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浜辺の診療室から

認知症は進行するばかりで、一度発症したら治らないと聞きました。それでも治療する意味はあるのでしょうか?

認知症を治療する目的や意味は、少なくとも2つあります。
ひとつは軽度の段階にある人をみつけ、発症を遅らせる治療や対症療法を開始することです。
もうひとつは、初期~中期にかけてみられる付帯症状(周辺症状やBPSDと呼ばれます)をコントロールすることで、負担を減らすことです。本人の負担もさることながら、家族や近隣住民といった周囲にいる人たちの負担を減らすことに意味があるのです。

それができないと家族や近隣住民の精神的・肉体的疲労が募り、やがては認知症患者と距離を置くようになります。じゃま者扱いされるようになった患者は、もとより自活が困難な状態でしたから、ますます孤立していきます。

 

時間の流れが遅く、周囲もあくせくしないような生きかたをしている地域では、もの忘れが進んだ認知症患者でもゆったり生きられるといいます。きびしく非難することなく、叱責せず、凹まさない環境がいかに大事かを認識させられるエピソードです。

 

当診療所では、軽度の段階にある人から中期に進行している人に対応いたします。
隣接する特養シーサイド湯河原では、中期から高度に進んでしまった人の対応をしています。

 

 

追記事項)

認知症の方にしばしば用いられる薬に、抗認知症薬があります。アリセプトやメマリーといった名前を聞いたことがある方も少なくないと思います。

日本ではおなじみの薬ですが、フランスではすでに保険適応外(全額自己負担)になっています。新聞記事を読むと、自己負担になった経緯がわかります。

 

認知症の治療に日本でも使われている4種類の薬が、フランスで8月から医療保険の適用対象から外されることになった。副作用の割に効果が高くなく、薬の有用性が不十分だと当局が判断した。
日本で適用対象から外される動きはないが、効果の限界を指摘する声は国内でもあり、論議を呼びそうだ。

仏連帯・保健省の発表によると、対象はドネペジル(日本での商品名アリセプト)、ガランタミン(同レミニール)、リバスチグミン(同イクセロン、リバスタッチ)、メマンチン(同メマリー)。アルツハイマー型認知症の治療薬として、これまで薬剤費の15%が保険で支払われていたが、8月からは全額が自己負担になる。(以下略) 2018年6月23日 朝日新聞

 

 

これらの薬剤の添付文書には、以下の内容が記されています。

いずれの薬剤の効能効果にも「進行を抑制するという成績は得られていない」「有効性は確認されていない」といった文言があります。

 

《効能効果》

1.アリセプト(ドネペジル)

効能又は効果) 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制

・本剤がアルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない。

・アルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症以外の認知症性疾患において本剤の有効性は確認されていない。

 

2.レミニール(ガランタミン)、メマンチン(メマリー)、イクセロンパッチ・リバスタッチ(リバスチグミン)は、いずれも以下の共通文書。

効能又は効果) 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制

・本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない。

・アルツハイマー型認知症以外の認知症性疾患において本剤の有効性は確認されていない。

 

 

ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンはアセチルコリンを増やすよう働きますから、過剰になると易怒性、不眠、手の震えなどパーキンソン症状がみられるようになります。たとえばアリセプト(ドネペジル)はアクセル系に属する薬なので、活気が落ちていたり言葉数が減ってきた例に効果を示すことがあります。しかし攻撃的で、易怒性の高い例に投与すると、火に油を注ぐようなことになり混乱が起きます。認知症の方は、ときに興奮ぎみだったり、逆に意気消沈した状態だったりします。症状は、あるところからプラスがマイナスになり、またマイナスがプラスに転ずることもあるため、投与したあとの こまめな観察が必要になります。

 

またレビー小体病(レビー小体型認知症)は薬剤感受性が高いため、通常量のアリセプトを投与することは稀です。

難しいのは、当初アルツハイマー型認知症と診断されていた人が、あるときからレビー小体病と病名が変わるケースがあることや、周辺症状(BPSD)が強く周囲が対応に追われる時期は、症状が不安定であることから、薬の評価がしづらい点が挙げられます。

ですからこれらの薬剤をどういった人にどう用いるかは、医師の判断や裁量にかかってきます。

 

認知症と診断されて抗認知症薬を服用するようになってから傾眠がみられ、頭にモヤがかかったようだと来院されたケースがありました。もの忘れチェック(長谷川式簡易知能評価スケール)にて年齢相応と思われたので、抗認知症薬を中止したもらったところ、傾眠が消えて活気が出て通常生活が送れるようになりました。

こうした混乱がまだまだみられるのが現状であり、初期認知症対応の難しいところです。

 

 

目次

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