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浜辺の診療室から

長いスプーンの話と、利他主義

  • 生をめぐる雑文

こんな寓話があります。

 薄暗い部屋の中央には大きな円卓があり、そこには香り豊かなごちそうが並んでいる。

 円卓と一定の距離を置いて囲んで座っている人々は皆、

 とてつもなく柄の長いスプーンを利き手に持っており、

 反対の手は椅子に固定されている。

 それが食卓でのルールであるらしい。

 しかしよくみると、人々は一様にやせ細り、

 飢えて絶望的な表情を浮かべている。

 なぜなら料理をスプーンに乗せることはできても、

 それを口に入れることができないから。

 そればかりか、

 「おまえのスプーンが邪魔して、オレが取れないじゃないか」

 「おまえは、あちらこちらこぼすばかりじゃないか」

 といった罵声まで飛び交っている――。

 

 一方で、別の明るい部屋の中央にも大きな円卓があり、香り豊かなごちそうが並んでいる。

 円卓と一定の距離を置いて囲んで座っている人々は皆、

 とてつもなく柄の長いスプーンを持っており、

 反対の手は椅子に固定されている。

 けれども人々は一様に満足そうで ふっくらしており、

 笑みさえ浮かべて表情はとても豊か。

 こちらの円卓では「お先にどうぞ」といって、

 Aさんが  遠く離れたBさんの口に長いスプーンでごちそうを運んでいる。

 するとBさんが「ありがとうございました。お先にいただきました」といって、

 今度は自分の長いスプーンに乗せたごちそうをAさんの口元に運んでいる。

 そうした光景が、あちらでもこちらでもみられる。

 薄暗い部屋は 地獄という名札のついた部屋で、

 明るい部屋には、極楽という名札がついている――。

 

 

ほぼ同じ筋書きの話は、世界中にあるようです。

オレがオレがという利己主義は結局、本人に利をもたらさず、

自分のことはさておき他者の不利益を救う利他主義の姿勢が、

結局は自分の利にも関係してくることを教え諭す寓話です。

ダンテやトルストイが説いたとする記述もありますが、

ユダヤ教の古い説話が原典のようです。

東洋でも似たような話があって、スプーンが箸に置き換わっています。

こちらは山田無文老師の法話集から広まったとの説があります。

ともあれそっくり同じ話が、説話や法話となって世界中を飛び交うあたり、

この話の吸引力や説得力のすごさを感じます。

 

 

著書『21世紀の歴史』のなかで、

アメリカの衰退と民族紛争の激化の後に訪れるのは、

利他主義に支えられた社会であると予言しているのは、フランスのジャック・アタリ。

この本は2006年に書かれ、日本では2008年に発刊されています。

21世紀が五分の一終わった現在は、

来たる極楽社会に続く、産みの苦しみのような時間帯なのでしょうか。

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働き方(労働衛生)

高齢者の終末期

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