きてきます。血管に障害が起こることで歩行への影響が出たり、糖尿病性網膜症による失明が起きてきます。また神経が障害されていくことで熱さや痛みに鈍感になり、大やけどを負ったりします。さらに腎障害が昂じて人工透析に移行する例もあります。こうした例は、無治療の糖尿病や、コントロールが悪い状態と診断されて数年以上の時間を経て生じます。
パーキンソン病は進行の度合いによって5段階に分類されます(ホーン・ヤールの病期分類)。
ステージ4は、歩行が介助なしでどうにか可能な状態であり、ステージ5は介助がなければベッドまたは車椅子の生活となって、歩行は困難になります。
脳血管障害のように急性に起きた病気や、認知症や糖尿病の進展によって床に就く時間が伸びて寝たきり状態になると、筋力は一気に萎え、床ずれ(褥瘡)が生じやすくなります。また食べる量も減って、十分な栄養が得られなくなります。食べる量は変わらないのに体重が落ちていく現象は高齢者によくみられますが、主たる原因は消化管からの吸収力低下です。
ともあれ下図のごとく連鎖反応のようなサイクルに入ると、老衰への進行が加速します。
それなら高齢者が日常生活を送る上で自立した状態つまり介護不要の生活を維持するには、何に気をつけていればよいのでしょう。
ここで介護が必要になった原因の順位を、グラフでみてみましょう。
原因の筆頭は認知症で、脳血管障害、高齢による衰弱、転倒・骨折、関節疾患と続きます。
認知症のうちアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は、予防する手立てがありません。残りの血管性認知症や脳血管障害では、予防対策としての血圧治療が大切です。
原因の第3位にある「高齢による衰弱(13.3%)」とは、老化によって起こる諸臓器の機能低下や能力低下が進行した結果、「衰弱」状態にある人を示します。嚥下機能の低下や、吸収機能の低下によって起こる骨のもろさや低栄養、また前屈姿勢が進行することによる呼吸/消化機能への慢性的負担などが初期の状態です。健常者は健康状態が崩れても、医療的アシストを加えることで元に戻る力を持っていますが、高齢者はこの力が脆弱になって元の状態に戻れず、ちぐはぐな反応を示すようになります。恒常性の低下や可塑性の喪失などと呼ばれますが、これが衰弱(老衰)の本態です。
入院治療をして退院となっても、ほどなく同じ状態に陥るため、治療に対する反応が期待できなくなるのも老衰や衰弱の特徴です。加齢に伴って機能低下がしばしばみられる臓器として脳(認知症)、心臓(心不全)、腎臓(腎不全)、消化管(吸収力低下による低栄養)があり、連動運動に機能低下を起こす臓器に消化管(誤嚥や慢性便秘)があります。
本来なら無害なはずの常在菌による感染症を繰り返すのも、超高齢者の特徴です。重篤化して治りにくく、うまく治ったとしもまた同じ感染症に陥るといった状態がみられます。これは易感染宿主(コンプロマイズドホスト)にみられる特徴で、免疫機能の異常が原因ですが、一律な機能低下でなく、ちぐはぐな反応があちらこちらで起きているためです。
原因の第5位にある「関節疾患(10.2%)」の代表は変形性関節症で、股関節や膝(ひざ)関節によくみられます。また脊椎の関節で起こる脊柱管狭窄症によって生ずる坐骨神経痛や神経原性筋萎縮がもたらす歩行障害もこの部分に属します。
介護不要の生活を維持するために留意したい点のひとつめは、これまで出てきた疾患にならないための工夫を怠らないことです。脳血管障害に陥らないよう血圧コントロールをし、脱水症を防ぐための生活様式や食生活の維持が大事になってきます。運動するときは事前に水分補給をするとか、炎天下で長いこと畑仕事をしないとか、ノドが乾かない冬季もこまめな水分補給をすることが、傷みがちな体を いたわり、劣化させないために有用なのです。
糖尿病を指摘されたら、きちんと治療することです。認知症でも、血管性認知症は高血圧症をコントロールすることで予防効果が得られるため、治療はおろそかにしないほうがよいでしょう。
転倒による骨折は屋外より屋内で起きています。家のなかが乱雑だったため床の紙に足を取られて転倒したり、暗い夜に電気を点けないでトイレに行こうとして転んだ例が多いことから、居住空間にムダなものを置かないようにし、夜は電気代をケチらないことです。
また閉経後骨粗しょう症の病名があるように、女性は閉経後に骨のもろさが出やすくなります。定期的に骨密度を調べてもらったり、牛乳を定期的に飲むといった習慣が推奨されます。
留意点のふたつめは、筋力や栄養の保持です。
ご質問にあったサルコペニアやフレイルといった病態は、「高齢による衰弱」予防や「すこやかに老いる」ために有用な概念であり、予防として重視されるのが筋力保持であり栄養の保持です。
オムロンヘルスケアにわかりやすく説明されていたので、以下にご紹介しましょう。
サルコペニアとは「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」を示す言葉です。
サルコペニアは、特に高齢者の身体機能障害や転倒のリスク因子になり得るとされています。
一方、フレイルとは「加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態」を示しており、いわゆる「虚弱」です。言い換えると、介護が必要になる前段階とも表現できます。
サルコペニアが筋肉量の減少にターゲットを置いているのに対して、フレイルの方が体重減少、倦怠感や活動度の低下などの項目が入っており概念が大きいと考えられます。
歩行速度の低下で秒速0.8mとは、横断歩道を青信号の間に渡り切れる速度です。ペットボトルのふたが開けるのが大変になったら、握力が低下しているかもしれません。「ここ1年で体重が2、3kg減り、特になにもしていないのに以前に比べて疲れやすくなり、買い物や集まりに出るのが億劫になった」という人はフレイルが心配ですね。
どちらも原因として、加齢や栄養不足、身体活動量の低下、さまざまな疾患の合併などが挙げられます。さらに、サルコペニア(筋力の低下)がフレイル(虚弱状態)に繋がるなど、ふたつの状態はお互いに関連し合っています。
現在、健康寿命(援助が必要ない・要介護状態でない期間)を延伸させるために国を挙げた取り組みが行われていますが、そこでもサルコペニアとフレイルへの対策が重要視されています。
手軽に取り入れられる対策としては、バランスの良い食事をしっかり摂取すること、適切な運動を行うなどが挙げられます。具体的には、筋力を低下させないために、筋肉の素となる栄養素であるたんぱく質やアミノ酸を積極的に摂取するようにしましょう。
また、運動に関してはレジスタンス運動(筋肉に負荷をかけて行う運動)が効果的であるとされています。専門家の指導を受けて、サルコペニアやフレイル対策をすることが大切です。
参考資料)
日経Gooday 2018年9月3日記事
『いつもと違う高齢者をみたら』第2版(医歯薬出版)
オムロンヘルスケアvol.185 サルコペニア、フレイルとは何ですか