諸機能低下など 高齢者独特の病気
お題)
階段の上り下りがしんどい、転びやすくなったのは仕方がない? とのリクエストがありました。
フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム
フレイルは、海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっています。「Frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」2)とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。多くの方は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが、高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。
サルコペニアは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を指します。または、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指します。
ロコモティブシンドロームは、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態 」をいい、運動器の障害には、運動器自体の疾患によるものと、加齢に伴って起こる運動器の機能低下によるものとがあります。
体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少、疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下などがみられます。フレイルの主な原因にサルコペニアと低栄養があげられます。サルコペニア対策には骨格筋の形成・維持に必要なタンパク質を十分に摂取する必要があります。筋肉をつくるためにタンパク質の合成を促すには十分なエネルギー摂取も必要です。フレイル対策には筋肉の他に骨の維持も重要であり、カルシウムやビタミンDも積極に摂りたい栄養素です。
レジスタンス運動※も筋肉でのタンパク合成を促します。筋肉をつくるために最も効果的なのはレジスタンス運動の約1時間後にアミノ酸を摂取することであると言われています。
※ レジスタンス運動:筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動のこと
フレイル対策には、規則正しく、バランスの良い食事を摂ることを心掛けましょう。
1日の適切なエネルギー量の食事を1日3回に分けて摂ること、主食、主菜(肉・魚・卵・大豆製品)、副菜(野菜・キノコ・海藻類)、牛乳・乳製品、果物をバランスよく摂ること、筋肉の素となるタンパク質(肉・魚・大豆製品)と骨を強くするカルシウム(牛乳・乳製品・小魚)を含む食品を積極的に摂ること、十分な水分を摂ることなどが大事です。
おすすめのレジスタンス運動
図1 スクワット)自分の体重を抵抗として行えるレジスタンス運動は自宅で簡単に行うことができます。両足を肩幅に開いて立ち、椅子の背や机などを持ちます。
背中が丸くなったり、踵が浮いたりしないように、お尻を下にまっすぐ落とします。
太腿の前に力が入っていることを意識しながらゆっくり10回行います。
図2 状態起こし)両膝を立てて仰向けに寝ます。両手は頭の後ろで組みます。
おへそを覗き込むように頭を持ち上げます。
お腹に力が入っていることを意識しながら、ゆっくり10回繰り返します。
図3 ランジ)片足を前に出し、膝を曲げて体重をかけていきます。
1の状態からゆっくり元に戻します。足を入れ替えて交互に10回行います。
老年症候群
老年症候群とは、加齢に伴い高齢者に多くみられる、医師の診察や介護・看護を必要とする症状・徴候の総称のことで、50項目以上の病態が存在します。
代表的症状は、めまい、息切れ、動悸、喀痰と咳嗽(咳)、喘鳴(ぜーぜー)、頭痛、不眠、転倒、骨折、低体温、肥満ややせ、吐血や下血、認知機能の低下、脱水症、関節痛、腰痛、食欲低下、むくみ、シビれ、悪心や嘔吐、下痢、便秘、骨粗しょう症、椎体の圧迫骨折、嚥下困難、尿失禁、抑うつ状態、せん妄状態、貧血、低栄養、出血傾向、不整脈、腹痛、発熱、胸水、腹水、意識障害、麻痺(まひ)、電解質異常(低ナトリウム血症、低カリウム血症など)、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症、がん(免疫機能低下状態)など。
老年症候群には、2つの状態が混在します。
生理的老化とは病気によるものではなく、加齢により誰にでも起きる変化です。
たとえばだんだんと耳が聞こえづらくなる、夕方になると目が見えにくくなる、就寝中のトイレの回数が多くなる、坂道を上ると息が切れる、小さな物忘れなどがあります。
もうひとつは病的老化です。疾患やけがなどによりおきる症状です。この病的老化はさらに合併症の症状として考えられるものと多臓器疾患の影響や、社会的条件に影響されて出現してくる二次的な症状があります。
老年症候群にはこの「生理的老化」と「病的老化」が混在しています。ある老年症候群の症状があらわれたとき、その症状が病気の治療により改善するものであるのか、それとも生理的老化であったり、元の病気が治せないために改善が期待できないものであるのかを正しく理解することが重要です。
メモ1)廃用症候群
長期療養でみられる病態で、褥瘡(床ずれ)、誤嚥、失禁が主。その他、筋委縮や関節拘縮(関節が硬くなる)のほか、認知機能低下も含まれる。
メモ2)日常生活動作が低下する危険性が2倍に増える因子
情報関連機能の低下(認知機能・視力・聴力)、転倒、うつ、女性が知られています。
メモ3)日常生活動作が低下する危険性が5倍に増える因子 脳血管障害が該当します。