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浜辺の診療室から

幼くして親なきを孤と言い
老いて子なきを独と言う ……孤独

  • 生をめぐる雑文

除夜の鐘まで、あと数時間。

大半の人というより、

すべての人にとって

かつて経験したことのない1年が過ぎようとしています。

疫病の歴史に限らず、

歴史そのものの重みを感じながらの1年だったように思います。

 

特養という高齢者施設を抱える立場上、

今年も何枚かの死亡診断書を書きました。

子どもさんがいる方、お孫さんまでいる方、

連れ合いがいる方、反対に失って独り身の方、

親戚筋の人はいるが疎遠な方、

兄弟姉妹はおらず、いつからか天涯孤独の方……。

 

死亡診断書には直接死因やその原因のほか、

死因の傷病経過に影響を及ぼした傷病名を書く欄があります。

カルテを紐解くと、これまでの病歴に加え、

家族歴や生活歴が記録されています。

ひとりの人間の最期に立ち会うと、

長い道のりを歩まれた歴史の重みを改めて感じます。

 

 

幼くして親なきを孤と言い、老いて子なきを独と言う――

これは高橋和巳の小説にある一節ですが、

原典は孟子の「梁惠王下」。

記されている鰥寡孤独(かんかこどく)に、次のような説明があります。

鰥(かん)とは、年老いて妻のない男性。

寡(か)とは、年老いて夫のない女性。

孤(こ)とは、幼くして親のない子。

独(どく)とは、年老いて子のない人。

 

そのあとに続く内容が優れています。

 此の四者は天下の窮民にして告ぐる無き者なり。

 周の文王は政を発して仁を施すに必ず斯の四者を先とす。

 

この4者はもっとも困っている身寄りのない方々であるから、

文王が政治を行うにあたっては、こうした人々を救うことを最優先する

という意味です。

 

 

ときの中国だけでなく、

日本でも天長10年(西暦833年)に、

淳和天皇による『令義解』(律令の解説書)が出されました。

弱者に対する政治的解説は、以下のとおりです。

鰥寡孤独に該当する人たちのうち、

・ 生活が困窮する人に対しては、三親等以内の者に対して扶養義務を課する。

・ それが不可能な例については、地域で面倒をみる。

・ 賑給(支給)に際しては、高齢者とともに鰥寡孤独を支給の優先対象とする。

 

1100年以上も前の、しかもニッポンの話という点に驚きます。

 

 

 

歴史が刻まれていくなかで、あなたは

思いやりや救済へのまなざしは、少しも変わっていないと感じますか?

それとも、すっかり変わってしまったと感じますか?

 

ともあれ来年は、

生活に窮する人がひとりでも減りますよう

一人ひとりが笑って過ごせますよう

豊かな社会が戻りますよう

ムダな争いや戦いがなくなりますよう

祈りつつ

2020年の幕を降ろすことにします。

目次

生をめぐる雑文

新型コロナウイルス感染症

老いるということ

認知症

高齢者の終末期

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