高齢者の脱水症
なぜ危険なのか、知っていますか?
熱中症が多くなる夏場を迎えるにあたり、脱水に気をつけましょうとよくいわれます。
脱水ではないのですが、血液が不足する貧血の場合、自分には経験があるので症状は知っています。
大腸がんのため貧血が緩やかに進み、それががん発見のきっかけになりました。頭痛や集中力の低下に始まり、そのうち立って仕事をしていたら倒れ、味覚に変化が生じ、会食にいってもたくさん食べている人たちをみて、食欲がわかないのはなぜだろうと思った覚えがあります。
それに対して脱水は、これまでなった経験がないので、イメージがわきません。
水分が不足する脱水が なぜ問題なのか、とのリクエストがありました。
人間の体には、どれくらいの“水” があるか
人間の体には大量の水が含まれており、体重の約50〜70%が水分です。
具体的な割合は、年齢・性別・体脂肪率などによって異なります。
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新生児:約75〜80%
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成人男性:約60〜65%
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成人女性:約50〜60%
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高齢者:約50%以下になることもある
たとえば体重60kgの成人の場合、水分量は約60kg × 60% = 36リットルです。
この水は、以下のように体内で分布しています。
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細胞内液(体内水分の約2/3)… 約24リットル
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細胞外液(体内水分の約1/3)… 約12リットル
細胞外液12リットルのうちわけは、血漿(けっしょう)として約3リットル、間質液(かんしつえき)として約9リットルです。
🔻細胞内液と細胞外液
細胞内液は、細胞の内部に存在する液体で、体内の総水分の約 2/3を占めます。
細胞内液には、以下の特徴があります。
- 主要な成分: カリウムイオン(K⁺)やマグネシウムイオン(Mg²⁺)が多く含まれ、細胞の正常な機能を維持します。
- 役割: 細胞内の化学反応を促進し、代謝の場として機能します。
- 調節: 細胞膜を介してナトリウム-カリウムポンプなどの機構により、イオン濃度が調節されます。
細胞外液は細胞の外に存在する液体で、体内の総水分の約 1/3を占めます。
以下の成分に分かれます。
- 血漿(Plasma): 血液中の液体成分で、酸素や栄養の運搬に関与。
- 間質液(Interstitial Fluid): 細胞間に存在し、細胞への栄養供給や老廃物の除去を担う。
- リンパ液(Lymph): 免疫系の一部で、体内の異物を除去する役割を持つ。
- 主要な成分:ナトリウムイオン(Na⁺)、塩化物イオン(Cl⁻)、重炭酸イオン(HCO₃⁻)、カルシウムイオン(Ca²⁺)など。
間質液という呼称は、耳慣れないと思います。間質というのは独特の医療用語で、反意語は実質です。実質である細胞に対して、実質同士の隙間の部分を間質と呼びます。間質液とは、その部分にみられる液体をいい、細胞に栄養や酸素を届け、老廃物を受け取る役目をしています。具体的には血漿成分が毛細血管からしみ出して間質液となり、最終的には静脈に戻っていきます。
また検査結果の用紙を渡されたとき、血清ナトリウムとか血清カリウムなど、血清という用語を見た人も多いと思います。血漿は上記のとおり、血液から血球(赤血球・白血球・血小板)を除いた液体成分で、凝固に関わる要素(フィブリノーゲンや凝固因子)が含まれ、主な用途は血液製剤です。
一方の血清は、血漿から凝固に関わる要素を除いたもので、主な用途は血液検査です。
🚨 備考 細胞内液と細胞外液の組成が異なるのは、なぜ?
細胞内では多くの酵素反応が行われるため、pHやイオン組成が最適な環境に調整されています。つまり細胞は、いわば化学工場です。ある細胞は酵素aとbとcによりA製品を作る化学工場であり、ある細胞は酵素dとeとfによりB製品を作る化学工場だったりします。C製品を作る細胞には酵素a、d、eがあり、D製品を作る細胞には酵素b、fがあるなど、それぞれ異なった細胞内環境で、生きていく上で必要な製品(パーツ)を作っているイメージが、細胞にはあります。
その細胞群に必要な物質を送り届けるのが細胞外液です。それぞれの細胞は細胞膜にゲートを持っており、必要な物質はゲートの開閉によって取り込まれます。細胞膜がもつ“必要な物質だけを通す性質” は「選択的透過性」と呼ばれます。
このように、細胞内と細胞外とでは環境が大きく異なり、役割も異なるため、それぞれが固有の組成を持っているわけです。
細胞内液と細胞外液のバランスは、体液の恒常性(ホメオスタシス)を維持する上で非常に重要です。たとえば、脱水や電解質異常が起こると、このバランスが崩れ、体調に影響を与えます。
一日三食の人は、食事以外にどれくらいの水を飲めばよいか
人が1日に必要とする水分の量は約2.5リットル前後ですが、そのうち一部は食事から摂取できることから、飲み水としてどれだけ補うべきかは、知っておきたい知識です。
✅ 一日に必要な水分の内訳(成人の一般的な目安)
食事に入っている水分量:約1.0リットル(ごはん、みそ汁、果物や野菜などに含まれる水分)
体内での代謝水(栄養素が分解されて出る水分):約0.3リットル
飲み水など飲料から供給が必要な水分量:約1.2リットル(自分で飲むべき分 2.5-1.0-0.3=1.2)
🚰 結論:
一日三食きちんと食べている人は、飲み物として「1.2リットル前後(コップ6〜8杯)」を目安に飲むとよいでしょう。
☑ 補足:状況によって増やすべきとき
以下のようなときは、さらに500ml〜1リットル程度多めに水分をとる必要があります。
- 暑い日、汗を多くかく日(熱中症対策)
- 運動をした日
- 発熱・下痢・嘔吐があるとき
- 高齢者や乳幼児(脱水に気づきにくい)
🧠 注意点
- 水分は一気に飲まず、こまめに分けて飲むようにしましょう。とくに高齢者は心臓に負荷がかかりやすいことから、心不全の病名がついていない人もこまめな水分補給を心がけてください。一度にたくさん水分を摂ると、体内循環水分量が一機に増え、それが心臓に負担をかけることになるためです。一度に飲んでも、何回かに分けて飲んでも、結局尿や汗として出るのだから同じ、と考えている人がいたら、それは誤りです。
- カフェインやアルコールは利尿作用があり、水分補給には不向きです。
🚨 備考 意外に少量? 一日に必要な水分量(高齢者)
一日に必要な水分量は、「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)に、目安量が設定されています。
生活活動強度が高い人では、1日あたり3.3~3.5L程度であり、生活活動強度が低い人は1日あたり2.3~2.5L程度とされます。(出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」
栄養学などの資料によれば、高齢者の1日の水分摂取量は、以下の計算式で求めることができます。
1日当たりの必要水分量(ml)=年齢別必要量(ml)×実測体重(㎏)。
65歳以上の場合、年齢別必要量は体重1㎏当たり25mlとなります。たとえば、75歳で実測体重45㎏の人であれば、25(ml)×50(㎏)=1250(ml)と計算できます。
この1250(ml)から、食事などに含まれる水分を差し引かれたのが、実際に「飲む水分」の量です。食事から摂取する水分量は、1,000キロカロリーあたり400mlを目安にして考えられています。
すると、1,500キロカロリーの食事をしている人では400×1.5=600ml。つまり1250-600=650mlとなります。食事が摂れている人であれば、食事以外の必要水分量は650ml、つまり上記の1.2リットル(1,200ml)の約半分という計算になります。
そのようなわけで 通常の生活ができている高齢者に必要な水分量はどれくらいなのかは、まだ議論の余地がありそうです。
慢性的な脱水症(水不足)は、なぜ悪い?
慢性的な脱水症(水分不足)が悪い理由は、体のさまざまな機能に広く影響を与え、健康を損なうリスクがあるためです。以下に主な理由を挙げます。
🔹 細胞や臓器の機能が低下する
水は体内の細胞が正常に働くために不可欠です。慢性的に水分が不足すると、細胞が機能するのに必要な水分が足りなくなり、臓器の働きが鈍くなっていきます。臓器の症状として、脳は頭痛のほか集中力や記憶力の低下がみられます。消化器は便秘や胃腸の不調がみられます。腎臓は老廃物がうまく排出できなくなり、機能が低下します。
🔹 血液の循環が悪くなる
水分が不足すると血液は粘度を増してドロドロになって、血流が悪化していきます。高血圧症を招くほか、心臓に負担がかかるようになるため、心疾患のリスクが増します。
🔹 体温調節がうまくできなくなる
体温は汗をかくことで調節されていますが、水分が足りない状態だと汗が出にくくなり、体温が上がっていきます。熱中症の場合が該当するほか、高齢者はもともとの体内水分量が少ないことと予備力がないため体温が変動しやすく、悠長に観察していると命にかかわることがあります。
🔹 慢性的な疲労・だるさ
水分不足が続くと代謝が落ちるため、疲れやすくなります。慢性疲労や集中力の低下、さらに気分の落ち込みにつながることもあります。
🔹 免疫力の低下
血流が停滞するとリンパ液も停滞してきます。その結果、リンパ球や好中球といった免疫担当細胞の流れも悪くなることで免疫機能が弱まります。その結果、感染症にかかりやすく、また治りにくくなります。
🔹 肌や髪の乾燥
体内の水分が不足すると肌の潤いが失われ、乾燥肌や肌荒れの原因になります。髪もパサつきやすくなります。皮膚は軽くみられがちですが、外部環境から身を守る上で皮膚は大事なバリアの役目をしてくれています。ですから皮膚の荒れは、バリアの脆弱化につながります。
慢性的な脱水は、知らず知らずのうちに体を蝕んでいく「隠れた健康リスク」です。
毎日のこまめな水分補給を意識することが大切です。
脱水症の3タイプ
脱水症には、失われる水分と電解質(主にナトリウム)のバランスに応じて、3つのタイプがあります。それぞれの特徴は以下のとおりです。
🔹 1. 高張性脱水(こうちょうせい・ハイパートニック脱水)
🔸水分 > 電解質 が失われる
👉 摂食障害(食べられない、食べない)、発熱、下痢などにより水分が多量に失われたときに起きます。高齢者では感染症などによる体調不良や、向精神薬や睡眠導入剤による傾眠によって摂食量の低下が生じやすいといえます。食べない、飲まないといった状態から、高張性脱水が誘発されます。また心不全やリンパ浮腫などで恒常的に利尿剤を服用している人も、このタイプの脱水症が起きやすいといえます。
血液検査結果)脱水の所見 + ナトリウム濃度が高くなる(血清ナトリウム値 > 145mEq/L)
🔸進行したときの症状
- 摂食障害(食べない、食べものを口に供与しても吐き出す、飲まない)
- 強い口渇
- 発熱
- 舌が乾く
- 神経過敏、けいれんなど(重症時)
🔹 2. 等張性脱水(とうちょうせい・アイソトニック脱水)
🔸水分 ≒ 電解質 が同時に失われる
👉 出血、下痢、嘔吐などの急激に体液を喪失したときに見られます。
血液検査結果)脱水の所見 + ナトリウム濃度は正常(135~145mEq/L)
🔸進行したときの症状
- 血圧低下、頻脈
- 脱力感、めまい
- 尿量の減少(乏尿)
🔹 3. 低張性脱水(ていちょうせい・ハイポトニック脱水)
🔸電解質 > 水分 が多く失われる
👉 発汗や尿などでナトリウムを失った後、水だけを補給したときに起こります。熱中症や下痢、嘔吐で「水ばかり飲んでいた」人、利尿剤の多用のほか、高齢者では副腎皮質機能低下でもみられます。
血液検査結果)脱水の所見 + ナトリウム濃度が低下する(血中ナトリウム < 135mEq/L)
🔸進行したときの症状
- 頭痛、吐き気
- 意識障害(重症の場合)
- 筋肉のけいれん・脱力
水分補給時には、脱水のタイプに応じて「電解質の補給」も意識することが大切です。
とくにスポーツや高齢者のケアでは、経口補水液(OS-1など)の活用が効果的です。
血液検査の尿素窒素(BUN)とクレアチニンの値から、 脱水症の有無がわかる
脱水症を判断するために血液検査で注目すべき項目はいくつかあります。
以下の項目が特に重要です。
- BUN(尿素窒素): 脱水時には腎機能が低下し、BUNの値が上昇します。
- Cre(クレアチニン): 腎機能の指標であり、脱水時に上昇することがあります。
- BUN/Cre比: この比率が20以上になると、脱水の可能性が高まります。
- UA(尿酸): 脱水によって上昇することが多い。
脱水状態になると、体内の水分が不足するため腎臓への血流が低下します。
その結果、腎臓の ろ過機能が低下し、尿の生成量が減少します。
脱水症では 尿素窒素(BUN)が上昇しやすいのに対し、クレアチニン(Cre)はそれほど大きく変動しません。理由は、それぞれの排泄メカニズムの違い にあります。
尿素窒素とは、体内でタンパク質が分解されたときに生じる 尿素に含まれる窒素の量を示し、通常は腎臓を通じて排泄されます。尿量が減ると体内に蓄積するため血中濃度が上昇します。
つまり脱水症で尿素窒素(BUN)が上昇する理由は、腎臓の血流量が減少する点にあります。このため脱水症の指標として用いられるわけです。
それに対してクレアチニンは 筋肉の代謝産物 であり、腎臓の糸球体でろ過されることで排泄されます。クレアチニンの産生量自体は変わらないため、脱水症で腎血流が低下してもクレアチニンの排泄は 比較的一定であることから、血中濃度の変動は比較的少ないといえます。
このため脱水症では BUN/Cre比が20以上 になることが多く、脱水症の指標として用いられるわけです。ちなみに脱水症では腎機能低下がほぼ例外なくみられますが、腎臓そのものの機能低下ではなく血流低下によって腎機能低下が誘発されることから、腎前性腎不全と呼ばれます。急性腎不全のうち腎前性腎不全は、早期に適切な治療を行えば回復する可能性が高い病態です。
また、尿検査では尿比重が高くなることも脱水の指標となります。
なお尿素窒素が高い場合は、脱水症のほか消化管出血があります。逆に低い場合は、低栄養や肝不全がないか、確認する必要があります。
下痢や嘔吐が繰り返されると、どうなる?
下痢や嘔吐が繰り返されると、体内の水分と電解質(ナトリウム・カリウム・塩素など)が大量に失われ、以下のような深刻な症状やリスクが現れる可能性があります。
🔻主な影響とその理由
1.脱水症状
水分が失われることで、体内の血液量が減少します。その結果、尿が出にくくなり、口の渇き・皮膚の乾燥・めまい・倦怠感・意識低下などが起きてきます。
重症になるとショック状態(血圧低下・意識障害)に至ることもあります。
2.電解質異常(ナトリウムやカリウムのバランス崩壊)
嘔吐や下痢では、消化液の喪失からナトリウムやカリウムが失われます。
🔹ナトリウムが不足(低ナトリウム血症)すると虚脱感や疲労感、頭痛、吐き気がみられ、状態が進行するとけいれんや意識障害~昏睡が生じます。
🔹カリウムが不足(低カリウム血症)した場合は、筋力低下、脱力感、便秘がみられ、進行するとけいれんや不整脈が生じ、最悪の場合は心停止を招きます。
3.栄養の吸収障害
下痢によって腸内で栄養が吸収されないとエネルギー不足やビタミン・ミネラルの欠乏が生じます。長引くと体重減少のみならず、体力低下や免疫力低下がみられるようになります。
4.腎臓への負担
水分が足りないと腎臓に十分な血流が届かないため、腎前性腎不全の部分でも説明したとおり、急性腎障害を引き起こすことがあります。
5.高齢者は、とくに危険
高齢者はもともと体の水分量が少なく、バランスを崩しやすいため、短時間で命に関わる重症脱水や電解質アンバランスに陥るリスクが高いといえます。
✅ 対処法
- 軽度の場合:経口補水液(OS-1など)で水分と電解質を同時に補給する。
- 重度や継続する場合:医療機関での点滴治療が必要!
- 食事ができない・嘔吐が止まらない場合も早めの受診を!
🔔ポイント
「水だけを飲めばいい」と考えるのは危険です。
下痢・嘔吐が続くときは、電解質の補給もセットで行うことが大切です。
どれくらいの水が失われると、体はおかしくなるか
人間の体は水分が一定に保たれた状態で正常に機能しますが、水分が失われる(脱水)と、段階的に体に異常が現れます。
🚨特に注意が必要な状況は以下の4点で、高齢者も入っています。
- 高温環境(熱中症のリスク)
- 激しい運動
- 高齢者(喉の渇きを感じにくい)
- 乳幼児(体重に占める水分割合が高い)
💧実際の水分量での目安(体重60kgの場合)
単純計算になりますが、1%の水分喪失は、0.6リットル(600cc)の水が失われたことになります。
5%では3リットル、10%ですと6リットルです。
🔻体重に対する水分喪失量(体重に対する%)と、その影響を以下にまとめてみました。
水分喪失量 | 主な症状 |
1〜2% | 軽い喉の渇き、パフォーマンスの低下、体温上昇 |
3〜4% | 強い喉の渇き、皮膚や口の乾燥、疲労感、集中力低下 |
5〜6% | 頭痛、めまい、吐き気、血圧低下、心拍数増加 |
7〜9% | 幻覚、けいれん、意識混濁(危険な状態) |
10%以上 | 腎不全、循環器系の崩壊、昏睡など命にかかわる病態 |
72時間の壁
高齢者の場合、「おとといから食べないで、寝てばかりいるんです」は、かなり危険な状態! です。
「72時間の壁」ということばを聞いたことがある人は少なくないと思います。ニュースを見ていても、「まもなく72時間が経過することから早急の救出が望まれます」といった内容がよく出てきます。
「72時間の壁」とは、大規模災害時の人命救助における重要なタイムリミットを指すことばです。人間が飲まず食わずで生存できる限界が約72時間とされており、災害発生から3日を過ぎると生存率が急激に低下するといわれています。
脱水の初期段階(1〜2%)でも、集中力や身体能力は大きく低下します。炎天下で畑作業やウォーキングをしたあとなど、疲れや口喝に加え、微熱レベルでも体温が上昇しているときは、すでに脱水が始まっていると考え、経口補水液を飲むようにしてください。
熱中症のときに用いられる水分補給のメニューは?
熱中症のときは、飲める状態であるなら経口補水液が推奨されます。意識障害が生じて飲めない状態のときは医療機関にて点滴治療が施されます。その場合は、細胞外液(電解質輸液)と呼ばれる点滴が基本ですが、高張性脱水のときは5%ブドウ糖液が用いられます。
🔍 理由と背景:
🔹 熱中症では何が失われるかといえば、水分と電解質(特にナトリウム)です。水とナトリウムが大量に失われると循環不全に陥ります。
このため脱水のタイプとしては、高張性脱水または等張性脱水が多いとされます。
🔹 治療目的として対応するには、何がいい?
血管内の循環血液量を迅速に補い、ナトリウムやクロールなどの電解質を補正するためには、経口補水液(OS-1など)が適しています。
医療機関では細胞外液と呼ばれるナトリウムを多く含んだ点滴が補液として用いられます。ただし、水を多量に飲んでいた例などもあることから開始液から始め、血液検査結果をみて補液内容を調整していくこともよくあります。
🚨 備考 医療現場で用いられる点滴の あれこれ
細胞外液、維持液、開始液、5%ブドウ糖液の4つがあります。
細胞外液とは、細胞外液量の補充を目的とし、脱水や出血などで使用されます。
血漿に近い電解質組成、つまりNa⁺やCl⁻が多いので、水分とナトリウムが補えることになります。ショックや大量の嘔吐・下痢など、急性期に使われることが多いのも細胞外液です。医療現場では、乳酸リンゲル液(ソルラクト®、ラクトリンゲル® など)や生理食塩水(0.9% NaCl)が代表です。
これに対して維持液と呼ばれる点滴は、日常の代謝によって失われる水分・電解質の補給を目的としており、一時的な絶食時の維持輸液や入院中の水分補給で用いられます。最低限の電解質やエネルギー補給が目的なので、ナトリウム濃度は細胞外液よりやや低め、カリウムが多めで、多くはエネルギー源としてブドウ糖(5~10%)が含まれます。
医療現場では、ソルデム3A®(Na, K, Cl, glucose含有)が代表です。
一方、開始液と呼ばれる点滴があります。腎機能が不明、脱水の詳細が不明など事前情報がない場合、でも一刻も早く点滴をして脱水を是正する必要があるときに開始される点滴です。高齢者や腎機能障害がある患者の初期対応向けです。ですから通常は短期間のみ使用し、血液データにて詳細がわかってきたら細胞外液や維持液などに変更されます。
医療現場では、ソルデム1®、2®(低張の電解質+ブドウ糖)が代表です。
5%ブドウ糖液はナトリウムやカリウムといった電解質が含まれません。ですからこの点滴は電解質を入れたくないとき、つまりナトリウムが高い高張性脱水で用いられます。ブドウ糖は浸透圧を確保する目的で入っているため、体内では“水そのもの” として 体液を希釈する効果があります。
なお熱中症の重症度によって、補液のスピードや種類が調整されます。重症例では、初期に急速輸液(ボーラス)を行うこともあります。
たとえば熱疲労(脱水による意識障害、倦怠感、低血圧など)や、熱射病(高体温、意識障害、循環不全、臓器障害)といった重症例には、生理食塩水 or リンゲル液 1000 mLを15~30分で急速静注するといった急速輸液(ボーラス)が行われます。
✅まとめ
熱中症による脱水は「水だけでなく、電解質も不足」している状態が多いわけですが、高張性脱水では電解質が相対的に“濃く” なっています。このため放置観察することで意識覚醒レベルが落ち、重症化リスクが増します。
一方、熱中症で口喝のあまり過剰な水を飲んでいた場合は、低張性脱水に傾いていることがあり、その場合は電解質が相対的に“薄く” なっています。
どちらに傾いているかは、医療機関を受診して血液検査をしないとわかりません。
……あれ? おかしいぞ、なんかヘンだ と感じたら、早めの受診をするようにしてください。
参考資料)
「This is what happens to your body as you die of dehydration Popular Science」(Claire Maldarelli 訳:伊藤貴之 Feb 28, 2017)
「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省 2025年度版)
「熱中症ゼロへ」(一般財団法人 日本気象協会 監修:三宅康史先生)