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浜辺の診療室から

ヒューマンエラーと安全文化
インシデントとアクシデントって、
おかしくありません?

  • 介護・医療・福祉の現場から
  • 働き方(労働衛生)

9月1日は防災の日。

制定の歴史は古く、1960年(昭和35年)にさかのぼります。

“災害”の定義は、

「自然現象や人為的な原因によって、人命や社会生活に被害が生じる事態」。

定義に従えば、医療事故も災害であることがわかります。

医療事故の件数が、年々増えています。

事故そのものも増えているのでしょうが、それとは別に、

きちんと報告する習慣が根づいてきたということでしょう。

 

 

わたしたちの施設でも、事故に関する報告と、事後検討を重ねています。

幸いにして大きな事故はありませんが、

ヒューマンエラーによる事例が散見されます。

たとえば棚卸しをして院内薬局に備えてある薬剤量が合わなかったとき、

Aはなぜ10錠足りないのか、Bはどうして15錠多くあるのかを分析したら、

「……だと思い込んでいた」というパターンがありました。

 

本来好ましくない行為が生じた(既遂)ときは「事故」として扱い、

手前で踏みとどまったものの実は危なかった! という未遂を

「ヒヤリ・ハット」として処理しています。

患者や従業員に実害が出なくても、既遂はす・べ・て「事故」として扱う――。

この点が、日本の医療・介護エリアで展開されている事故報告と異なっています。

別に当院が独自というわけではありません。

製造業を主体とした安全衛生活動の“線引き”に従っているまでです。

 

 

医療・介護・福祉業界で展開されている安全活動の多くは、

通常から外れた行為により “起きてしまったことの結果”を、

アクシデントとインシデントという2つに色分けしています。

生じた結果が、あるレベルから上(重症)であれば事故(アクシデント)と呼び、

それより下(軽症)なら、未遂も含めてインシデントと呼んでいるようです。

それを知ったとき、最初はえっ? と思いましたが、

医療の分野では、インシデントとアクシデントが以下のように定義されており、

介護エリアでも、この定義がそのまま適合されているのです。

 

インシデント(偶発事象)とは、

医療行為によって患者さんやご家族に障害もしくは不利益を及ぼさないもので、

『ヒヤリ』としたり『ハット』したりしたものをいいます。
アクシデント(医療事故)とは、

医療行為によって患者さんやご家族に障害もしくは不利益を及ぼしたものをいいます。

インシデントかアクシデントかの違いは、

患者さんに実害があったかどうかが、分かれ目になってきます。

 

既遂(した)と、未遂(していない)という行為による線引きではなく、

どの程度の不利益が生じたかという結果を考慮して分類している点が、

他業界の《線引き》と異なっています。

たとえば医療・介護・福祉業界がいう「軽症(インシデント)」には、

「まちがったことが行われたが、患者には影響や変化がなかった」が含まれます。

これは他の業界であれば、事故(アクシデント)として扱われます。

生じた結果の重い、軽いは問わず、起きてしまったよからぬことはすべて事故である

との見方があるからです。

 

 

当診療所が事故報告書の“標準”にこだわるのは、

ひとえに安全文化と取り組んできた歴史のちがいと、

業務によって人を死なせてはならないと事故防止に関わってきた人たちの真剣さを、

医療・介護・福祉業界と、その他の業界のあいだに認めるからです。

 

本気で再発防止に取り組むのであれば、結果による線引きには意味がなく、

行われた「行為」そのものをジャッジしたほうが妥当であると考えています。

同じような勘違いで、薬Aが患者1に、また薬Bが患者2に投与されたとき、

Aは胃腸薬だったから患者1はたいしたことなく、

Bは抗不整脈薬だったから患者2は大変なことになったという場合、

結果による線引きは、どれほど意味があるのでしょう。

 

 

人は同じような過ちを繰り返し犯すのですから、

誰がしたかは問題になりません。

過ちがなぜ生じたかを分析すると、

そこには錯覚や思い込みが大抵あります。

行為の背後に潜んでいた心理を分析して

ヒューマンエラーを減らすことが事故の再発防止につながると

わたしたちは考えています。

五重塔は、上から見下ろしているように見える人と、下から見上げているように見える人がいる。

目次

生をめぐる雑文

心療内科

働き方(労働衛生)

高齢者の終末期

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