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浜辺の診療室から

高齢者に対する肺炎球菌ワクチンは2種類あると聞きました。
どちらも必要ですか?

ひとことでいうと……

肺炎球菌ワクチンは1988年に登場し、テレビ広報CMでもおなじみになったワクチン(ニューモバックスNP)と、2014年から65歳以上の高齢者にも保険適用となったワクチン(プレベナー13)があります。

ニューモバックスNPワクチンを接種した場合、その効果は年々薄れていきます。
ですから効果が期待できなくなるとされる4~5年ごとに、追加接種する必要があります。

 

一方のプレベナー13は、1回の接種のみで効果が持続します。

2020年5月29日には、プレベナー13が適応拡大となり「全年齢の肺炎球菌による罹患リスクが高いと考えられる者」への接種が可能となりました。肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高い者とは、慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患又は腎疾患、糖尿病などを持つ人を指します。

 

 

 

それぞれの特徴や、併用効果など

2つのワクチンについての製品詳細は割愛しますが、ニューモバックスNPは「肺炎球菌のタンパク成分を含まない」不活化ワクチンで、外膜(莢膜:しょうまく)の抗原性により95種以上に分類される肺炎球菌の23タイプをカバーしています。実施方法は、インフルエンザワクチンのように皮下注射または筋肉注射です。

一方のプレベナー13は「肺炎球菌のタンパク成分を含む」不活化ワクチンで、13タイプをカバーしています。このためニューモバックスNPは免疫細胞であるB細胞のみが活性化されるため免疫記憶までは期待できません。一方、プレベナー13はカバーできるタイプこそ少ないものの、免疫細胞のT細胞、B細胞の双方が活性化されるため免疫記憶が成立します。

つまりプレベナー13は、実際に肺炎球菌の感染を受けたとき迅速な対応が期待できます。実施方法は、コロナワクチンのように筋肉注射です。

 

ニューモバックスNPとプレベナー13は、時期をずらして併用すると予防効果が高まることが期待されます。理由は、両方のワクチンに共通している血清型の抗体の効果が高まる(ブースター効果)点にあります。欧米のデータによれば、効果発現は両ワクチンを6ヶ月〜4年以内の間隔で接種することにより得られるようです。

なお日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会は、ニューモバックスNPとプレベナー13の併用については日本人を対象としたデータが少ないため、高齢者ではまず助成制度のあるニューモバックスNPの定期接種制度の利用を推奨しています。

 

ニューモバックスNP(PPSV23)とプレベナー13(PCV13)を併用する場合、実施する間隔は、欧米での臨床治験の結果をもとにして決められています。日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会は、米国CDCの勧告を参考として下図のような推奨をしています。

 

PPSV23=ニューモバックスNP

PCV13 =プレベナー13

 

 

当診療所の場合、プレベナー13の接種希望で来院された方には、既往歴や年齢、一年間のエピソード、寝たきりの有無など生活背景を勘案した上で、やらないほうがよい(避けるべき)理由が特にみつからないのであれば実施するようにしています。

 

 

 

付記)どういった予防効果が期待できるのか(もう少し詳しい説明)

ニューモバックスNPの添付文書にある作用メカニズムには、以下の説明文があります。

肺炎球菌は、その莢膜によって体内での食菌作用から保護されており、肺炎球菌莢膜の構成成分であるポリサッカライド(多糖体)に対する抗体が菌体莢膜と結合すると、食菌作用が著しく増強され、菌は貪食される。本剤は抗原として23種類の肺炎球菌莢膜血清型ポリサッカライドを含む肺炎球菌ワクチンであり、本剤を接種することにより23種類の肺炎球菌莢膜血清型ポリサッカライドに対する抗体価が上昇し、感染防御能を増強すると考えられる。

 

簡単にいうと、ワクチンで得られた抗体が肺炎球菌の外膜(莢膜:しょうまく)にくっつくことで肺炎球菌を食べ込む細胞が活気づき、その都度駆除してくれるといったメカニズムです。

なお肺炎球菌は、この外膜(莢膜)自体が毒性および病原性に深く関係しているとされます。

 

 

一方のプレベナー13の添付文書にある作用メカニズムの説明文はわかりづらいため、以下の説明をしておきます。

このワクチンは、肺炎球菌の外膜(莢膜:しょうまく)に無毒性ジフテリア毒素という成分が結合しており、さらに抗原性補強成分を含んでいることから、結合型ワクチンと呼ばれます。このため外膜(莢膜)に反応するB細胞が活性化されて抗体が産生されるほか、免疫の司令塔でもあるT細胞も活性化されるため、記憶(メモリー)型B細胞が誘導されます。免疫記憶が成立した状態を確保することで、肺炎球菌が侵入してきたときに迅速な反応が期待されるといったメカニズムです。

また結合型ワクチンであるプレベナー13は、人体において肺炎球菌の上気道粘膜への定着を阻止する効果も報告されています。

 

 

目次

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