心気症
病気があるはずとの確信が消せない……
- 心療内科
体調が思わしくないので総合病院で診てもらったり、気になる症状が出てきたので検査を受ける行為は日常的によくあることです。その結果、なんらかの病名がつけば、治療が開始されるでしょう。
ところが検査して異常がみつからなかったことに納得がいかず、気になる症状を訴え続ける場合は、心療内科を受診してみてはいかがですか? と担当した医師から勧められることがあります。
じじつ、そうした理由で来院されたケースが何件かありました。
多くは神経症や抑うつ状態、自律神経失調症などの病名がついたのですが、なかには話を聞いているうち、心気症かもしれないと思われる例がありました。
どこにも異常はないと医師からいわれても、そんなはずはないとまた別の医療機関を受診する。そうしているうち強い不安や苦痛を感ずるようになったり、そのために日常生活に支障をきたすようになる病態は心気症と呼ばれます。
心気症は男性より女性のほうが多くみられ、病気不安症と呼ばれることもあります。
症状 よくある訴え
症状や訴えとしては、さまざまなものがあります。不定愁訴といって、客観的には状態や病態がとらえにくい訴えであることもよくあり、たとえば肩や背中のあたりがもやもやする、頭の横が張った感じがする、なんとなく不調といった表現に代表されます。
一方で、動悸、発汗、微熱、痛みといった具体的に想像しやすい症状を訴える例もあります。これらは自律神経失調症や更年期障害、過緊張などでもみられるのですが、「もっと別の身体的な疾患があるはず」と信じて疑わない姿勢が、心気症の特徴です。
原因
心気症になりやすい素因として、細かいことにとらわれやすい性格や、抑うつ気分や不安障害が共存している場合が知られています。また多忙な時間を送っていたり、心労が募って正しい判断ができなくなりつつような例も、心気症を誘発します。
一方、広汎性発達障害の方の一部で、心気症の症状がみられる場合もあります。
心気症は健康への不安が高まり過ぎてしまうことにより、自分の身体にみられる一時的な症状を常に意識し、終始それにとらわれてしまっている状態ですから、気になる症状に頭が占拠されている状態ともいえます。集中力が欠如しがちなため、日ごろからちょっとしたことを忘れやすく、家族から もの忘れ病(認知症)と思われていたケースもありました。
診断
心気症を積極的に診断する方法はありません。可能性のある部分を一つひとつ消去して隠れた部分をあぶりだす除外診断と、症状を訴え続ける姿勢を見定める行為が診断につながります。そのため内科的な諸検査は、あらゆる可能性のある疾患を否定する目的から、ひととおり行われるのが常です。
諸検査の結果、異常がみられないなら心気症と診断される可能性が出てきます。身体に異常がなく、心配には及ばないとの説明を受けても納得できずに医療機関を次々と受診する行為がみられたり(ドクターショッピングといわれます)、インターネットや本などで病気について執拗に調べたあげく「病気が潜んでいるにちがいない」と妄信する姿勢があれば、心気症と診断されます。
治療など
心気症が疑われる家族がいる場合、心療内科や精神科の受診をご本人に勧めても、まず拒否されます。そんなとき「あなたは異常だ」と断定的にいう姿勢は逆効果になります。患者さんの気持ちや訴えに寄り添いつつ、気分が少しでも楽になる方法として受診を勧めるといった方法がよいでしょう。
治療としてはカウンセリングのほか、薬物療法(精神安定剤や抗うつ剤など)が用いられます。
しかし治療抵抗性で、心気妄想がみられる場合は抗精神病薬が必要になってきます。