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浜辺の診療室から

延命はイヤ! 自然経過を希望が91.1%

  • 高齢者の終末期

NHKの朝番組で

「延命治療はいや! そのとき家族は」が放映されたのは、2016年の6月のこと。

10月になって、またこの番組がNHKで取り上げられました。

データベースは、平成24年に内閣府が行った「高齢者の健康に関する意識調査」で、

結論は、以下のとおりでした。

 

 高齢者の延命治療の希望についてみると、

 65歳以上で「少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」

 と回答した人の割合は4.7%と少なく、

 一方で「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」

 と回答した人の割合は91.1%と9割を超えた。

 

 

しかし、こうした調査結果を受けて、NHKのみならず医療関係者も、

「ところが現実はというと……」と、絶望的な意見を述べていました。

たとえば、

「自分の希望通りの方法で死を迎えることができるのは、わずか数%しかいません。

とても残念ですが、これが今の日本の現実です」

とする意見です。

 

内閣府データの図「延命治療に対する考え方」をみると、

「少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」と希望する高齢者(65歳以上の男女)は、

平成14年に9.2%だったのが、平成19年は7.4%、平成24年では4.7%と、大きく減っていました。

実際に高齢者が亡くなっている場所は、病院77.8%、自宅12.9%、施設(老人ホームなど介護施設)7.2%とのことでした。

自宅には、高齢者専用住宅(賃貸・分譲)が含まれます。

また自分の希望どおりの方法で死を迎えることができた人は、

自宅(12.9%)と施設(7.2%)を合わせて20.1%ですから、

2割の人たちは、“希望どおりの最期”を迎えられたことになります。

 

 

10年のあいだに高齢者の延命希望者は大きく減っているわけですが、

自然な死を迎えることができる人は、これから増えていくとみてよいのでしょうか?

介護や医療現場や家族の“実情”は、ほとんど変わらないまま行くのではないか、

ウチだけは延命希望でとか、わたしたちの施設は従来のままでいいとする意見が、

根強く残っていくような気がしています。

 

ちなみに配置医として関わっている特養シーサイド湯河原と特養心花春は

自然に任せた最期が9割以上ですから、施設としては責任を果たしていると感じています。

また医療が必要となった例も、9割近くは施設内対応で乗り切れています。

高齢者は入院という環境変化だけでせん妄を起こすため、

可能であれば、慣れた環境に居ながらの治療がベストなのです。

けれども、そうした状態になるためまでには、数年の時間を要しました――。

 

 

 

“自然に任せた最期”を2つの特養で積極的に展開しようと舵を切ったとき、

当初はかなりの混乱がありました。

たとえば、意識レベルの低下があっても看取りの人だから調べなくてもよいとする意見や、

食べなくなった超高齢者に血圧低下などの“急変”が起きたら迷わず救急搬送するといった考えが、

すっかり定着していたからです。

昭和的とも呼べるこうした考えは法人開設以降、疑いもなく根づいていたようで、

確信に近いほどの印象を受けました。

 

意識レベルの低下は感染症、心不全の悪化による電解質異常、非けいれん性てんかん重責、血糖異常などで起きてきます。終末期でなければ、これらは治療に反応する例が大半です。けれども初期変化を静観していればバランスは徐々に、しかし確実に崩れていきます。

また超高齢者が食べなくなったときの血圧低下や体温低下は、急変とは呼びません。天候が急変したとのたとえでもわかるように、急変とは、それまでとは異なる状態が比較的短時間でみられる場合を言います。

 

ともあれ身体に変調をきたした超高齢者を次々と病院へと送ってしまえば施設で看取ることはできません。あらゆる管が付けられたスパゲッティ症候群と呼ばれる状態になっても、破綻した恒常性ともろさから大半はほどなくして病院で亡くなるため、施設には戻ってこないのです。

 

最期は看取り希望者であっても、自然の経過にすべて任せるのは終末期に限られる。つまり施設生活をしているときによからぬ変化が起きたら急変であるから、直ちに調べて医療につなげる。

終末期に食べなくなるのは自然現象だから、そののちの意識レベル低下や血圧低下は自然なこと。

その状態を急変と呼んで病院に送り込む行為は不適切である。

 

 

こうした考えがスタッフ全員に浸透していかない限り、終末期の看取りはいつまで経ってもできません。現在の状態になるまでに長い時間を要したわけは、意識改革と実践が必要だった点にあります。

具体的には早期発見・早期対応のトレーニング、老衰と判断する根拠を共有することに加え、

終末期に対する説明をわかりやすく家族にするトレーニングを、繰り返し行ってきました。

 

 

ともあれ寿命による終末期を施設で迎えていただくためには、

医療サポートはもちろん、施設の熱意と実力が問われます。

スタッフが一丸となって努力を重ねる理由は、

国民の意向91.1%に少しでも近づきたいためでもあります。

 

「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」

との願いに沿った看取りは施設だけでなく、自宅環境でも

少しずつでしょうが、広がりをみせていくことを願います。

目次

生をめぐる雑文

新型コロナウイルス感染症

老いるということ

認知症

高齢者の終末期

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