救えなかった理由 救えなくなった理由
(救命現場から 第4回)
- 高齢者の終末期
救命センターまで望まなくとも、重病人が救急搬送された場合、医師が多くいる病院では研修医を中心とした若手の医師が、ザーッと集まってきます。しかしいつからか、医療過疎ということばが生まれました。自治体立の病院が閉鎖した例を引くまでもなく、過疎地の医療は、どこも苦戦しています。医療スタッフの絶対的不足が、救えたかもしれない例を救えなくしています。
医師に関していえば、不足というより、著しい不均衡が、この20年で進みました。過疎地の病院に目を向けると中堅層が消え、年長者が居残っています。有能な若手医師は来ようとしません。
考えられるのは、制度やシステムの問題ですが、ここでは、それ以上触れないでおきます。
ともあれ首都圏と過疎地における医療事情に、ちがいがあるのは否めません。
さて、どういったケースが、CPA(心肺停止)で救急搬送されてきたか。
残念ながら、半分以上は溺死でした。溺れた場所は、旅館やホテルの大浴場が多く、次いで、岩場の海でした。
旅館やホテルの浴場は、夜にアルコールを飲んでその場に行ったというパターンが典型で、利用客よりは従業員が目立ちました。
海ではサーファーでなく、貝採り目的で潜ったまま、息絶えた例が多かったように思います。溺死以外だと、大半は高齢者でした。
数時間以上水没して身体が冷たくなっているような例を除けば、
CPAで病院に到着したケースに対して、やることは決まっています。
いわゆる救命蘇生のABCというもので、以下をいいます。
A(airway):気道の確保。エアウェイ使用や気管内挿管は、これをいう。
B(breath):呼吸管理。用手エアバックによる空気送り込みは、これをいう。
C(circulation):循環管理。心マッサージや血管確保は、これをいう。
ABCを施しても反応しない場合が、大半だったわけです。
死因を知るべく、全身のCT検査で肺に大量の水が映し出されている場合は、溺れて死亡する溺死パターンだったとわかります。脳血管障害が起こり、そこが浴場という場であったために、溺れたと想像された例も、あるにはありました。
ともあれ、肺に水が大量に吸い込まれて、5分以上も時間が経ってしまったら、都心の救命センターでも救えません。
神奈川県西圏域と呼ばれるエリアに属している湯河原と真鶴は、農村地区でもあり、海と山が近い町でもあります。
風光明媚で、温泉があるといった観光特性も、開放気分に浸りすぎると危ないといえます。