やさしく正しい言葉づかいについて
- 介護・医療・福祉の現場から
これ、解けますか? 正解は何? と問われたことが先日ありました。
問題文の画像を見て、よく読んで、よーく読み返してみたのですが、……解けませんでした。
小学2年生の算数とのこと。以下が、その問題と紹介記事です。
プリンは何個のいくつ分? 小学2年の算数問題で大人たちが大混乱の謎
この問題はいったいどういう意味なんだ? Twitterに投稿された小学校2年生の算数問題に、多くの大人が混乱を表明している。(文:昼間たかし)2021年12月21日 11時11分キャリコネ
ツイッターに投稿された問題はこういうものだ。
問題文には、プリン4個の絵が描かれている。そして「プリンぜんぶの数は何このいくつ分ですか。」という問いかけがある。回答欄は「( )の( )つ分」となっている。
ツイート主の娘は「4の4つ分」と解答し、先生からバツを貰ったそうだが、大人がこの問題を見れば「ははあ、掛け算だな」というところまでは気づくだろう。
ただ、プリン4個の絵を見せられて、最初に「何こ」と聞かれれば、反射的に「4個」と答えてしまうのではないか。ところが、それだと後半の「( )つ分」が意味不明になってしまう。
そうすると……。いったい、どう答えるのが正解なのか。
ちなみに、現役の小学校教師にたずねてみたところ、正解は、
「(1個)の(4)つ分」だそうだ。
この教師によると、これは小学2年生のかけ算で、学習指導要領では
「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」の指導
と説明されている。
つまり、これは掛け算の「1?4=4」を教えるための問題なのだが、大人が混乱するのは、正解するための「1個のプリン」が「4つ分ある」などという言い回しを普通しないからだろう。
前述の教師は「こういうケースなら、大人もすんなり正解できるのではないか」と、一皿にキャンディーが2つ乗っている絵を3つ書いて示してくれた。
つまり「お皿一枚に2個ずつ乗ったキャンディー」が「3枚分あるのであれば、キャンディーの数は(2つ)の(3皿分)、つまり、ぜんぶで6個ということだ。
しかし、大勢の大人が混乱していたのに、小学校2年生は大丈夫なのだろうか?
先の教師によると、小学校2年生は授業で、こういう表現をすべしという「お約束」を教えこまれているので、混乱しないはずだという。
この教師は、こんなふうに注意を促していた。
「この問題はまっとうに授業を聞いていれば、すんなりと正しい答えをかけるはずです。それができなかったとしたら、授業を聞いていなかったか、発達に問題があるか……。そういったことを疑ったほうがいいかも知れません」(原文ママ)
正月早々、ビミョーな気持ちになりました。理由は2つ。
最初の理由は、不適切な“翻訳”に翻弄された小学生は少なくないのでは? と感じたこと。
掛け算を教えるための学習指導要領が「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」であるなら、
問題文は「何こ の いくつ分」でなく、
「何こ が いくつ分」または「何こ を いくつ分」にすればよかったと感じました。
また解答欄も、「( こ)が( )つ分」とすべきだったのでしょう。
掛け算を教えたかった、とのことですが、
プリンが4つとか、プリンを4つをいうことはあっても、
プリンの4つとはいわないからです。
わたしもこの問題、いくら読んでもわかりませんでした。
職場の仲間たちにも見てもらいましたが、やはり解答できた者はおらず、
多くの大人の混乱は、ここの部分が理解できなかったようです。
掛け算や算数を日本語で教えるなら、誰にもわかる正しい日本語が必要でしょう。
相手は小学2年生です。
学習指導要領も きちんと翻訳しなければ、意味不明の日本語が展開されることになります。
もうひとつの理由は、現役の小学校教師が最後に語った言葉にあります。
発達障害は、知識が知れ渡るようになったことで該当する人が増えたのは確かでしょうが、
かくも安易に語られることに、少なからぬ抵抗を覚えました。
医療や介護福祉現場でも、誤解しやすい用語や意味不明の言葉づかいが今でも使われています。
たとえば体温をKTと表記する行為。
KTの略さない読み方は、ケルペル・テンペラトゥールとなります。ドイツ語です。
KTは、昭和の病棟で看護婦の共通用語でした。看護学校の教師たちも公認していたのでしょう。
血圧を英語略のBPと書き、体温をドイツ略のKTと書く行為は、介護職場でよく目にします。
平成から令和になっても、この表記は介護福祉エリアに根強く残っているようです。
書き手は介護職員のみならず、看護師も含まれます。
KTのように略語をドイツ語でそろえたいなら、血圧はBDになります。
略さない読み方はブルート・ドゥルックで、
これも昭和の時代、ちょっとオシャレさんの看護主任が使っていました。
けれども時代は変わりました。
医療も介護福祉の現場も、若い人たちが随時入ってきます。
1.文字で残した文章は、大切な内容がもれなく正しく伝わること
2.理由を問われたら、きちんと説明できること
この2つは、技術の伝承をしていく上で、とても大事なことです。
略語を用いるなら、体温はBT、血圧はBP、脈拍数はP、呼吸数はR、酸素飽和度はSATまたはSpO2と英語略でそろえたほうが、何の略ですかと問われたとき説明できます。
すべて医療現場に倣えとはいいませんが、医療用語はかつてのドイツ語から英語を経て、電子カルテ化されたいまは日本語が主流です。ひとりの医療スタッフが書いた内容を共有するためには、やさしく正しい表記のほうがストレスなく読めるからです。
説明できないような化石のごとき略語は、そろそろやめませんか?
ついでにいえば、介護職場には極力避けたほうがよいと思われる用語が、いくつかあります。
たとえば「ヘンショク」や「シッシン」。
変色は、打撲や骨折のときにみられる赤黒い皮下出血を表す用語として目にしたり聞いたりしますが、医療現場では皮下出血に対して変色という表現は使いません。介護エリア独特の表現とみられます。医療現場で変色というときは、色素沈着を起こした褐色部分や、褥瘡(床ずれ)部分の黒味を帯びた皮膚を示すときなどに用います。
ヘンショクの響きは、ある特定の食材を避ける意味での偏食と混同しやすいのです。「ヘンショクがみられました」というと、聞き手は打撲や骨折の外傷か、それとも食事の偏りかを勝手に想像することになり、誤解が生じます。
またシッシンもそうです。一過性に意識がなくなることだけをシッシンと呼んでいる職場なら、問題ありません。シッシン=失神だからです。
しかし皮膚のポツポツを「シッシンがみられるようになりました」と表現しているような職場では、要注意です。聞いた人は、「意識消失が起こるようになったんだ」と思ったり、「皮膚に赤いポツポツが生じているらしい」と思うからです。
皮膚のポツポツは「皮疹(ひしん)」が正しい呼称で、形態を表す医学用語です。
皮疹を調べてもらって、接触性皮膚炎や急性湿疹、慢性湿疹、ウイルス感染症、毛嚢炎などの病名(診断)がつくことになります。