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健康長寿サロン

高齢者の難聴 補聴器と集音器など

このところ耳が遠くなりました。

補聴器をつけても、ピーピーした音がするため人前では装着しづらくて困っています。

高齢者の難聴の特徴と対応などについてのお話を、といったリクエストがありました。

 

 

高齢者にみられる聴力低下の特徴(総論)

高齢者にみられる難聴の特徴は、両側(両耳が同じように障害されること)の高音域(高いピッチの音として自覚されるような音)に対する聴力低下が、年齢の進行と共に緩やかに進む点が特徴とされます。緩やかに進むので、特に初期においては症状として自覚されにくいのも特徴といえます。

このため本人には難聴の自覚がないにもかかわらず「最近テレビの音が大きくなった」として同居する家族から相談を受けることで発覚する例もあります。

 

高い音が特に聞きにくくなるため、まず①体温計や電子レンジの信号音のような電子音が聞きにくくなります。

また、②言葉の音の中でも、特に子音の聞きまちがいもしばしば見うけられます。たとえば「いち」(一)と、「きち」(吉)のように、母音は同じである別な言葉に聞きまちがえることがあります(ichiとkichi ともに母音は「i」)。「こと」(事)と「そと」(外)などもそうです(kotoとsoto ともに母音は「o」)。こうした場合には「音は聞こえるけれど何を言っているのかわからない」あるいは「聞きまちがいが多い」といった症状がみられるようになります。

 

先日も、ハルミさんと、マユミさんと、アユミさんの聞きまちがいがあった例を経験しました。

奥さまが「ハルミさんにお孫さんができたのよ」といったのを、ご主人は「マユミちゃんに孫ができたらしい」と解釈したようで、「へえ、40代なのに、もうおばあさんかぁ」と驚いたため、さすがに奥さまは違和感を覚えたようです。そこで聞き正したところ、ご主人は隣人のハルミさんと、東京在住の親族であるマユミさんとを聞きまちがえていたことがわかりました。さらにマユミさんとアユミさんは双子とのことで、難聴になってからは聞きまちがいが頻繁になっているとのことでした。

ハルミ(harumi)さんと、アユミ(ayumi)さんと、マユミ(mayumi)さんとでは、どれも母音がauiで同じですが 子音が異なっています。これにより聞きまちがいが生じやすくなるのです。

 

さらに難聴は、しばしば耳鳴りを伴っています。難聴によって音の刺激が脳に伝わりにくくなると、耳鳴りに対する感受性が上がることから、耳鳴りがより自覚されやすくなります。

耳鳴りはしばしば不安感や怒りなどの情緒的反応を引き起こし、また集中できなくなる原因となりえます。周辺の環境からの音刺激が途絶えると、こうした耳鳴りが際立つように感じられるため、特に夜間の入眠時に耳鳴りが気になって眠りにくい、という症状が出てくることもあります。

 

このような「小さい音が聞こえにくくなる」ことのほかにも、音を頭の中で処理するしくみ自体が、加齢による影響を受けています。わたしたちが実生活で音を聞き取っているときは、周囲の雑音の中から聞きたい音だけが選択されています。むろん無意識のうちに行われる技ですから、意識にのぼってくることはありません。

目的に叶った対象を効果的に処理する力は、聴覚や視覚の特性ですが、聞き取った言葉を理解し、その内容を記憶してはじめてコミュニケーションに役立てることができます。

また加齢に伴って ①相手が話すスピードについていきにくくなる、②騒音の影響を受けると、言葉の聞き取りがより悪化する、などのように、音を聞き取る脳内のしくみである「聴覚情報処理」能力の低下も、しばしば自覚されるようになります。じつは聴力が正常な場合でも、加齢の影響を受けて言葉の聞き取りが悪化する現象については、多くの報告があります。

 

というわけで、総論のあとは高齢者にもっとも多くみられる加齢性難聴についてお話しします。

 

 

1.加齢性難聴

加齢性難聴とは、加齢によって起こる難聴で、「年齢以外に特別な原因がないもの」です。

2.加齢性難聴の頻度

加齢性難聴は誰でも起こる可能性があります。
一般的に50歳頃から始まり、65歳を超えると急に増加するといわれています。その頻度は、60歳代前半では5~10人に1人、60歳代後半では3人に1人、75歳以上になると7割以上との報告もあります。

 

3.加齢性難聴のセルフチェック

高齢者の場合、会話中にしばしば聞き返す程度であれば、聴力は年齢相応つまり正常と判断されますが、テレビやラジオの音が大きいと家族などから指摘される場合は、難聴の可能性があります。

 

また、銀行や病院などで名前を聞き逃してしまうことが多い場合には中等度の難聴、目の前の電話の着信音が聞き取れない場合には高度の難聴であると考えられます。

軽度の難聴であっても日常生活の聞き取りで困るようなことがある場合は、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。軽度難聴でも人の話が聞き取れないことがありますが、そのことが原因で人との会話が臆病になってしまい、その状況が続くと認知症に進んでしまうといった報告もあります。

 

下のグラフは、縦軸に「音の強弱」、横軸に「音の高低」をとったものです。黄色で示されている20歳代の場合は、音が小さくても、低い音・高い音をどちらも十分に聞き取れていることがわかります。しかし、50歳代になると高い音が聞こえにくくなってきて、70歳代では音が大きくても高い音が聞こえにくくなってきます。

 

 

加齢性難聴の原因と症状

1.耳の構造と、音が聞こえる仕組み

外部からの音は、空気の振動として耳に届きます。

空気の振動は、先ず、耳介(じかい)(一般に「耳」と呼ばれている部分)で集められ、外耳道(がいじどう)を通り、鼓膜(こまく)に伝えられます。耳介と外耳道を合わせて「外耳(がいじ)」と呼びます。耳が、目や鼻に比べて、大きいのは、この空気の振動を効率的に受け止めるためです。

耳の後ろに手のひらを広げると音がよく聞こえるのは、より多くの空気の振動が、広げられた手のひらによって集められるからです。

 

その後、集められた空気の振動は中耳(ちゅうじ)の鼓膜に伝えられ、鼓膜が振動します。その振動は耳小骨(じしょうこつ)という鼓膜につながった三つの小さな骨で増幅されます。ちょうど、ステレオでいうアンプに相当します。

そして、鼓膜の奥の内耳(ないじ)の一部である蝸牛(かぎゅう)が、振動として伝えられた音の情報を電気信号に変えて、蝸牛神経を介して脳に伝えます。蝸牛とは、形がカタツムリに似ているのでその名前が付いています。

蝸牛神経からの電気信号を受け取った脳は、空気の“揺れ” だった振動を、音として認識します。

このように、音は、外耳、中耳、内耳、蝸牛神経、大脳が連携することで聞こえるのです。

 

 

有毛細胞が障害されることで難聴が起こる

加齢性難聴は、有毛細胞が障害されることで難聴が起こります。

有毛細胞は、内耳の蝸牛内部にあります。「感覚毛」と呼ばれる細い毛のような束をもっている細胞で、音を感受する役割をしています。片耳に約15,000個並んでおり、内側の1列が内有毛細胞(約4千個)、外側の3列は外有毛細胞(約1万2千個)で、各細胞が特定の高さ(周波数)の音波に対応しています。

有毛細胞は、正常な状態では整然と並んでいますが、加齢や騒音などの影響で傷つくと壊れてなくなっていきます。つまり再生することはないのです。加齢性難聴が治りにくいとされる理由は、そのためです。加齢性難聴の場合、通常は両方の耳が聞こえにくくなるのが特徴です。

片方の聴力だけが落ちるのは、たとえば突発性難聴でみられます。

 

 

 

加齢性難聴による影響

聞こえにくいことを、年のせいだからと、放っておかないほうがよいでしょう。外出先で周りの音が聞こえないために事故などに遭いやすかったり、災害を知らせる警報に気がつかなかったりするといった危険があるからです。

 

また先に触れたように、難聴が続くと認知症リスクが高まるといった報告もあります。

 

加齢性難聴が認知症の引き金に

下のグラフは、65歳以上の方を対象に行った認知症テストの結果です。

 

縦軸はテストの結果(認知能力)を表しています。難聴があっても補聴器を使っている方は、認知症テストの結果が悪くなかったのですが、難聴があって補聴器を使っていない方は、明らかに認知症テストの結果が悪かったという結果が出ています。
加齢性難聴に早期から対応することは、認知症の予防にもつながると考えられます。

 

 

加齢性難聴の予防

加齢性難聴は、加齢とともに誰でも起こる可能性があります。

加齢性難聴を悪化させる原因として、糖尿病、高血圧、脂質異常症、動脈硬化、喫煙、過度な飲酒、騒音などがあります。

 

糖尿病があると加齢性難聴を悪化させることが、全国規模の疫学調査であきらかになっています。

糖尿病の人は、聴力障害の発症リスクが最大で約3倍に増加するという新しい知見が発表されました。糖尿病の人に聴覚障害が多い理由は、加齢の影響だけでなく、血糖コントロールが不良であると、全身の血管や神経の損傷が引き起こされることによって説明できるとされます。

また、成人の糖尿病患者には難聴が多いといった報告もあります。糖尿病の人は、そうでない人に比べて難聴になる危険性が2倍高く、また糖尿病予備軍の人は、難聴になる危険性が30%以上高いとの報告もありました。

 

動脈硬化や高血圧などの生活習慣病があると、内耳や脳の血流が悪くなって、聞こえの機能に悪影響を及ぼすとされています。喫煙やアルコールのとり過ぎは、動脈硬化や高血圧の悪化に深く関係するので、特に注意が必要です。これらの原因を取り除くことが、加齢性難聴の予防になります。
また、環境を整えることも大切です。騒音などは体の中に「酸化ストレス」を増加させ、正常な細胞の組織を壊してしまうため、難聴が起きやすくなるといわれています。

 

加齢性難聴の検査と治療・対応

聞こえが悪くなったら耳鼻咽喉科を受診して、問診と聴力検査を受けてみてください。
問診では日常生活での聞こえの状態が確認されます。また、加齢性難聴は高い音が聞き取りにくくなるため、聴力検査では高い音がどれくらい聞こえるかが調べられます。高い音が聞こえないときは、加齢性難聴が始まっている可能性があります。

 

加齢性難聴には、根本的な治療法がありません。
加齢性難聴と診断されたら、補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科を受診し、医師の指導のもと、連携している認定補聴器技能者がいる販売店で、自分に合った補聴器を選ぶことが大切といえます。
なお加齢性難聴と診断されて補聴器を使用しているのに、聞こえがどんどん悪くなる場合は、遺伝性難聴という他の病気である可能性があります。

 

 

補聴器と集音器

ところで補聴器というと、下図のイメージがあると思います。左は機器、右は装着写真です。

 

難聴に対して聞こえやすくする機器には、補聴器のほかに集音器というものがあります。

下図が、集音器の画像です。同じく左が機器で、右が装着写真です。

 

 

こうして並べてみると、補聴器と集音器の区別はつきません。

さらに機器には、オシャレなデザインの製品が相次いで出てきています。

 

左が補聴器で、右が集音器です。

やはり並べてみたところで、区別がつきません。

 

補聴器と集音器は、なにが違うのでしょう。

下の表をみると差異がわかります。補聴器は医療機器であり、集音器は音響機器なのです。

けれども機能はとてもよく似ています。

 

《補聴器と集音器》

補聴器 集音器
  機器としての位置づけ   管理医療機器

・販売には厚生労働省令で定められた届け出が必要

・聴力低下のある方のみ使用できる

音響機器

・販売に制限がなく、家電量販店や通信販売で手軽に購入できる

・聴力に関わらず誰でも購入・使用できる

  期待できる効果 ・難聴の種類・程度に応じて調整し、正しい聞こえの状態にする

・耳鳴りを軽減させる

(耳鳴り治療には医師の指導が必用)

・耳に入る音を大きくする
  販売方法 ・補聴器専門店にて対面販売が基本である為、来店が必要になる事が多い

・聞こえに満足するまで繰り返し調整の必要があり、効果を実感できるまで練習期間が必要

・家電量販店や通信販売で気軽に購入する事ができる反面、聴力に合わせた調整ができない。

・既製品の老眼鏡に近いイメージ

  価格 ・低価格品は50,000円~

・普及価格帯は100,000円~200,000円

・300,000円以上の機種も少なくない

・数千円~50,000円程度で購入が可能

 

 

加齢性難聴では、内耳だけの影響以上に言葉の聞き取りが低下していることがあります。また、周辺の騒音による影響や話速の影響も同じ程度の難聴に比べるとより大きい場合が見られます。

特に話すスピードのコントロールは補聴器だけでは困難なため、周囲からの協力が欠かせません。足腰の弱った方と一緒に歩くとき、その速度に合わせることと同じように、難聴のある方の聞きにくさに より沿った対応(ゆっくりしゃべる・はっきりしゃべる)を周囲がこころがけることも大切です。

 

すでにお伝えしたとおり、加齢性難聴が進行すると認知機能が低下するリスクがあるほか、うつ病の発症や、生命予後など長期的な健康状態の悪化と関連していることが知られています。

現在、薬物などによって加齢性難聴を予防・改善させることが証明されている治療法はありません。ですから少なくとも現時点では、加齢性難聴の存在が、その後の音声コミュニケーション機能の低下や、社会的孤立、あるいは認知機能の低下につながらないようにすることが最も大切な治療・予防方針であるといえます。

 

「年をとって見えなくなったらメガネをかける。聞こえにくくなったら、聞こえやすくなる機器をつければいいじゃないか」といったCMがあったような気がします。そのとおりだと思います。

かつての集音器は雑音まですべて拾ってしまったため、装着しても人の声が聞きづらいといった難点がありました。しかし現代ニッポンの音響機器メーカーは、高音域の集音に絞り込んだ秀品を生み出しています。しかも容器は、収納と同時に充電機能があるため、耳から外して収納すれば、そこから充電が始まるといった優れものも発売されています。

ともあれ補聴器や集音器を装着することで、より良い聞こえを確保し、より豊かな健康寿命を楽しめる環境を整えることが大事だといえます。

 

 

 

 

《参考資料》

「50歳を過ぎたら要注意!加齢性難聴 耳が遠くなる原因とは」(NHK健康チャンネル 2021年6月23日)

「加齢性難聴を防ぐには?検査と予防法・治療法について」(NHK健康チャンネル 2022年5月14日)

「加齢性難聴」(病気スコープ 2022/08/10)

「音が聞こえる仕組み 鼓膜ナビ」(ノーベルファーマ)

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