自然現象としての老衰
(救命現場から 第8回)
- 高齢者の終末期
終末期を迎えた方の対応やケアについては、医療現場でも施設でも、家族に対してインフォームド・コンセントが行われます。カタカナ語の邦訳は「説明と同意」であったり、「十分な情報を伝えた上での合意」であったりします。この用語が紹介されるようになったのは1990年代ですが、説明や情報とは何かが、現在でも問われることがあります。
施設で多くみられる終末期では、がんのある・なしにかかわらず、“老衰”がキーワードになります。ところが老衰の説明は、なかなか難しいといえます。少なくとも臨床医学に基づいた説明だけでは完結しません。なぜなら老衰は、臨床医学で扱う病態でなく、加齢に伴う“自然現象”つまり生理的事象だからです。病理的なできごとは臨床医学の守備範囲ですが、生理的な変化は、生理学や解剖学、生化学などの基礎医学で扱われます。
自宅で高齢者の心肺停止状態が見つかったとき、現代では大半が異状死として扱われてしまうとの指摘があります。加えて、老衰が進んだため家族はムリな延命治療を希望せず、「自然のまま」でと願っていたにもかかわらず、いつのまにか救急車で医療機関に搬送され、死亡したあと解剖に回るような例は、相当数あることがわかりました。
そのようなことにならないよう、あるいはどうしても最後は病院でお願いしたいと希望するご家族に対しても、十分な情報提供と説明が必要なのです。
説明しておきたい要素は、老衰のメカニズムや現象論にとどまらず、自宅や施設内での看取り、救急搬送、心肺停止と死亡、死亡診断書と死因、解剖などがあります。
ご家族から出された結論に対して、医療関係者や介護・看護・福祉関係者は、厳かに粛々と従うことになります。